この度出版されたWhat is CLIL? – An Introduction for New Teachersは、CLIL教育に関心のある、またはこれから実践しようとする全ての教育関係者に強くお勧めできる一冊です。近年、グローバル化が加速する社会において、複数の言語を操り、異文化理解を深めることの重要性はますます高まっています。CLILは、まさにこのような時代の要請に応える革新的な教育アプローチとして、世界中で注目を集めています。
本書は、CLILの基礎から実践、そして未来展望までを網羅しており、CLILについて体系的に学ぶことができる内容となっています。特徴的なのは、単なる理論の説明に留まらず、豊富な事例や実践的なヒント、そして最新の教育技術の活用法までを紹介している点です。これにより、読者はCLILに対する理解を深めると同時に、実際に教室でどのようにCLILを実践すれば良いのか、具体的なイメージを掴むことができます。
本書の構成と内容
本書は全11章で構成されており、CLILの定義、理論的背景、従来の言語教育との比較、カリキュラムデザイン、教師の役割、テクノロジー活用、課題と解決策、将来展望、参考資料、そしてCLIL用語集といった、CLILを実践する上で知っておくべき essential な知識が網羅的に解説されています。
第1章「CLILとは何か」では、CLILの定義、歴史、そして現代教育における意義について解説されています。CLILは、内容学習と外国語学習を統合することで、生徒の言語能力と学習内容の理解を同時に高めることを目的とした教育アプローチです。従来の外国語学習のように、言語のみに焦点を当てるのではなく、他の教科の学習を通して、実践的な言語運用能力を育成することを目指しています。 例えば、スペインの学校で英語で物理の授業を行う場合、生徒は物理の知識を習得すると同時に、英語の運用能力も高めることができます。
第2章「CLILの理論的基礎」では、バイリンガリズムと多言語主義、バイリンガリズムの根拠となる理論、バイリンガル教育の認知的利点、CLILに関連する第二言語習得の原則について解説されています。CLILは、第二言語習得に関する様々な理論に基づいており、生徒の認知能力の発達にも貢献することが示唆されています。 例えば、「相互依存仮説」は、母語の知識やスキルが第二言語の習得に転移するという考え方を示しており、CLILにおいても、生徒の母語の基礎力が重要視されています。 また、「入力仮説」は、生徒が現在の言語レベルよりも少し難しいレベルの「理解可能な入力」に接することで、効果的に言語を習得するという考え方を示しており、CLILでは、生徒にとって挑戦的でありながらも理解可能な内容を扱うことが重要となります。
第3章「CLILと従来の言語学習」では、従来の言語学習の特徴とCLILの特徴を比較し、それぞれのメリットとデメリットについて考察しています。従来の言語学習は、文法を中心とした授業になりがちで、生徒は断片的な知識を習得する傾向にありますが、CLILは、生徒が実際の場面でどのように言語が使われているのかを理解し、実践的なコミュニケーション能力を身につけることを重視しています。 例えば、従来の英語の授業では、「光合成」という単語とその翻訳を学ぶだけかもしれませんが、CLILの授業では、光合成のプロセス全体を理解し、英語で説明できるようになることを目指します。
第4章「CLILの主要な要素」では、CLILの4つのC(内容、コミュニケーション、認知、文化)の枠組み、内容指導における言語の役割、内容と言語学習を統合する方法について解説されています。CLILは、単に外国語で教科を教えるだけでなく、内容、コミュニケーション、認知、文化の4つの要素を統合することで、生徒の包括的な学習を促進します。 例えば、「天気のパターン」という単元では、「嵐」「降水量」「湿度」などの語彙、未来予測の文法(例:「雨が降るだろう」)、そして水循環の理解といった内容を統合して学習します。
第5章「CLILカリキュラムのデザイン」では、ニーズ分析、明確な目標設定、適切な内容とテーマの選択、指導のscaffolding、多様な評価方法の導入、アクティブラーニング戦略の促進、文化の統合、継続的なフィードバックと適応、そして教員の専門能力開発といった、CLILカリキュラムを設計する上で重要な要素について解説されています。CLILカリキュラムをデザインする際には、生徒の言語レベル、学習内容に対する事前知識、そして学習スタイルを把握することが重要です。 また、内容目標と言語目標を明確に設定し、生徒の興味関心を引くような内容を選択する必要があります。
第6章「CLILにおける教師の役割」では、CLIL教師は、内容の専門家であると同時に、言語学習を促進する役割も担っており、生徒にとって安全で安心できる学習環境を構築することが求められます。また、生徒のレベルに合わせた指導を行い、生徒の意見に耳を傾け、生徒同士の交流を促進し、常に学び続ける姿勢を持つことが重要であるとされています。 CLIL教師は、単なる知識の伝達者ではなく、生徒の包括的な成長を支援する存在として、重要な役割を担っています。
第7章「CLILにおけるテクノロジー」では、インタラクティブホワイトボード、言語学習アプリ、VR/AR、動画プラットフォーム、オンラインコラボレーションツール、デジタル評価プラットフォーム、ポッドキャストとオーディオブック、電子書籍とデジタル図書館といった、CLILで活用できるテクノロジーについて紹介しています。テクノロジーは、生徒の学習意欲を高め、内容と言語の理解を深めるための有効なツールとなりえます。
第8章「CLILの課題への取り組み」では、言語の壁、生徒の習熟度の差、言語と内容のどちらかに偏った指導、文化への配慮不足、教師の指導力不足、教材不足、そして生徒の抵抗といった、CLIL実践における課題と解決策について解説されています。CLILを実践する上では、様々な課題に直面することが予想されますが、これらの課題を克服するために、様々な取り組みが行われています。
第9章「CLILの未来」では、教育段階全体への導入、テクノロジーとの統合、教師トレーニングプログラムの充実、カスタマイズされたカリキュラム開発、多言語化、文化リテラシーへの重視、そしてオンラインCLILモデルの普及といった、CLILの将来展望について考察しています。CLILは、今後ますます発展していく可能性を秘めた教育アプローチであり、世界中の教育関係者から注目されています。
第10章「CLIL導入のためのリソース」では、書籍、学術雑誌、ウェブサイト、カンファレンス、専門機関、ソフトウェア、オンラインコースといった、CLILに関する情報を収集できるリソースを紹介しています。これらのリソースを活用することで、CLILに関する最新の情報や実践事例を学ぶことができます。
第11章「結論」では、CLILは、内容学習と外国語学習を統合することで、生徒の学習意欲を高め、深い学びを促進する効果的な教育アプローチであると結論付けています。CLILは、現代社会における教育の在り方を問い直す、重要なキーワードと言えるでしょう。
付録
本書には、CLIL授業のサンプルプラン、評価テンプレート、CLILに適したEdTechツールのリスト、CLILの実践事例、世界各地のCLILトレーニングセンター、そしてCLIL関連用語集といった、CLILを実践する上で役立つ情報が豊富に掲載された付録も用意されています。 特に、サンプルプランは、具体的な授業展開や活動内容が詳しく紹介されており、CLIL教師にとって参考になるでしょう。
まとめ
What is CLIL? – An Introduction for New Teachersは、CLILについて学びたい、またはCLILを実践したいと考えている全ての教育関係者にとって、必携の一冊と言えるでしょう。本書は、CLILの基本的な考え方から実践的な指導方法、そして将来展望までを網羅しており、読者はCLILに対する理解を深めるとともに、CLILを実践するための具体的な方法を学ぶことができます。CLILは、これからの時代に必要とされる、真の国際人を育成するためのカギとなる可能性を秘めています。本書を手に取り、CLILの exciting な世界に触れてみてはいかがでしょうか。