英語のテストに出てくる文章には、さまざまな「型」があります。旅行案内もあれば、科学的な説明文もあり、誰かの人生を語る伝記もある。そうした文章の「型」―すなわちジャンル―を意識して読むことが、読解力を高めるうえで非常に重要だということは、言語教育の専門家の間では広く認識されています。では、中国の大学入試英語テスト(National Matriculation English Test、以下NMET)には、実際にどのようなジャンルの文章が出題されているのでしょうか。Wang DongとZhexi Yeによるこの論文は、まさにその問いに正面から向き合った研究です。

著者のWang DongとZhexi Yeは、江蘇科技大学(Jiangsu University of Science and Technology)の外国語学院に所属する研究者です。本研究は江蘇省の大学院研究・イノベーションプロジェクト(Grant Number: KYCX24_4059)の助成を受けており、2025年にSAGE Open誌に掲載されました。両者は共同筆頭著者として、2004年から2023年までの20年間にわたるNMETの読解問題、計240本の文章を分析するという、規模としても期間としても意欲的な研究に取り組んでいます。

中国の大学入試がもつ社会的な重さ

日本でも「センター試験」から「共通テスト」への移行が話題になりましたが、中国における大学入試―いわゆる「高考(ガオカオ)」―は、その規模と社会的影響力において、さらに桁違いです。毎年約1,000万人の受験生が挑むこの試験は、高等教育への進学をほぼ一手に担う選抜制度であり、その結果が人生に与える影響は計り知れません。

NMETはその必須科目として、高校英語教育の方向性を実質的に決定づける力を持っています。いわゆる「washback effect(波及効果)」と呼ばれる現象です。テストに出るものは教室で教えられ、出ないものは後回しにされる。これは日本の英語教育関係者にとっても他人事ではない話でしょう。NMETの読解問題に何が出て、何が出ていないかを精査することは、中国全土の高校英語教育の現状を映す鏡となるのです。

NMETの読解セクションは総得点の40%以上を占めるとされており、その重要性は突出しています。中国では日常生活における英語使用の機会が限られているため、教科書や試験問題が、学習者にとってほぼ唯一の「本物の英語」に触れる場となっています。だからこそ、どのようなジャンルの文章が選ばれるかは、学習者の英語力の形成に直接関わる問題なのです。

SFL(システム機能言語学)に基づくジャンル分類の枠組み

本研究が拠り所とするのは、Systemic Functional Linguistics(システム機能言語学、SFL)の「マイクロ・ジャンル」という概念です。Hallidayらに端を発し、Jim Martinらによって発展させられたこの理論では、テクストは社会的・文化的な目的を達成するための「段階的・目標指向的な社会的プロセス」として捉えられます。Martin and Roseの2008年の著書Genre Relations: Mapping Cultureでは、物語(stories)、歴史(histories)、報告(reports)、説明(explanations)、手順(procedures)などのマイクロ・ジャンルが体系的に整理されています。

Wang and Yeはこの枠組みを基盤にしつつも、中国の高校英語カリキュラム基準(2017年版・2020年改訂版)を参照し、実用的エッセイ(practical essays)や会話(conversations)というカテゴリーを独自に追加しました。これは、NMETの問題には求人広告や旅行案内のような実社会に根差した文章も含まれており、それらがMartin and Roseの枠組みにはなじまないからです。この対応は、理論の単純な援用に終わらず、現場のデータに即して枠組みを柔軟に修正するという、実証研究として堅実なアプローチといえます。

分析の手続きとしては、まず各文章の目的と構造的段階に基づいて第一次分類を行い、続いて修正後の枠組みで再評価するという二段階の手続きが採られています。二名の評価者による独立した分類と評価者間信頼性スコアの算出、専門家への照合なども実施されており、分析の信頼性・妥当性には十分な配慮がなされています。

「物語」の圧倒的優位と、その裏にある問題

分析の結果、NMETの読解問題には全部で9つのマイクロ・ジャンルが確認されました。stories(物語)、histories(歴史)、explanations(説明)、procedures(手順)、reports(報告)、arguments(議論)、text responses(テクスト応答)、practical essays(実用的エッセイ)、そしてconversations(会話)です。一見、バラエティ豊かに見えますが、問題はその分布の極端な偏りにあります。

最も多く出題されたのはstoriesで、全体の25%を占め、調査対象のすべての年度のテストに登場しています。一方で、argumentsは8.33%、text responsesにいたってはわずか3.75%、conversationsは2.08%にすぎません。storiesが毎回必ず出題され、高い割合を占める一方で、論理的・批判的な思考を要する議論系のジャンルが著しく少ないという構造的な偏りが浮き彫りになりました。

storiesの中でもrecountとanecdoteが多く、narrativeとexemplumは少数派です。つまり、「何かが起きた」「どんな気持ちだった」という経験の語りが中心で、「問題が生じ、解決された」という構造を持つナラティブや、「行動・性格を評価する」エグゼンプラムはあまり問われていないのです。たとえるなら、物語の味見はできるけれど、そのもっとも滋味深い部分には触れていない、という状況に近いかもしれません。

argumentsの内訳を見ると、expositionが75%を占め、discussionは25%にとどまります。一つの立場を論じるexpositionに比べ、複数の立場を比較・検討するdiscussionは圧倒的に少ない。多角的な視点を持ち、根拠を評価し、結論を自分で導く力―いまや国際的に重視される「批判的思考力」―を鍛える機会が限られているということです。

20年間のトレンドが示すもの

Figure 1(本論文掲載の図)は、各ジャンルの出題数の年次推移を示しています。これを見ると、いくつかの興味深い傾向が浮かびあがります。storiesは一貫して出題され続けており、2021年には急増したものの、その後は減少しています。proceduresは近年急増傾向にあり、practical essaysは2014年以降安定して出題されています。

注目すべきは、argumentsとtext responsesが2023年の試験で増加しているという点です。argumentsは2018年以前にはほとんど出題されておらず、text responsesはさらにまれでした。この変化は、試験設計者が批判的思考力の育成を意識し始めた証左と読み取れます。方向性としては歓迎すべき変化ですが、それが一時的なものなのか、構造的な転換なのかは、今後の動向を注視する必要があります。

過去の研究との対比も興味深いです。Dong(2010)が2003年から2009年のNMETを分析した研究では、argumentsが最も多く、practical essaysが最も少ないという真逆の結果が報告されていました。同じ試験でありながら、時代によってジャンル構成がここまで変化するというのは、試験が社会の要請や教育政策の変化を反映していることを示しています。一方で、Wang and Yeの分析では、expostitory textsに相当するexplanationsとreportsの比率が、先行研究(Gu and Wang, 2008; Peng et al., 2017; Li, 2021)と比べて低い結果となっています。これは分析枠組みの違いや対象期間の差異によるものと考えられますが、研究の比較可能性という観点からは、方法論の統一が今後の課題といえるでしょう。

「compositional report」の不在が意味すること

本論文が指摘するもう一つの重要な点は、reportsカテゴリーにおいて、descriptive report(95.24%)が圧倒的を占める一方で、compositional reportがまったく見当たらなかったという事実です。Martin and Rose(2012)の枠組みでは、compositional reportは物事の構成要素や部分と全体の関係を記述するジャンルです。科学的・技術的な文脈でよく使われるこのジャンルが欠落していることは、NMETの読解問題が扱うテーマの偏りを反映しているとも言えます。

科学的な読み物がないわけではありません。しかし、それらが現象を「分類・記述」するdescriptive reportに偏っており、構造を「分解・関係付け」するcomposional reportが含まれていないということは、より複雑な情報処理を要求するテクストへの露出が不足していることを意味します。学術的な読み書きに必要な、論理の構造を掴む力を育てるためには、このようなジャンルへの接触も必要なのです。

日本の英語教育への示唆

日本の英語教育関係者にとって、この研究はいくつかの点で示唆に富んでいます。まず、テストのジャンル構成が教育実践に与える影響について、改めて考えさせられます。日本の共通テストにおける英語の読解問題も、近年大きく変化し、広告や表、複数の文書を組み合わせた問題など、多様なジャンルが取り入れられるようになっています。しかし、それらが教室での指導にどの程度反映されているか、そしてそのジャンルの偏りはどうなっているか、という分析は、日本ではまだ体系的に行われていないように思われます。

本研究が示すような「ジャンル意識」は、教師が読解指導を行う際の重要な視点となりえます。単に「文章を読んで問題を解く」という練習から一歩踏み出し、「この文章はどのような社会的目的のために書かれたのか」「どのような構造的段階を持つのか」という問いかけを授業に組み込むことで、生徒の読解方略は格段に豊かになります。これはRose and Martin(2012)が提唱するReading to Learn(R2L)の発想とも一致しており、読むことと書くことを有機的につなぐアプローチとして注目されています。

また、argumentsやtext responsesのような批判的思考を要するジャンルが試験に少ないという指摘は、日本にとっても考えさせられる問題です。「著者の意図や態度を読み取る」スキルが問われる機会が少なければ、生徒がそうした力を伸ばすインセンティブも弱まります。高校英語の授業で論説文を読んで意見を述べさせる活動が少ない現状は、試験の構成とも無関係ではないでしょう。

研究の評価と限界

本研究の強みは、20年という長期にわたるデータを体系的に分析し、NMETの読解問題のジャンル構成を包括的に明らかにした点にあります。理論的枠組みとしてSFLのマイクロ・ジャンルを採用し、それを実際の試験問題に適用することで、抽象的な理論を具体的な教育実践に橋渡しする試みも評価できます。さらに、既存の枠組みを中国の教育文脈に合わせて修正するという柔軟な姿勢も、研究の説得力を高めています。

一方で、いくつかの限界も指摘されています。著者自身も認めるように、学習者へのインタビューや質問紙調査といったエスノグラフィックなアプローチが欠如しているため、ジャンルの偏りが実際の学習にどのような影響を与えているかは不明です。また、分析対象がuniformed NMETの論文に限定されており、地方独自の試験紙が含まれていないことも、データの代表性に関する課題を残しています。中国の広大な地域ごとに教育格差が存在する中で、均一な試験問題だけを見ていると、地方の実情が見えにくくなる恐れがあります。

加えて、Table 2に示された数値に若干の疑問があります。たとえばHistoriesの欄に「17.92」という数値が記載されていますが、Procedures(10.42)やPractical essays(8.75)との関係で考えると、数値と記述内容に整合しない部分が散見されます。論文の本文ではProceduresとPractical essaysが「第二に多いジャンル」として17.92%と15%と記述されており、表の数値とのずれが生じているように見受けられます。これは誤植の可能性もありますが、査読プロセスでの精査が望まれる点です。

また、本研究はジャンルの「量的分布」を分析しているが、各ジャンルのテクスト難易度や問いの認知的要求レベルとの関係までは踏み込んでいません。たとえば、storiesが多いからといって、問いが易しいとは限りません。難しい問いが「物語」という親しみやすいジャンルに乗せて出題されることもあり得ます。ジャンル分析と問いの認知的水準分析を組み合わせることで、さらに精緻な評価が可能になるでしょう。

教育への提言―バランスある読解環境のために

本論文の結論として提示される三つの示唆は、シンプルでありながら実践的です。第一に、ジャンル意識を高める指導の重要性。第二に、教師が一部の頻出ジャンルだけに集中しないよう、多様なジャンルを取り入れた授業設計を行う必要性。そして第三に、試験設計者がジャンルの偏りを是正し、批判的思考を問う文章を積極的に取り入れるべきだという提言です。

これは決して非現実的な要求ではありません。実際、本研究が示すように、近年のNMETでは徐々にジャンルの多様化が進んでいます。その変化をさらに加速させ、意識的に設計することが求められているのです。試験というものは、出題者の意図とは別に、受験者や教師の行動に強力な影響を与えます。だからこそ、そこに含まれる文章の「型」を精査し、それが教育的に適切かどうかを問い続けることは、学力評価の公正性と教育の質の向上にとって不可欠な営みといえます。

日本でも、英語教育改革の議論が続く中、「どんな力をつけたいのか」という目標と、「どんな文章を読ませるか」というジャンルの問題は、切り離せない関係にあります。Wang and Yeのこの研究は、中国という隣国の事例を通じて、私たち日本の英語教育関係者が自国のテストや授業を振り返るための、有益な問いかけを与えてくれています。大がかりな制度改革よりも先に、まず「今、どんなジャンルの文章を読ませているか」を問うことから、教育の改善は始まるのかもしれません。


Wang, D., & Ye, Z. (2025). Genres of reading comprehension passages in Chinese Mainland National Matriculation English Test (NMET): A systematic analysis of the last twenty years (2004–2023). SAGE Open, 15(1), 1–13. https://doi.org/10.1177/21582440251323524

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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