本稿では、2023年にLanguage Testing in Asia誌に掲載されたRafとPourdanaによる論文 “E-diagnostic assessment of collaborative and individual oral tiered task performance in differentiated second language instruction framework” を取り上げ、その内容と意義、そして日本の英語教育現場への示唆について詳しく論じます。

研究の背景と著者について

著者のFahimeh RafはイランのIslamic Azad University(カラジ校)のTEFL(外国語としての英語教育)博士課程に在籍する研究者であり、Natasha Pourdanaは同大学の助教授です。Pourdanaは言語評価やコンピュータ支援言語学習を専門とし、両者はこれまでも協働学習や診断的評価に関する一連の研究を発表してきました。本論文はその延長線上に位置する実証研究です。

研究の舞台はイランですが、日本の英語教育とも多くの接点があります。とりわけ「クラス内での習熟度格差」という問題は、日本の教育現場でも日常的に経験されるものです。大学の一般英語クラスを思い浮かべると、英検準1級レベルの学生と中学英語もままならない学生が同じ教室に座っているという光景は珍しくありません。この「混在クラス(mixed-ability class)」をどう扱うかは、世界共通の課題でもあります。

「一斉授業」という長年の慣習への問い直し

日本では長らく「一斉授業」が主流でした。教師が全員に同じ内容を同じペースで教えるというスタイルです。しかし、クラス内の習熟度格差が年々広がるなか、このアプローチには限界があります。できる生徒には物足りなく、苦手な生徒には難しすぎる。それは料理に例えるなら、辛さが固定されたカレーを全員に出すようなものです。辛いものが得意な人には薄く感じられ、苦手な人には食べられない。

本研究が採用する「差異化指導(Differentiated Instruction; DI)」はまさにその問題への処方箋として位置づけられています。DIとは、簡単に言えば「学習者一人ひとりを個人として扱う教授方略」であり、一律の教え方ではなく、学習者の習熟度・興味・学習スタイルに応じて内容・プロセス・成果物を調整するアプローチです。Tomlinson et al.(2003)の枠組みを基盤とするこの考え方は、欧米の教育現場ではかなり普及していますが、日本ではまだ十分に根づいていません。

研究の核心―ティアード・タスクと電子診断的評価の組み合わせ

本研究の最大の特徴は、「ティアード・タスク(tiered tasks)」「電子診断的評価(e-DIA)」「協働学習(CLL)」の三つを、Google Meetというオンライン環境上で統合したという点にあります。

ティアード・タスクとは、同一の学習目標に対して難易度を段階化した課題のことです。具体的には、習熟度の高い「Tier 1」の学習者には発音を自分で産出させるタスク(自然な発音の体現を目指す「ナチュラリゼーション」ILO)が与えられ、中程度の「Tier 2」には手本を聴いて調整する認識+産出タスク(「精度」・「調音」ILO)が、最も習熟度の低い「Tier 3」には正しい発音かどうかを聴いて判断する認識タスク(「模倣」・「操作」ILO)が与えられます。この段階付けは、Atkinson(2018)の「意図的学習成果の階層(ILO Taxonomy)」を理論的基盤としています。

そして、それぞれのティアで課題を実施した後、教師が前回の課題の誤りに対して「診断的フィードバック(e-DIA)」を提供します。ただ「間違っていた」と指摘するのではなく、なぜ間違いが生じたのか、どうすれば改善できるのか、何を練習すれば良いのかを丁寧に伝える。それがDIAの本質です。

研究デザインと参加者

研究参加者は、イランの大学で心理学を専攻する64名の非英語専攻の学部生(18〜25歳)です。COVID-19パンデミックの最中に、10週間にわたるGoogle Meetを用いたオンライン授業が実施されました。

参加者はまず、Preliminary English Test(PET)のリスニングテストを使って事前評価を受け、得点に基づいて高・中・低の3つの習熟度ティアに分類されます。さらに、協働グループ(CG; 34名、ペアワーク)と個別グループ(IG; 30名、個人作業)にランダムに振り分けられました。毎週のオンライン授業は計90分で、前半45分が通常授業、後半45分が口頭ティアード・タスクの実施と診断的評価フィードバックの時間として使われました。10週間の後、事後テストとして別バージョンのPETリスニングを実施し、学習成果を計測しました。

二つの問いに答える統計分析の結果

研究の問いは二つありました。第一に「e-DIAは協働・個別それぞれのグループの週次タスク成績にどう影響したか」、第二に「e-DIAは事前・事後テスト間の学習達成度にどう影響したか」です。

第一の問いに対する分析(混合被験者間・被験者内ANOVA)から、興味深い結果が得られました。協働グループ(CG)では、3つのティア間に有意な差は認められませんでした。つまり、高・中・低の習熟度グループが、ほぼ同様にe-DIAの恩恵を受けていたということです。一方、個別グループ(IG)では、ティア間に有意な交互作用効果が確認されました(partial η²=.428、大きな効果量)。つまり、個人作業条件ではe-DIAへの反応にティアによる差が生じ、むしろ学習者間の格差が拡大したということです。

第二の問いについては、ANCOVA(共分散分析)の結果、両グループともに事前から事後にかけて有意な学習の伸びが見られましたが、CGの事後得点(M=22.109)はIGのそれ(M=21.761)を有意に上回っていました(F(1,60)=11.120、p=.000、partial η²=.063)。協働学習が、e-DIAの効果をさらに増幅させる役割を果たしていたといえます。

なぜ協働がe-DIAの効果を高めるのか

この結果をどう解釈するかが、本論文の理論的核心です。著者たちはVygotsky(1987)の社会文化理論(SCT)を援用し、「協働学習が最近接発達領域(ZPD)に向けた足場掛けを促進した」と論じています。

個人作業では、学習者はe-DIAで指摘された問題点を一人で消化しなければなりません。理解力や動機づけに差があれば、当然フィードバックの活用にも差が出てきます。それが格差の拡大につながります。一方、協働学習では、ペアのパートナーが「もう一人の教師」として機能します。Swain(2001)が言うように、学習者は協働の中で「自分の言語知識の穴に気づき、目標言語がどう機能するかの仮説を立て、検証し、新たな知識を共同構築する」のです。つまり、e-DIAを介して提供された情報が、協働というプロセスを通じて個人の中に深く根ざしていく、そういうメカニズムが働いているわけです。

テニスのレッスンに例えるならば、コーチ(教師)がフォームの問題点を丁寧に指摘してくれても(e-DIA)、一人で黙々と練習するのと、同じコーチのアドバイスを受けながらパートナーと練習するのとでは、上達の度合いが変わってくる。それと似た現象が、この研究では実証的に示されています。

日本の英語教育現場への示唆

日本の大学・高校の英語授業を念頭に置いたとき、本研究の知見はいくつかの重要な示唆を持っています。

まず、「能力別クラス分け」への依存を再考させてくれるという点があります。日本の多くの教育機関では、習熟度格差への対応策として能力別クラス分けが行われています。しかし、それは問題の根本的解決ではなく、むしろ学習機会の格差を固定化させるリスクを孕んでいます。DI+e-DIAという組み合わせは、混在クラスのまま全員の学びを最大化できる可能性を示しています。

次に、「フィードバックの質」の問題です。日本の英語教育では、テストの点数を返すことは行われても、「なぜそのミスが起きたのか」「次にどうすべきか」を個別に伝えるDIAの実践はまだ少数派です。特にオンライン授業が普及したことで、診断的フィードバックをデジタル環境でどう実現するかが重要課題になっています。本研究はその一つのモデルを示しています。

さらに、「ペアワーク・グループワークの再評価」という観点もあります。日本の授業でも「グループ活動」は行われますが、それが診断的評価と連動して機能しているかというと、疑問が残ります。協働をDIの文脈に位置づけ、e-DIAと組み合わせることで、その効果が飛躍的に高まるという本研究の知見は、授業設計の見直しを促すものです。

関連研究との対比と本研究の独自性

本研究と比較すべき先行研究として、Ardin(2018)が挙げられます。Ardinは40名のEFL学習者のライティング(記述・物語)タスクに対するDIAの効果を検証し、大きな効果量を報告しています。本研究もその結果を概ね支持していますが、口頭スキルに特化している点と、協働・個別の比較を行っている点で独自性があります。

一方、Pourdana & Rad(2017)の先行研究とは部分的に対立する結果も見られます。彼らは46名の混在クラスでDIの有効性を確認しつつも、学習者の習熟度レベルと課題成果との直接的な関連を追跡できなかったと述べています。その原因として著者たちはフレキシブルなティア移動制度による「データ汚染」の可能性を指摘しています。本研究では、ティアメンバーシップを介入期間中固定するという厳格な設計を採用しており、この点での比較可能性が高いと言えます。

また、Atkinson(2018)の「意図的学習成果の階層(ILO Taxonomy)」を口頭タスクの段階化に応用した点も本研究の創意工夫です。もともと医療・看護教育の文脈で使われることの多いこの分類を、EFL発音指導の枠組みとして転用したことで、タスクの難易度設定に明確な理論的根拠が与えられています。この試みは、教育分野を横断した理論応用という意味で評価できます。

批判的考察―いくつかの留意点

もちろん、本研究にはいくつかの限界もあります。著者たち自身が正直に認めているように、参加者の性別・年齢・多文化背景などのデモグラフィック変数が統制されていない点は、解釈の際に注意が必要です。また、協働グループのペアは習熟度混在なのか同一ティアなのかについての記述が若干不明確で、ペア内のダイナミクスがどのように機能していたかの質的考察が本論文には乏しいと感じます。

さらに、10週間という介入期間を経た後の「持続的効果」については本研究では検討されていません。e-DIAと協働学習によって伸びた口頭スキルが、介入終了後にどのくらい維持されるかという問いは非常に重要ですが、それは「今後の研究課題」として残されています。

加えて、Google Meetを用いたオンライン環境特有の技術的困難(接続の安定性、プライバシーの問題など)についても、その影響を定量的に捉える試みはなされていません。COVID-19下での実施という特殊な状況が、一般化可能性にどう影響するかも検討の余地があります。

サンプルサイズ(64名)もやや小規模であり、特に協働グループの各ティア(5〜6組)での統計的検出力については慎重に解釈する必要があります。

それでもこの研究が持つ価値

しかし、こうした限界を差し引いても、本研究が示す「方向性」は非常に示唆に富んでいます。混在クラスの学習者全員を見捨てず、それぞれの習熟度に合わせた課題を設計し、適切な診断的フィードバックを与え、協働の力を組み合わせるという三位一体のアプローチは、理念としては多くの教師が共感できるものです。そしてそれが実証的に効果を持つことを、この研究は丁寧に示しました。

特に「協働がe-DIAの効果を均等化した」という発見は、教育の公正性という観点からも重要です。個別作業では格差が拡大したのに、協働作業では高・中・低のいずれのティアも等しく恩恵を受けた。これは、習熟度の低い学習者が置き去りにされがちな従来型指導への、静かしかし力強い問いかけです。

日本の英語教育においては、進学校と底辺校の格差、大学での基礎学力問題、そして近年の「ペア・グループ活動の形骸化」など、様々な課題が積み重なっています。本研究が提示するフレームワークは、そうした課題群への一つの応答として十分に読む価値があります。e-DIAという概念を「テストして点数をつけること」ではなく、「診断して処方すること」として再定義することから、新しい評価実践が始まるかもしれません。


Rafi, F., & Pourdana, N. (2023). E-diagnostic assessment of collaborative and individual oral tiered task performance in differentiated second language instruction framework. Language Testing in Asia, 13(1), Article 6. https://doi.org/10.1186/s40468-023-00223-7

最新の研究の解説記事を見逃したくない方へ
膨大な論文の中から、読むべき重要研究を厳選し、わかりやすくまとめた記事を毎週土曜日に届けします。 忙しい先生のための情報収集ツールとしてお使いください。
icon

By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

📖新刊情報|英語教育学海外論文解説: 海外の研究をサクッと解説』の最新号(第11号)が刊行されました!▶特集テーマ:「聞く力」はどう育つか ― 音声知覚・語彙・映像入力の最新知見

X
Amazon プライム対象