アフガニスタンのEFL学習者を対象にした比較実験が問いかけるもの

英語を外国語として学ぶ学習者の力を伸ばすために、教師はどのような評価方法を選べばよいのか。テストを返すだけで終わる従来型の評価から、学習者自身が自分の成長を振り返り、仲間と意見を交わすような評価へ―この転換は、世界中の英語教育関係者が模索し続けている課題です。今回紹介するのは、Al-Rashidiら(2023)による論文 “The Comparative Impacts of Portfolio-Based Assessment, Self-Assessment, and Scaffolded Peer Assessment on Reading Comprehension, Vocabulary Learning, and Grammatical Accuracy: Insights from Working Memory Capacity” です。Language Testing in Asia誌に掲載されたこの研究は、三種の代替評価(ポートフォリオ評価・自己評価・足場かけ付きピア評価)の効果を、ワーキングメモリという認知的個人差を組み込みながら多角的に比較したものです。日本の英語教育現場にも多くの示唆を与えてくれる内容だと言えます。

研究の背景と著者について

第一著者のAnwar Hammad Al-Rashidiはサウジアラビアのプリンス・サッタム・ビン・アブドゥルアジズ大学教育学部心理学科に所属し、共著者のBalachandran Vadivel、Nawroz Ramadan Khalilは、イラク・クルディスタン地域のシハン大学ドゥホーク校英語学科の研究者です。第四著者のNirvana Basimはカンダハール大学(アフガニスタン)の出身で、本研究の実施地であるアフガニスタンの教育現場に深く関わっています。研究の動機として論文中に記されているのは、アフガニスタンの政府カリキュラムでは語学指導に十分な時間が割かれておらず、学習者の言語テストにおけるパフォーマンスが芳しくない、という現場の切実な問題意識です。「限られた時間で最大の効果を上げるには、どんな評価アプローチが有効か」という問いは、日本の英語教師にとっても決して他人事ではないでしょう。

三種の代替評価とは何か

「代替評価(alternative assessment)」という言葉を聞いて、どんな場面を思い浮かべますか。暗記と点数だけを問う標準テストとは異なり、学習者が自分の成長を記録し、仲間と協力し、自分自身を振り返ることを重視する評価の総称です。本研究で比較されたのは、この代替評価の中でも特に注目度の高い三つのアプローチです。

まず「ポートフォリオ評価」は、学習者が時間をかけて自分の作品や活動を収集・整理し、振り返りを加えることで自律的な学習を促す方法です。Paulsonら(1991)の定義に沿えば、努力・成長・達成の記録です。次に「自己評価」は、学習者自身が自分のパフォーマンスを観察・判断・調整するメタ認知的プロセスです。計画・モニタリング・評価という自己調整スキルを育てる側面が強く、単なる「自分採点」に留まらないところに本質があります。そして三つ目が「足場かけ付きピア評価(scaffolded peer assessment)」です。これはVygotskyの社会的構成主義に基づく手法で、より熟達した仲間(本研究では「上位中級者」)が「媒介者(mediator)」として低位の学習者をサポートしながら評価と改善を行うものです。学習者は自分だけではできないことでも、より熟達した仲間に導かれることでやり遂げる。これがまさに「最近接発達領域(ZPD)」の拡張であり、Vygotskyの中心的なアイデアを評価場面に応用したものです。

研究デザインと参加者

研究はアフガニスタン・カンダハールの私立語学学校で実施されました。172名の学習者の中から、Oxford Quick Placement Test(OQPT)によって選ばれた120名の「下位中級」学習者と5名の「上位中級」学習者、計125名が参加しました。4つのグループに分けられ、それぞれポートフォリオ評価群(30名)、自己評価群(30名)、足場かけ付きピア評価群(35名)、統制群(30名)で構成されています。5名の上位中級者はピア評価群に「注入」され、各小グループの媒介者として機能する設計です。

ワーキングメモリ(WM)の測定には、Shahnazari(2013)が開発したリーディング・スパン・テストが使用されました。これは、文の文法的妥当性を判断しながら各文の最後の語を記憶するという複合課題で、記憶と処理を同時に問うものです。結果として、各群にそれぞれ「高WM」と「低WM」の学習者が存在することが確認されました。さらに指導者自作の読解テスト・語彙テスト・文法テストが事前・事後に実施されました。扱われた文法的特徴は現在進行形に絞られており、語彙と読解のテストはSchmittら(2011)のFocus on Vocabulary 1、文法テストはHarrison(2009)のOxford Living Grammar(Pre-intermediate)を基盤としています。

治療セッションは全10回で、最初の2回はOQPT・事前テスト・WM測定に充てられました。ポートフォリオ・自己評価の両群では、チェックリストを用いた自己評価の方法を段階的に指導し、最終的に自律的に評価できることを目指しました。ピア評価群では、5名の媒介者がそれぞれ6名のグループを率い、教師の指導のもとで仲間の誤りを指摘し修正を促す仕組みが繰り返されました。

統計分析と主な結果

分析には、群と WM(2水準)を独立変数、事前・事後テスト得点を従属変数とする「2要因グループ間MANOVA(多変量分散分析)」が3回(読解・語彙・文法それぞれ)実施されました。正規性はKolmogorov-Smirnov検定、等分散性はLeveneの検定により確認されています。事後の多重比較にはBonferroni調整が用いられました。

まず、群間の事前テストに統計的有意差はなく、学習者の等質性が確認されました。事後テストにおいては、読解テストでF=22.421、偏イータ二乗=0.365(大効果量)、語彙テストでF=32.696、偏イータ二乗=0.456(大効果量)、文法テストでF=39.021、偏イータ二乗=0.500(大効果量)と、いずれも三つの実験群が統制群を大きく上回りました。大効果量が三つそろうのは圧倒的な結果です。

ワーキングメモリの効果についても、事後テストにおいて高WM群が低WM群を有意に上回りました。読解での偏イータ二乗は0.095、語彙は0.083、文法は0.072と、いずれも中程度の効果量でした。特に注目すべきは、足場かけ付きピア評価群における高WMと低WMの差です。読解で平均差7.183、語彙で6.980、文法で7.079という数字は、他の群と比べて際立って大きく、WMの影響がこの評価形式のもとで特に増幅されることを示しています。

一方、三つの実験群同士の差はいずれの測定においても統計的に有意ではありませんでした。足場かけ付きピア評価群の得点が最も高いものの、ポートフォリオ評価群・自己評価群との差はBonferroni調整後に有意水準を超えませんでした。要するに「三者はどれも等しく有効」という結論です。

結果の解釈と先行研究との対比

ポートフォリオ評価の有効性については、Barrot(2021)がeポートフォリオの書く力への効果、Nourdad & Banagozar(2022)が語彙の習得・保持への効果を示したことと整合しています。一方、Amani & Salehi(2017)が読解に対する効果を認めなかった先行研究とは対照的な結果となっています。読解に直結する素材と活動設計の違いが影響している可能性があります。

自己評価については、Rezaiら(2022)が自己評価レポートの作文力への貢献を報告した研究や、Chungら(2021)の書く力と自己効力感への効果と一致します。

ピア評価については、Liら(2020)のメタ分析(58研究・134効果量)が0.291標準偏差の有意な改善を示したことと整合しており、Homayouni(2022)のグループ作業と足場かけを組み合わせたピア評価が語彙と口頭能力に有効だという知見とも一致します。ただし、Moghimi(2022)はピア評価が自己評価より有意に優れていると結論づけているのに対して、本研究ではその差が有意でなかった点は対立します。実施時間の長さ(本研究は8回の実質的な授業)、測定スキルの違い(発話精度 vs. 読解・語彙・文法)、学習者の文化的背景の違いが、この不一致を生んでいる可能性があります。

WMについても先行研究との整合性が高いです。Chowら(2021)が高WMと読解力の相関を指摘し、Teng & Zhang(2021)が語彙学習におけるWMの役割を示し、Patraら(2022)が文法学習においてWMが調整変数として機能することを確認している。本研究はこれらを一括して三スキルで検証した点に独自性があります。

日本の英語教育現場への示唆

日本の英語教育において、ポートフォリオ、自己評価、ピア評価への関心はここ数年で急速に高まっています。高校の「学習指導要領」でも言語活動の充実や主体的な学びが強調され、パフォーマンス評価の導入が進んでいます。しかしながら、「どれが一番効果的なのか」という問いに悩む現場の先生は少なくないでしょう。本研究はその問いに対して、「三者はどれも有効であり、統制群(従来型の授業)よりも大きな効果がある」という明確な答えを提示しています。

特に足場かけ付きピア評価の仕組みは、日本の学校における「グループ学習」や「協働学習」の文脈に非常になじみやすいです。習熟度の異なる学習者が同じグループに属し、上位の学習者が下位の学習者を自然にサポートする場面は日常的にあります。そこに評価的な視点と構造的な役割分担を加えることで、ZPDの拡張という理論的恩恵を得られるというのは、実践的に取り組みやすい提案です。

また、WMという認知的個人差の存在は、教師として見過ごしにくい事実を突きつけます。どんなに優れた評価手法を用いても、WMの高い学習者のほうが低い学習者よりも平均的に恩恵を受けやすい。この結果は、WMが低い学習者への配慮、つまりより少ない認知的負荷で学べる活動設計や、こまめなフィードバックの提供が不可欠であることを示唆しています。特に足場かけ付きピア評価においてWMの差が最も開いたことは、この評価形式が認知処理を多量に要求するという裏返しとも読み取れます。

研究の限界と今後の課題

論文自身も正直に認めている通り、この研究にはいくつかの限界があります。第一に、参加者の無作為抽出ができておらず、準実験デザインであるため内的妥当性に制約があります。第二に、単一地域・単一文化(アフガニスタン)のデータである点から、結果の一般化可能性には慎重になる必要があります。第三に、遅延事後テストを実施していないため、長期的な保持効果が不明です。語彙研究においては「直後の学習」と「数週間後の保持」の間に大きな差が生じることが多く、Nourdad & Banagozar(2022)が遅延事後テストも実施してポートフォリオ評価の有効性を確認しているのとは対照的です。

加えて、筆者自身が「教師」と「研究者」を兼ねていた点は方法論的バイアスのリスクを伴います。これは小規模な実践研究では避けがたい問題ですが、今後の研究では独立した評価者や授業観察者を設けることが望ましいでしょう。

治療期間が実質8回という短さも気になります。自己評価やポートフォリオは、「慣れ」が必要な評価手法です。Rezaiら(2022)は15回の授業セッションを設定していますが、本研究ではチェックリストの使い方を教えてから第5回以降に初めて自己修正が定着してきたと述べています。より長期のインターベンションを行えば、三者間の差がより明確に現れる可能性があります。

学術的評価と総括

本研究のオリジナリティは、複数の代替評価を同一実験内で比較しつつ、ワーキングメモリという認知的調整変数を組み込んだ点にあります。先行研究の多くは単一の評価手法の効果を検証するにとどまっており、複数手法の比較に加えて個人差の調整効果まで分析した研究はきわめて少数です。効果量の報告も一貫しており、統計的結果の解釈に信頼性があります。

一方で、著者が「足場かけ付きピア評価が数値的に最も高い効果を示したが、統計的有意差はなかった」という結果について、有意差の欠如を中心に議論しながらも結論部分で「ピア評価の優位性」をやや強調する傾向は、読者として少し注意が必要かもしれません。「統計的に差がない」ということは「どれでも同様に有効」という積極的な解釈にもなり得ますし、「サンプルサイズが小さいため差を検出できなかった」という慎重な解釈も成立します。

それでも、アフガニスタンというこれまで英語教育研究のデータが乏しかった地域で、代替評価の多角的比較研究を行ったこと自体に大きな価値があります。英語教育研究は長らくアジア・中東・中南米の特定地域に偏る傾向がありましたが、より多様な文化・言語的背景における実証データの蓄積は、SLA(第二言語習得)理論の普遍性を検証するうえでも重要です。

最後に、日本の英語教師に向けて一言添えるとすれば、この研究が示す最もシンプルなメッセージは「代替評価はどれも、従来型の授業より有意義だ」ということです。完璧な評価手法を探し続けるより、まず何か一つを試してみることが大切です。自己評価チェックリストを授業に取り入れるだけでも、学習者の内省が深まり、語彙や文法の定着に寄与する可能性があります。ポートフォリオは書く活動だけでなく、読解や語彙の振り返り記録としても使えます。そして、クラスの中で得意な学習者が苦手な仲間を助ける構造的な機会を設けることは、教師が「引いた」ぶんだけ学習者が「前に出る」空間を生みます。それがVygotskyの言うZPDの拡張であり、言語習得の核心の一つです。


Al-Rashidi, A. H., Vadivel, B., Khalil, N. R., & Basim, N. (2023). The comparative impacts of portfolio-based assessment, self-assessment, and scaffolded peer assessment on reading comprehension, vocabulary learning, and grammatical accuracy: Insights from working memory capacity. Language Testing in Asia, 13(1), Article 24. https://doi.org/10.1186/s40468-023-00237-1

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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