評価というものは、教育の現場においてつねに微妙な緊張感を帯びています。教師は「公平に測りたい」と願い、学習者は「うまくできるか」と不安を抱える。この両者の間に横たわるギャップを少しでも埋めようとする試みが、近年の言語教育研究において盛んになっています。本論文はまさにその試みの一つです。Sherkuziyevaらによる “The Comparative Effect of Computerized Dynamic Assessment and Rater Mediated Assessment on EFL Learners’ Oral Proficiency, Writing Performance, and Test Anxiety”(2023年、Language Testing in Asia掲載)は、コンピュータを活用したダイナミック・アセスメント(C-DA)と、従来の評価者介在型アセスメント(rater-mediated assessment)を比較し、イランのEFL学習者の口頭能力・作文能力・テスト不安にどのような差をもたらすかを検討した意欲的な研究です。

筆者陣は多国籍の研究チームで構成されています。ウズベキスタンのタシュケント金融研究所のNasiba Sherkuziyeva、ロシア・カザン連邦大学のFarida Imamutdinovna Gabidullina、サウジアラビアのプリンス・サッタム・ビン・アブドゥルアジーズ大学およびエジプト・ソハーグ大学のKhaled Ahmed Abdel-Al Ibrahim、そしてイランのイスラム・アザード大学のSania Bayatという顔ぶれです。特にSania Bayatは本研究の責任著者を務めており、イランにおけるEFL評価研究の文脈で注目されています。研究はイランのアフワーズにある私立英語学校を舞台に行われており、現地の教育事情と深く結びついています。

ダイナミック・アセスメントとは何か―Vygotskyを知れば理解が深まる

この論文を読み解くうえで、まず「ダイナミック・アセスメント(DA)」という概念を理解する必要があります。DAはソビエト連邦の心理学者Lev Vygotskyが提唱した「社会文化理論(SCT)」、とりわけ「最近接発達領域(ZPD)」の概念に基づいています。ZPDとは、学習者が一人でできることと、適切なサポートがあればできることの間の「伸びしろの空間」です。例えるなら、子どもが自転車に乗ろうとするとき、最初は補助輪が必要で、次には誰かが後ろを支えてくれれば乗れる。その「支えてもらいながらできる段階」こそがZPDであり、DAはその段階を積極的に評価・支援しようとする試みです。

C-DAはそのDA原理をコンピュータ上で実装したものです。コンピュータが学習者の誤答に応じて段階的なヒントや介入(メディエーション)を自動的に提供し、学習者が問題を解決する過程を支援します。採点ファイルが個人ごとに生成され、多人数を同時に対象にできるというスケーラビリティも特長の一つです。一方、従来の評価者介在型アセスメント(rater-mediated assessment)は、評価者が口頭・作文の成果物を評価尺度に従ってスコアリングするという、私たちにとってなじみ深い評価形式です。日本の英語教育でも一般的に行われているあのテスト採点の仕組み、と言えばイメージしやすいでしょう。

研究の設計と手続き―何をどう調べたのか

研究参加者は、イランのアフワーズの英語学校に通う16歳から23歳の男子学生93名で、Preliminary English Test(PET)を実施して中級レベルの64名に絞り込みました。これを実験群(C-DA)と統制群(評価者介在型)に32名ずつ振り分けています。なぜ男子だけかといえば、施設の性別分離方針によるもので、これは後述する限界点にもなっています。

測定には三種類の指標が使われました。テスト不安の測定には、BritnerとPajaresが2006年に開発したScience Anxiety Scale(SAS)を一部改変して使用しています。作文能力はIELTSアカデミック・ライティングの基準を参照しつつ研究者作成のテストで測定し、口頭能力についてはHughes(2003)のスピーキング・チェックリストを用いました。それぞれ信頼性係数(Pearson相関)として.89、.87、.83が報告されており、信頼性の担保はされています。

介入期間は週2回、全19セッションにわたりました。実験群に対しては、コンピュータ動的ライティングテスト(CDTW)と呼ばれる専用ソフトウェアが導入され、プレライティング・ライティング・ドラフティング・改訂という段階に応じてヒントが提示される仕組みでした。最終的に参加者は紙にエッセイを書き直し、その完成稿が評価対象とされました。統制群は従来型の評価者介在型授業を受けました。分析には一元配置共分散分析(ANCOVA)が採用され、事前テストのスコアを共変量として統制しています。

結果が示すもの―C-DAの圧倒的な優位

結果は明快でした。作文の正確性・流暢さ・複雑さのすべての指標において、実験群(C-DA)が統制群を有意に上回りました。口頭能力においても同様で、実験群の事後テスト平均点は16.00に対し、統制群は11.59でした。テスト不安の事後テストでは、実験群の平均が44.03、統制群が32.28となっており、C-DAを経験した学習者の方が不安スコアが高くなっています。

ここで少し立ち止まる必要があります。テスト不安スコアが「高い」とはどういうことでしょうか。使用されたSASは「絶対的に嘘だ」から「絶対的に本当だ」の5段階尺度で構成されており、スコアが高いほど不安が高いことを意味します。したがって実験群の方がスコアが高いとは、不安が増した、ということでしょうか。論文ではこの点についての説明が不十分で、読者としてやや困惑します。おそらく、C-DAを通じて自己評価や自己修正に敏感になった結果、テストに対する感受性が高まったという解釈も可能ですが、それが「不安の軽減」と断言できるかどうかは慎重な検討が要ります。著者らは実験群の「改善」を強調していますが、テスト不安に関しては数値の解釈が直感に反する部分があり、これは本論文の最も重要な弱点の一つと言えます。

理論的支柱の強さと限界点―研究の光と問いかけ

本研究の理論的基盤は強固です。VygotskyのZPD概念に根ざしたDAの枠組みは、これまでにもPoehnerとLantolf(2005、2013)、Pishghadamら(2011、2012)などによって丁寧に精錬されており、本研究はその流れを正しく引き継いでいます。また、C-DAが読解だけでなく(Hidri & Roud, 2020;Yang & Qian, 2019)、スピーキングや作文にも有効であることを示した先行研究(Ghahderijaniら, 2021;Ebadi & Asakereh, 2017)との整合性も確認されており、先行研究との位置づけは誠実に行われています。

一方、方法論上の課題もいくつか指摘できます。まず、参加者が16〜23歳の男子学生に限定されており、結果の一般化には慎重を要します。著者自身もこれを認めており、女子学生への一般化については留保しています。また、介入期間が約10週間と比較的短く、長期的な定着効果については不明です。作文テストの内容がコースブックに基づくものであり、外的妥当性(現実世界との対応)についての議論もやや薄い印象があります。さらに、統制群には「評価者介在型アセスメント」という名のついた特定の介入が施されているわけですが、その具体的な指導内容と実験群の指導内容の差がどのくらいあったのかについての記述がやや曖昧で、二群の比較の純粋性に疑問が残ります。

日本の英語教育への示唆―「評価が教育である」という発想の転換

さて、この研究は日本の英語教育の文脈においてどのような意味を持つでしょうか。日本では長年、ペーパーテストによる一斉評価が主流でした。小テストや定期テストの点数で順位をつけ、それが学習の動機づけにもなれば、時に挫折の原因にもなる。英語が「嫌いになった瞬間」を多くの日本人が体験したことがあるとすれば、それはテストの場面と深く結びついていることが多いのではないでしょうか。

本研究が示すのは、評価そのものが学習の一部になり得るという視点です。C-DAでは、テストを受ける過程でフィードバックが与えられ、学習者は自分の誤りから学びながら進みます。これは「テストが終わったら採点されて返ってくる」という従来の評価観とは根本的に異なります。評価と学習の分断をなくすという考え方は、文部科学省が近年推進している「学習のための評価(assessment for learning)」の方向性とも重なります。

特に注目したいのは、テスト不安への影響です。大学入試を控えた高校生や、英検・TOEICを目前にした社会人など、日本のEFL学習者はテスト不安を抱えやすい環境にあります。C-DAが学習者に段階的なサポートを提供し、「失敗しながら学べる」雰囲気を作ることで不安を軽減する可能性があるとすれば、これは教育実践として非常に魅力的です。ただし前述のように、本研究のテスト不安スコアの解釈には注意が必要で、C-DAが本当に不安を軽減するのか、それとも別の形で不安の質を変容させるのかについては、さらなる研究が求められます。

また、日本のデジタル教育の文脈でも本研究は示唆に富みます。GIGAスクール構想以来、学校現場での端末普及は急速に進みました。しかし多くの場合、タブレットやPCは「調べ学習」や「発表スライド作成」に使われるにとどまり、評価のデジタル化はまだ十分に進んでいません。C-DAのような仕組みを学校現場に導入するためのシステム設計・教員研修・技術支援という三位一体の取り組みが今後の課題となるでしょう。

比較研究としての位置づけ―関連研究との対話

本研究は、Ghahderijaniら(2021)による「グループ動的アセスメント(G-DA)とC-DAの比較」研究を踏まえた上で、C-DAと評価者介在型という従来型評価との比較という設計を採っています。Ghahderijaniらの研究ではC-DAとG-DAの両者が非DA型の指導を上回ることが示されており、本研究はその知見をさらに異なる比較軸で拡張しようとしています。

さらに、Ebrahimi(2015)の研究ではDAが正確性と複雑性を高める一方、流暢さへの影響は見られなかったことが報告されています。しかし本研究では流暢さについても有意な改善が見られており、介入の設計や期間の違いが結果に影響している可能性が考えられます。CDTWという専用ソフトウェアの機能の中に、流暢さ支援の仕組みが含まれていた点が一因かもしれません。こうした先行研究との細かな対照は、研究の価値をより立体的に示すものです。

一方、本研究に欠けている視点として、学習者の内省やメタ認知に関する質的分析があります。C-DAの経験を通じて学習者は何を感じ、どのように自分の学習観が変化したのかという問いは、数値データだけでは捉えきれません。マイクロジェネティック分析やインタビュー調査を組み合わせた混合研究法を採用することで、評価体験の豊かさをより細かく描けたはずです。これは今後の研究への重要な宿題と言えます。

評価者介在型アセスメントの再考―評価する人間の役割

もう一方の評価形式である評価者介在型アセスメントについても、論文は丁寧に解説しています。評価者の主観性、評価尺度の種類、採点基準の運用方法など、評価者がスコアに与える影響は無視できません。Myford and Wolfe(2003,2004)が多相ラッシュモデルを用いて評価者効果を研究してきたように、評価者介在型の課題は根深いものがあります。この点において、C-DAは評価者バイアスを排除できるという意味で客観性の面では優位に立ちますが、コンピュータが人間のような細やかな対話的フィードバックを代替できるかどうかは、また別の問いです。

人間の評価者が持つ「経験的な読み取り」の力は、まだコンピュータには難しいところもあります。例えばあるエッセイに独創性やユーモアが感じられたとき、それを評価に反映できるのは今のところ人間の評価者に限られます。C-DAと人間の評価者の役割分担という観点から、二者択一ではなく協働的な評価モデルを模索することが、今後の重要な研究・実践課題ではないでしょうか。

総合評価―実践的貢献と今後の課題

この論文の最大の貢献は、C-DAがスピーキング・ライティング・テスト不安という複数の変数に対して同時に効果を持ちうることを、準実験的デザインで実証しようとした点にあります。EFLの評価研究においてこれら三変数を一度に扱った研究は多くなく、その試みは評価されてしかるべきです。

ただし研究デザイン上の改善余地もあります。男子学生のみという参加者の偏り、短い介入期間、テスト不安スコアの解釈の不明確さ、統制群の指導内容の詳細不足―これらは論文の説得力を一定程度損なっています。また、使用したソフトウェア(CDTW)の詳細な仕様が公開されていないため、再現研究が難しいという点も課題です。科学的知見の蓄積のためには、研究ツールの透明性と共有可能性が求められます。

それでも、本研究は「評価と指導の統合」という教育思想の具体的な実装例として、英語教育研究者にとっての有益な一事例となっています。日本の教育現場でもEdTechの導入が加速しつつある今、C-DAのような評価設計の発想を取り入れ、学習者一人ひとりのZPDに寄り添う評価システムを構築することは、十分に実現可能な目標と言えます。テストが「ふるい落とすもの」ではなく「次のステップへ連れて行くもの」になる。そのような評価の在り方を本研究は静かに、しかし力強く示唆しています。


Sherkuziyeva, N., Gabidullina, F. I., Ibrahim, K. A. A., & Bayat, S. (2023). The comparative effect of computerized dynamic assessment and rater mediated assessment on EFL learners’ oral proficiency, writing performance, and test anxiety. Language Testing in Asia, 13, Article 15. https://doi.org/10.1186/s40468-023-00227-3

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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