言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか (中公新書 2756)

はじめに

私たち人間にとって、言葉はあまりにも身近で、その存在のありがたみを意識することは少ないかもしれません。しかし、言葉は、複雑な思考や感情を表現し、他者とコミュニケーションをとるための、かけがえのない道具です。

一体、言葉はどのようにして生まれたのでしょうか。

本書『言語の本質―ことばはどう生まれ、進化したか』 は、生まれたときから私たちに備わっている言葉という複雑なシステムの謎を解き明かそうとする、言語学の入門書です。

本書の構成:音、オノマトペ、子どもの言語習得、そして言語の変化

本書は、それぞれの章で、具体的な例を挙げながら、わかりやすく解説がなされています。特に、日本語のオノマトペの多様性や、動物の鳴き声との比較、子どもの言語習得過程など、興味深い話題が豊富に盛り込まれている点は魅力的です。

第1章「オノマトペとは何か」:オノマトペの世界を探検する

第1章では、まず「オノマトペ」という言葉の定義から始まり、その特徴や種類、そして他の言語表現との違いを明確化していきます。

オノマトペは、日本語話者にとって特に馴染み深い表現ですが、本書では、その多様性や、擬声語と擬態語の違いについて詳しく解説されています。 また、オノマトペが、文化や社会、歴史と密接に関係していること、そして感情表現において重要な役割を果たしていることを指摘し、言語におけるオノマトペの重要性を示唆しています。

第2章「アイコニック性—形式と意味の類似性」:音と意味の不思議な関係

第2章では、音象徴性オノマトペの概念をさらに掘り下げ、その本質に迫ります。具体的な例を挙げながら、音と意味の間に自然な結びつきがあることを示し、そのメカニズムの一端を解き明かそうとしています。 日本語におけるオノマトペの多様性を、音韻音調形態などの面から分析し、その奥深さを改めて認識させられます。

第3章「オノマトペは言語か」:動物のコミュニケーションとの比較を通して

第3章では、これまでの章で解説してきたオノマトペが、本当に言語と言えるのかという根本的な問いを投げかけます。 動物の鳴き声との比較や、言語の普遍的な特徴との比較を通して、オノマトペの言語としての位置付けを考察しています。 この章では、人間の言語能力の特殊性、そして言語と文化・社会の密接な関係について改めて考えさせられます。

第4章「子どもの言語習得1—オノマトペ偏論」:驚異的な言語習得能力

第4章では、子どもの言語習得過程に焦点を当て、オノマトペの習得プロセスから言語獲得のメカニズムを探ります。 幼児がどのように言語を理解し、そしてどのように言葉を話し始めるのか、具体的な事例を交えながら解説されています。 この章を読むと、子どもが驚くべき速さで言語を習得していく過程を目の当たりにし、人間の脳の柔軟性と可能性を感じずにはいられません。

第5章「言語の変化」:生き物のように変化し続ける言葉

第5章では、言語が時代とともに変化していく過程を、様々な角度から解説しています。 オノマトペの変化、外来語の影響、若者言葉の流行など、身近な例を挙げながら、言語が常に変化し続けるものであること、そしてその変化が、社会や文化と密接に関係していることを示しています。 この章を読むと、言葉は生き物のように変化していくものであることを実感できます。

まとめ:言葉の奥深さを体感できる一冊

本書は、一見難解に思える言語学を、身近なオノマトペを題材に、図やイラストを交えながら、わかりやすく解説した一冊です。 言語の起源や進化に興味のある方はもちろんのこと、言葉について改めて深く考えたい方にもおすすめです。本書を読了した後には、きっと、何気なく使っている言葉の見方が変わっていることでしょう。

 

By 吉成 雄一郎

東海大学教授。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。東京電機大学教授を経て現職。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語e ラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているe ラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAI による新しい教育システムの開発にも着手している。