グローバル社会における英語の重要性と第二言語習得研究の必要性
21世紀の現代社会は、まさにグローバル社会と呼ぶにふさわしく、ビジネス、学術、文化など、あらゆる分野において国境を越えた交流が活発化しています。このような状況下、世界共通語としての地位を確立している英語の重要性は、ますます高まりを見せています。
国際通貨基金(IMF)の統計データによれば、2020年時点では日本は世界第3位の経済大国としての地位を保っていますが、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の予測によると、2050年にはインドやブラジルといった新興国の台頭を許し、世界第6位に転落する可能性も示唆されています。 グローバル社会において日本が競争力を維持し、国際社会で積極的に役割を果たしていくためには、国民一人ひとりの英語力の向上が喫緊の課題と言えるでしょう。
このような背景のもと、英語学習に対する関心はますます高まり、効果的な学習方法への需要もかつてないほどに高まっています。従来の経験則に基づいた学習方法ではなく、科学的な根拠に基づいた、より確実な英語習得方法へのニーズが高まっていると言えるでしょう。
英語学習の鍵を握るのが、第二言語習得研究(Second Language Acquisition: SLA research)です。SLA研究は、母語以外の言語を学習する過程を、心理学、言語学、教育学などの多角的な視点から分析し、そのメカニズムを解明しようとする学問分野です。 SLA研究は、学習者の年齢、学習環境、学習方法、動機づけ、学習スタイルといった多様な要因が、第二言語の習得にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としています。
第二言語習得研究に基づく体系的な解説
本書『英語学習のメカニズム:改訂版』は、近年のSLA研究の膨大な知見に基づき、効果的な英語学習の方法を、豊富な図表とともに明快に解説した書籍です。 2015年の初版出版以降、2020年、2021年と版を重ね、常に最新の研究成果を反映し続けている点も、本書の大きな魅力と言えるでしょう。
本書は、「グローバル社会」における英語教育の必要性を踏まえ、全7章で構成されています。
第1章「グローバル社会」の英語教育では、グローバル化が加速する現代社会における英語教育の現状と課題について考察し、第二言語習得研究の重要性を解説しています。
続く第2章「第二言語習得のプロセス」では、第二言語を習得する過程を、インプット、気づき、理解、インテイク、統合、アウトプットという6つの段階に分け、それぞれの段階における学習者の心理状態や行動を丁寧に解説しています。 さらに、第二言語習得研究の黎明期から提唱されてきた「対照分析仮説」や、現在では否定されているものの、学習者の誤用分析に大きな影響を与えた「中間言語」といった重要な概念についても、具体例を交えながらわかりやすく説明しています。
第3章「言語習得の第一歩:インプット」と第4章「言語習得の鍵:アウトプット」では、第二言語習得におけるインプットとアウトプットの重要性を、具体的な教材や学習方法、学習活動例などを提示しながら解説しています。 効果的なインプットにはどのような要素が必要なのか、アウトプットを促すためにはどのような学習活動が効果的なのか、といった英語学習者にとって極めて実践的な内容が、豊富な具体例とともに示されています。
第5章「言語学習をサポートする原動力:動機づけ」では、学習者の英語学習を支える原動力となる「動機づけ」について、SLA研究の観点から深く掘り下げています。 特に、学習者が英語学習を継続していく上で極めて重要な要素である「動機」と「動機づけ」の違いを明確に示し、さらに「動機づけ」を持続させるための具体的な方法について、豊富な図表を用いながらわかりやすく解説しています。
第6章「自律的な言語習得のために:学習方略」では、学習者が自ら主体的に学習を進めていくために必要不可欠な「学習方略」について解説しています。 学習方略は、メタ認知方略、認知方略、情意方略、社会的方略という4つのカテゴリーに分類され、それぞれのカテゴリーに属する具体的な方略を、実際の学習場面を想定しながら紹介しています。
最終章となる第7章「個性に合った学び方:学習スタイル」では、学習者一人ひとりの個性に最適化された学習方法の重要性を、学習スタイルという概念を通して解説しています。 従来型の画一的な学習方法では、学習者のモチベーションや学習効果に限界があることを指摘し、学習者一人ひとりの特性に最適化された学習スタイルを、効果的に発見し、活用していくことの重要性を説いています。
学習者、指導者、そして第二言語習得研究を志す人へ
本書『英語学習のメカニズム:改訂版』は、英語学習者のみならず、英語教育に携わる教育関係者、そして第二言語習得研究を志す者にとっても、多くの示唆を与えてくれる一冊です。
- 英語学習者は、本書を読むことで、第二言語習得に関する最新の研究成果に基づいた、効果的な学習方法を学ぶことができます。また、自分自身の学習プロセスを客観的に見つめ直し、自分に最適な学習方法を模索していくためのヒントを得ることができるでしょう。
- 英語教師は、本書から、学習者一人ひとりの個性や学習段階に合わせた、きめ細やかな指導を行うための知識や方法を学ぶことができます。 本書で紹介されているSLA研究の知見は、学習者の多様なニーズに応える、より効果的な英語授業をデザインしていく上で、必ずや貴重な指針となるでしょう。
- 第二言語習得研究者は、本書を、最新の研究動向を概観し、今後の研究課題を探求するための出発点として活用することができます。 本書で提示されているSLA研究の課題や展望は、この分野の更なる発展に貢献する、新たな研究の種を生み出す可能性を秘めていると言えるでしょう。
本書は、従来の英語学習書の枠組みを超え、第二言語習得研究の最新知見を踏まえたものであり、また効果的な英語学習のためにもなる一冊です。