英語教育に携わっていると、教室の中で「特別な配慮が必要な生徒」に出会う場面は少なくありません。読み書きに困難を抱える生徒、聴覚に障害のある生徒、あるいは試験中に体調が安定しない生徒。そうした生徒たちが、学力を正しく測られているのかどうか、という問いは、現場の教師なら一度は胸に浮かべたことがあるはずです。この問いに正面から向き合ったのが、Lynda Taylor(University of Bedfordshire)とJayanti Banerjee(Trinity College London)が編集した、学術誌Language Testingの2023年特集号「言語テストと評価における配慮措置―公平性・アクセス・インクルージョンの保護」です。

Taylorは言語テストの分野で長年にわたって研究と実践に貢献してきた研究者であり、ケンブリッジ大学英語検定局(Cambridge ESOL)での実務経験も持ちます。BanerjeeはTrinity College Londonで言語評価の研究・開発に従事し、公正な評価のあり方について理論と実践の両面から貢献してきた人物です。この二人が手を組んで特集号を組んだこと自体、このテーマの重要性を象徴しています。

本稿はこの特集号の巻頭言(Editorial)を中心に、その内容と意義を批評的に検討するものです。

40年間で12本未満―この数字が語るもの

Language Testingは1984年の創刊以来、言語テスト分野を代表する学術誌として250本以上の論文を掲載してきました。ところが、障害や特別な事情を持つ受験者への「配慮措置(accommodations)」に関する論文は、40年間でわずか12本未満だったと著者たちは指摘しています。これは驚くべき数字です。

比較として示されているのは、2022年の特集号「Local tests, local contexts」への投稿が104本だったという事実です。それに対し、今回の特集号への初期提案(proposal)はわずか15本でした。テーマへの関心の薄さというよりも、研究を行う際の困難さがその背景にあると著者たちは分析しています。

その困難さとは何か。まず、配慮措置を申請する受験者の絶対数が少ないため、量的研究に必要なサンプルサイズを確保しにくいという問題があります。さらに、障害の種類によって必要な配慮は異なるため、「視覚障害者用の大きな文字」「ディスレクシア(読み書き障害)向けの延長時間」などと細分化すると、分析対象はほぼゼロに近くなってしまう。まるで虫眼鏡で見ても何も映らない、というような状況です。Language Testing誌がこれまで量的研究を重視してきたことも、この分野の研究が育ちにくい土壌を作ってきた一因と言えるでしょう。

一方で著者たちは、小規模コホートこそが質的・混合的研究手法に向いていると指摘します。ケーススタディやアクション・リサーチは、受験者一人ひとりを研究の中心に据えることができ、個別の配慮措置の実態に迫るうえで有効です。この視点の転換は重要です。「量が少ないから研究できない」ではなく、「量が少ないからこそ、人中心の研究ができる」という発想です。

公平性と標準化のあいだの緊張関係

テスト提供者にとって、配慮措置は常にジレンマをはらんでいます。一方では、障害を持つ受験者に公平なアクセスを保障するために、標準的な手続きから逸脱する必要があります。他方では、そのような逸脱がテストの信頼性・妥当性を損なうリスクがあります。

たとえば「延長時間」という配慮は、ディスレクシアの受験者には不可欠なものかもしれません。しかし、その配慮が特別な必要のない受験者にも「パフォーマンスの底上げ」をもたらすとしたら、他の受験者に対して不公平になるのではないか―これは現場でも感じる疑問です。Sireci, Scarpati, and Li(2005)の「交互作用仮説(interaction hypothesis)」はこの問題を論じており、配慮措置は障害のある受験者にこそより大きな恩恵をもたらすべきだという考え方を提示しています。

著者たちはこの緊張関係を正面から認めつつ、しかしそれが「配慮措置についての議論を阻んではならない」と述べます。公平性の追求を「テスト妥当性の脅威」として捉えるのではなく、むしろ妥当性の一部として位置づけるべきだという立場です。これは言語テスト理論の観点からも重要な提言で、Messick(1989)以来の構成概念妥当性(construct validity)の議論とも接続されます。

「医療モデル」から「社会モデル」へ―障害観の転換

本特集号のもう一つの重要な理論的貢献は、障害に対する見方の変化を明確に示した点です。著者たちは、世界保健機関(WHO)と世界銀行が2011年に共同出版したWorld Report on Disabilityを引用しながら、1970年代以降に進んだ「医療モデル」から「社会モデル」への転換を解説しています。

医療モデルとは、障害を個人の身体的・精神的な問題として捉え、「治療」や「補正」の対象とみなす考え方です。これに対して社会モデルは、障害は環境や社会的構造によって生み出されるものだと考えます。車椅子ユーザーが建物に入れないのは「足が不自由だから」ではなく、「スロープがないから」だ、という発想です。

言語テストの文脈でこれを考えると、視覚障害のある受験者がテストを受けられないのは「目が見えないから」ではなく、「テストが視覚的な情報提示のみを前提として設計されているから」だ、ということになります。この転換は、配慮措置を「特別扱い」から「設計上の欠陥の修正」へと再定義します。テストを設計する側の責任が問われているのです。

日本の英語教育現場でも、この視点はきわめて示唆的です。大学入試や英語検定試験において、ディスレクシアや注意欠如多動症(ADHD)を持つ受験者がどのような配慮を受けているか、あるいは受けられていないかを問い直す視点として機能します。

技術の進化とテスト設計の矛盾

著者たちが鋭く指摘するのが、テクノロジーの急速な進歩とテスト設計の「伝統」との間に広がるギャップです。

現代では、テキスト読み上げ(text-to-speech)や音声テキスト変換(speech-to-text)ソフトウェアは、障害の有無にかかわらず多くの人が日常的に使用しています。オーディオブックを「読む」人、スマートスピーカーで「聞く」人、音声入力で「書く」人は珍しくありません。しかし言語テストの世界は依然として、「読む・書く・聞く・話す」という四技能の伝統的な枠組みに縛られています。

著者たちはここで、建設的な挑戦を提示します。読み上げソフトを使って「読む」行為を、本当に「リーディング」の構成概念(construct)から外れたものと見なすべきか。「リーディング」の定義を、「印刷/音声メディアの処理・理解」として広く捉え直す必要があるのではないか、と問うのです。これは単なる配慮措置の問題を超えて、言語テストの根幹にある構成概念の定義そのものを再検討する問いです。

テスト設計における「ユニバーサルデザイン(universal design)」の理念とも深く関わる論点です。特定の障害に対して後付けで配慮を施すのではなく、最初から誰もが使いやすい設計にするというアプローチは、本特集号の第一論文(Christensenら)でも取り上げられています。

特集号に収録された6本の論文

特集号には6本の論文が収録されています。以下にその概要を整理します。

Laurene Christensen、Vitaliy Shyyan、Fabiana Macmillanによる第一論文は、米国の若年英語学習者向けのL2英語能力テストに対して、アクセシビリティの審査チェックリストを開発するプロセスを描いています。後付けの配慮ではなく、設計段階からすべての受験者に最大限アクセス可能な内容を作るというユニバーサルデザインの理念が中心にあります。

Alicia Kimら5名による第二論文は、米国の学齢期英語学習者がオンライン英語能力テストで「ユニバーサルツール」(カラーオーバーレイ、拡大、ハイライト機能など)をどの程度使用しているかを調査したものです。障害の有無・種類や言語技能の領域によって使用頻度が異なるという結果は、実践的な含意を持ちます。

Johanna Motteram、Richard Spibyら4名による第三論文は、シンガポールの職場英語テストにおける配慮措置ポリシーの開発と実施を分析しています。ステークホルダーの認識、受験者の将来への影響、配慮の効果という3つの観点から調査しており、大規模テストシステムの政策立案への提言を含んでいます。

Danielle Guzman-Orth、Jonathan Steinberg、Traci Albeeによる第四論文は、視覚障害・盲目の学習者向けテスト開発に参加型共同設計(participatory co-design)を用いたものです。教師・生徒・試験官が専門家として設計プロセスに参加するというアプローチは、研究倫理としても注目されます。

Kathrin Eberharter、Judit Kormosら8名による第五論文は、オーストリアの若年英語学習者を対象に、リスニングテストで「自己ペース化(self-pacing)」(音声の一時停止・再生)を許可した場合の効果を検討しています。特に読み書きに関連する学習差異を持つ学習者への恩恵を調べた研究で、教室での実践とテストの配慮の整合性という問題を提起しています。

Robert RandezとCaitlin Cornellによる第六論文は概念的な論考であり、障害を持つ人々に関する用語や言説の問題、そして米国における障害者の権利運動と応用言語学・言語評価の交差点を歴史的に論じています。研究者が使う言葉が当事者コミュニティに与える影響についての省察は、日本の研究者にとっても重要な視点です。

日本の英語教育現場への問いかけ

日本の英語教育において、配慮措置はどのように扱われているでしょうか。文部科学省は特別支援教育の充実を推進しており、通常学級に在籍する発達障害のある生徒への支援も拡充されつつあります。しかし、英語の検定試験や入試における具体的な配慮の実態については、いまだ十分な議論がなされていません。

英語教育の現場では、「英語ができない」と「英語を学ぶ上での特別な困難がある」は区別して考える必要があります。ディスレクシアの生徒は英語の読み書きに困難を感じる場合が多いですが、それはその生徒の知的能力や学習意欲の問題ではありません。しかし現在の多くのテストは、紙とペンによる書字を前提としており、こうした生徒にとっての「測定の公平性」が問われます。

また、日本語と英語の両方を学ぶ環境にある学習者、特に外国籍の子どもたちや帰国子女など、多言語環境で育つ児童生徒への配慮も今後さらに議論が必要です。本特集号で示された「社会モデル」の視点は、日本の英語教育でも適用できる枠組みです。障害を「個人の問題」としてではなく、「教育環境の設計の問題」として捉え直すことが、より公正な教育評価につながるでしょう。

残された問いと今後の展望

本特集号のEditorialが提起する問いは、答えよりも多いかもしれません。それ自体が、この分野がまだ発展途上であることを示しています。

一点、批評的に指摘するとすれば、収録論文6本のうちの多くが米国の文脈に偏っているという点です。教育制度・法制度・文化的背景が異なる国々での配慮措置のあり方については、さらなる国際比較研究が必要です。特に、「disability(障害)」という概念自体が地域によって異なる文化的・政治的文脈を持つ中で、日本やアジア諸国の英語テスト現場における実態調査は急務といえます。

またCOVID-19パンデミックとオンラインテストへの移行についての言及は興味深いですが、デジタル環境への移行がかならずしも全員のアクセスを改善するわけではない点については、もう少し批判的な検討がなされてもよかったかもしれません。インターネット環境の格差、機器の使い慣れの差、オンライン試験における監督体制など、新たなバリアが生まれる可能性もあります。

しかしそれらの限界を差し引いても、本特集号が言語テスト分野において画期的な一歩であることは間違いありません。「誰もが公平にテストを受けられる環境を作ること」は、技術的な問題である以前に、倫理的な問いです。テスト設計者、教師、研究者、政策立案者が、それぞれの立場でこの問いに向き合う必要があります。

英語教育に関わるすべての人にとって、この特集号は手に取る価値があります。配慮措置は「例外的な対応」ではなく、公正な教育評価の「本質」なのだということを、この特集号は静かに、しかし力強く主張しています。


Taylor, L., & Banerjee, J. (2023). Accommodations in language testing and assessment: Safeguarding equity, access, and inclusion. Language Testing, 40(4), 847–855. https://doi.org/10.1177/02655322231186221

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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