オンライン授業が当たり前になった今、教員と学生の関係はどう変わるのか。そして人工知能(AI)はその関係にどんな影響を与えるのか。本稿で取り上げる論文 “The Impact of Artificial Intelligence on Learner–Instructor Interaction in Online Learning”(Seo et al., 2021)は、まさにその問いに真正面から向き合った研究です。著者のKyoungwon Seoはソウル科学技術大学応用人工知能学部に所属し、Joice TangおよびDongwook YoonはブリティッシュコロンビアW大学コンピュータサイエンス学科、Ido RollはテクニオンイスラエPl工科大学教育学部、Sidney FelsはブリティッシュコロンビアW大学電気・コンピュータ工学科の研究者です。それぞれ教育技術、人間とコンピュータのインタラクション(HCI)、AIと学習分析という異なる専門性を持つ研究者たちが集結して取り組んだ学際的研究であることが、この論文の大きな特徴のひとつです。

なぜ今、AIと教員・学習者の関係なのか

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界中の教育機関が一夜にしてオンライン授業へと移行しました。日本でも同様で、大学教員が慣れないZoomやMoodleと格闘しながら授業を配信し、学生はカメラを切ったまま自室のベッドの上で講義を受けるという光景が一般化しました。そのような状況の中で、教員と学生の「つながり」がどれほど失われたか、肌で感じた方も多いのではないでしょうか。

本研究が問題提起するのは、そのような文脈でAIを活用することの可能性と危うさです。AIはすでに教育の現場にじわじわと浸透しています。自動採点システム、アダプティブラーニング(個別最適化された学習支援)、チャットボット型の教育アシスタント、学習分析ツールなど、その種類は多岐にわたります。しかし、こうしたAIシステムが教員と学習者の関係性に何をもたらすのかについての実証的・定性的研究は、驚くほど少ない状態でした。本論文はその空白を埋めようとする、意義深い挑戦です。

「スピードデーティング」という斬新な研究手法

本研究の方法論的なユニークさは、「スピードデーティング(Speed Dating)」と呼ばれるデザイン手法を採用したことにあります。これは本来、出会いの場で複数の相手と短時間ずつ会話をするあの「スピードデーティング」から着想を得た研究手法で、参加者がさまざまなAIシステムのシナリオ(絵コンテ=ストーリーボード)を順番に経験しながら、それぞれの印象や懸念を語るものです。実際にAIシステムを実装・体験させるのではなく、仮想シナリオを通じて多様なAIの使用場面を疑似体験させることで、技術的な先入観なしに率直な意見を引き出せるという利点があります。

研究チームは最初にHCIの専門家6名によるブレインライティングを行い、オンライン学習に関連する可能性のある11のAIシステムのシナリオを設計しました。さらに6名のAI専門家へのインタビューを通じてシナリオの技術的実現可能性を検証した上で、最終的に12名の学生と11名の教員を対象にスピードデーティングを実施しました。学生は経済学・生物学・社会学・コンピュータサイエンスなど11の異なる専攻から、教員は政治学・中国語・物理・化学・コンピュータサイエンスなど9の異なる科目から幅広く招集されており、多様性への配慮が感じられます。

11のシナリオには、AIが繰り返し質問に回答する「AIティーチングアシスタント」、感情的サポートを行う「AIコンパニオン」、課題採点を補助する「AIグレーディングアシスタント」、学習データを分析する「AIアナリティクス」、仮想アバターで表情・身体言語を伝える「バーチャルアバター」、顔の表情を解析して感情を推定する「AI顔面分析」などが含まれており、オンライン学習における教員・学習者インタラクションの三要素である「コミュニケーション」「サポート」「プレゼンス(存在感)」という枠組みで整理されています。この枠組みはKang and Im(2013)の学習者・教員インタラクションの五因子モデルに基づいており、理論的な基盤がしっかりしている点も評価に値します。

AIへの期待―コミュニケーション量と質の向上

研究から得られた知見は大きく二面性を持っています。まずAIへの期待として、コミュニケーションの量と質の向上が挙げられます。オンライン授業では、学生は「愚問と思われたくない」「他の学生の前で恥をかきたくない」という心理から質問を躊躇することが多いと言われています。この論文でも学生からは、AIに質問することで「教員の時間を無駄にしているという罪悪感がない」「AIは自分を馬鹿にしない」というコメントが相次ぎました。実際、調査に参加した12名全員が、AIシステムによって質問する回数が増えると回答しています。

日本の英語教育の現場でもこれは深く共鳴する話です。日本の学生の多くは、特に外国語でのやり取りに強い恥の意識を持っています。授業中に英語で質問することへのハードルは、内容への不安だけでなく「失敗を見られたくない」という文化的な心理的抵抗も含んでいます。もしAIのチャットアシスタントが授業に組み込まれ、匿名で英語の質問を受け付けてくれるとしたら、多くの学生にとってそれは実質的な言語使用量の増加につながる可能性があります。

教員側も同様に、AIによって繰り返し質問への対応という「雑務」が軽減され、より実質的なフィードバックや対話に集中できるという期待を語っています。授業設計や学生との深い対話に使える時間が増えることは、多くの教育者が望んでいることでしょう。

AIへの警戒―責任・自律性・監視という三つの問題

しかし本論文の真骨頂は、こうした期待の裏側にある懸念を丁寧に掘り起こした点にあります。研究者たちが見出した三つの問題領域は、「責任(Responsibility)」「自律性(Agency)」「監視(Surveillance)」です。

まず責任の問題です。AIが回答した内容が間違っていた場合、誰がその責任を負うのか。学生の一人は「AIが間違った答えを教えてくれて、その通りにしたら採点で減点された。そのとき誰に文句を言えばいいのか」という懸念を表明しました。AIの「ブラックボックス」性、つまりなぜそのような答えが出てきたのかが不透明であることが、信頼と受容の大きな障壁となっています。これは教育AI全般に関わる根本的な課題であり、研究者たちは「説明可能なAI(Explainable AI)」の設計が不可欠だと主張します。

次に自律性の問題です。AIによるサポートが手厚すぎると、学生は自ら考えることをやめてしまうのではないか。学生の一人はAIによる学習支援を「ヘリコプターペアレント」に例えました。AI群衆の介入があると、「失敗から学ぶ」「自分のペースで探求する」という経験が失われるという懸念です。教員側からも「学生のプロジェクトはてんでバラバラだからこそ意味がある。AIが過去データに基づいて方向性を統一してしまえば、創造性が失われる」という声が上がっています。

そして最も鋭い指摘が「監視」の問題です。AI顔面分析(シナリオ11)は教員が学生の表情をリアルタイムで把握するためのシステムですが、これに対して学生12名全員が不快感を示しました。「自分の目がどこを見ているかなんて、自分でもわからない」「思わず笑顔を作って高いエンゲージメントスコアを稼ぐことになるかもしれない」という反応は示唆的です。教員側も同様で、AIが学生の社会的インタラクションを解釈することへの違和感を示しました。AIによる「見えない目」の存在が、本来は自由であるはずの学習空間を圧迫する可能性があります。

バーチャルアバターと顔面分析の「境界線」

興味深いのは、学生がバーチャルアバター(シナリオ9)には概ね好意的であった一方で、AI顔面分析(シナリオ11)には強い拒否反応を示したという点です。この差は何を意味するのでしょうか。

バーチャルアバターは自分の顔を映さずに、自分の表情や身振りをアバターとして伝えるシステムです。つまり学生が「見せる情報をある程度コントロールできる」という感覚があります。一方、AI顔面分析は学生の「無意識の行動」を測定し、それを教員に伝えます。自分でコントロールできない行動が勝手に解析・報告されることへの抵抗感は根深いものがあります。論文はこの「意識的な行動と無意識の行動の境界線」を、AIが侵害してはならないプライバシーの閾値として位置づけています。

日本の教育文化的文脈で考えると、これはさらに重要な意味を持ちます。日本では「空気を読む」ことが重視され、表情や態度による非言語コミュニケーションが豊かな意味を持っています。それを外部のアルゴリズムが機械的に解析・スコア化することへの違和感は、日本の学生や教員にとっても強く感じられるはずです。

英語教育現場への示唆

本研究の知見は、日本の英語教育の実践にも多くの示唆を与えます。第一に、AIチャットボットや自動フィードバックシステムの導入は、特に恥の文化が強い環境での言語使用促進に有効である可能性があります。ただし、そのAIの応答が説明可能で、信頼性の担保された設計になっていなければ、誤情報の拡散という逆効果をもたらします。

第二に、アダプティブ学習システムを英語教育に組み込む際には、「どこまでAIに任せるか」という線引きが重要です。語彙や文法の反復練習はAIに適していますが、エッセイライティングや議論・発表といったタスクにAIが過剰関与すれば、学習の本質が失われます。学生が自らの「言葉」で格闘する経験こそが、言語習得の核心です。

第三に、学習分析データの活用には倫理的な設計が求められます。学習行動ログを教員が把握することは有用ですが、学生がそれを「監視」と感じた瞬間に、学習環境の安全性は損なわれます。データ収集の透明性と、学生が情報開示の範囲をコントロールできる仕組みが必要です。

関連研究との対比と独自性

関連する先行研究として、Goel and Polepeddi(2016)によるAIティーチングアシスタント「Jill Watson」の開発や、Roll and Wylie(2016)による教育AIの展望論文が挙げられます。しかしこれらの研究は主にAIシステムの機能的有効性に焦点を当てており、教員・学習者インタラクションという関係性の側面に踏み込んだ研究はほとんどありません。本論文のオリジナリティはまさにそこにあります。

また、Zawacki-Richterら(2019)の系統的レビューが「教育AIの倫理的影響に関する批判的考察が不足している」と指摘していた点を、本論文は実証的に補完しています。理論的枠組みとしてKang and Im(2013)の学習者・教員インタラクションモデルを用いることで、従来のAI研究と教育インタラクション研究を橋渡しする役割を果たしています。

一方で本論文にも限界があります。対象者が23名と少数であること、実際にAIと直接インタラクションした経験に基づく評価ではなくシナリオベースの評価であること、参加者がカナダのブリティッシュコロンビア大学に偏っていることなどは、一般化可能性を制限する要因です。特にアジア圏の学習文化や日本の英語教育への直接の適用には、文化的・制度的な文脈を踏まえた追加研究が必要です。

「人間を輪の中に」という設計哲学

本論文が提案する三つの設計原則「説明可能性(Explainability)」「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)」「データ収集と提示の慎重な設計」は、今後の教育AIの開発指針として非常に示唆的です。特に「ヒューマン・イン・ザ・ループ」という考え方は重要で、AIが自動的にすべての意思決定を行うのではなく、教員や学生が判断プロセスに関与し続けるような設計を求めるものです。Baker(2016)が言うところの「愚かなチュータリングシステムと賢い人間の組み合わせ」という発想とも通じています。

これは単なる技術論ではなく、教育の本質に関わる哲学的問いでもあります。教師が教師であるのは、単に情報を伝達するからではなく、学習者と関わり、励まし、時に背中を押し、時に立ち止まらせることができるからです。AIはその代替にはなりえませんが、教師の力を増幅する道具にはなりえます。その増幅が健全に機能するためには、透明性・信頼性・そして人間の主体性の確保が前提条件となります。

コロナ禍を経て、教育のデジタル化は後戻りしない流れとなりました。日本でもGIGAスクール構想のもと、一人一台端末が整備され、教育AIの活用が急速に進んでいます。しかし技術の普及が倫理的・実践的な考察を追い越してしまうとき、現場に混乱と不信が生まれます。本研究はそのような状況への警鐘として、そして建設的な処方箋として、非常に時宜を得た貢献をしていると評価できます。

AIを導入することで教育がより豊かになるかどうかは、結局のところ、教師と学生が互いにどのような関係を築きたいかという根本的な問いに戻ってきます。本論文はその問いを、具体的なデータと緻密な分析を通じて、改めて私たちの前に突きつけてくれます。それこそが、この研究の最大の価値と言えるでしょう。


Seo, K., Tang, J., Roll, I., Fels, S., & Yoon, D. (2021). The impact of artificial intelligence on learner–instructor interaction in online learning. International Journal of Educational Technology in Higher Education, 18(1), Article 54. https://doi.org/10.1186/s41239-021-00292-9

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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