英語教育に携わる人であれば、こんな場面に出くわしたことがあるのではないでしょうか。一生懸命教えているのに、生徒がなかなか自分で学ぼうとしない。授業外での学習が続かない。テストが終わると、学んだことがすっかり消えてしまう。こうした悩みは、日本だけでなく、同じく英語を外国語として学ぶ環境にある中国でも深刻なテーマです。そのような状況に対して「学習ストラテジー指導(strategy instruction)」という手法が、学習者の自律性と英語力の向上に有効だという実証的な証拠を丁寧に積み上げたのが、今回紹介するメタ分析論文です。

本論文は、Wang, X., Zhang, Q., Chen, H., Neitzel, A., & Davis, M.(2024)によるもので、ジョンズ・ホプキンス大学と華東師範大学の研究者が共同で執筆し、International Journal of Education Researchに掲載されています。Wang氏はジョンズ・ホプキンス大学教育学部に所属し、第二言語習得と学習者自律性の研究を専門としています。国際的な研究チームが中国語で書かれた研究も含めて幅広く文献を収集し、49本の研究から111の効果量を抽出・分析したという点で、これまでのメタ分析では見落とされがちだった中国語圏の研究成果を掘り起こした意義深い論文です。

「学習者自律性」とはどういう概念か

まず「学習者自律性(learner autonomy)」という概念について整理しておく必要があります。日本でも「自律的な学習者を育てる」という目標がよく掲げられますが、その中身は曖昧なまま使われることも少なくありません。本論文では、Holec(1981)が提唱した「自分自身の学習に責任を持つ能力」という行動的定義、Little(1991)が強調した「学習過程や内容との心理的な関係性」という心理的定義を踏まえた上で、Benson(1997, 2001)の多次元的概念化を採用しています。Bensonのモデルは技術的・心理的・政治的という三つの次元から成り、特に「政治的次元」として教育政策や文化規範・教室環境といった外的要因が学習自律性に影響を与えることを明示している点が特徴的です。

この枠組みは、日本の英語教育においても示唆に富んでいます。受験文化や教師主導の授業スタイルが根強い日本では、学習者が「自分で学ぶ力」を育むことの難しさは構造的な問題でもあります。自律性を「個人の資質」だけでなく「社会・政治的文脈の産物」として捉えるBensonの視点は、日本の教育実践を考える際にも重要な視座を与えてくれます。

また本論文は、学習者自律性と「自己調整学習(self-regulated learning, SRL)」の共通点と相違点についても丁寧に論じています。両者は学習者の能動的な関与を重視する点では共通していますが、SRLが主に個人内部の認知的・動機的プロセスに焦点を当てるのに対し、学習者自律性は外部の社会政治的文脈まで射程に入れるという点で異なります。この区別は、研究デザインや測定指標の設定においても重要な意味を持ちます。

研究の設計と方法論の堅牢さ

本研究の方法論的な特長は、その文献収集の徹底ぶりにあります。ERIC、SCOPUS、PsycINFO、PsycArticles、Google Scholarといった国際データベースに加え、中国語データベースのCNKIとDuxuも使用しています。さらに、出版バイアスを軽減するためにProQuest Dissertations & Thesesも参照し、いわゆる「グレー文献」も収集対象に含めています。最終的に15,998件の記録から重複を除いた9,674件をスクリーニングし、最終的に49本の研究(111の効果量)を分析対象としました。

包含基準も厳密に設定されています。中国の大学生を対象とし、2004年以降に発表されたもの、統制群と処遇群を比較する事前・事後テストデザインを採用したもの、効果量算出に必要な統計情報を含むもの、ベースライン差が0.25標準偏差以内であることなど、七つの基準が設けられています。2004年という区切りは、中国教育部が「大学英語カリキュラム要件」に自律学習を中心目標として組み込んだ教育改革の年に合わせたものであり、政策的文脈を踏まえた判断として適切です。

分析にはランダム効果モデルによるメタ回帰を採用し、Rのmetaforパッケージを使用しています。出版バイアスの検定には、ファンネルプロットやEgger回帰よりも高度とされるセレクションモデリングを用いており、方法論的な洗練度は高いと言えます。七つのモデレーター変数(介入設定、協調学習の有無、学習日誌の有無、訓練ストラテジーの種類、アウトカムの種類、サンプルサイズ、介入期間)についても体系的に検討されています。

全体的な効果量と先行研究との比較

本研究の最も注目すべき結果は、全体的な効果量が0.92(p < .001)という大きな値を示した点です。これは先行するメタ分析と比較しても顕著に高い数値です。たとえば、Plonsky(2011)の第二言語ストラテジー指導メタ分析では0.49、Ardasheva et al.(2017)では言語成果で0.78・自己調整学習成果で0.87、Dignath & Büttner(2008)では0.69という結果が報告されています。

なぜこれほど高いのか。著者たちはいくつかの要因を挙げています。第一に、本研究は第二言語習得という特定分野に絞っており、この分野のメタ分析では大きな効果量が出やすい傾向があること。第二に、本研究が大学生のみを対象としており、先行研究が示すように高等教育段階の学生はストラテジー指導の恩恵をより大きく受ける傾向があること。Russell & Spada(2006)の訂正フィードバックに関するメタ分析が文法学習において全体効果量1.16を報告していることを踏まえると、0.92という値は文脈的に妥当な範囲とも言えます。

ただし、効果量の高さには注意が必要です。本研究の分析対象となった49本中、実に82%が総サンプルサイズ100名未満の小規模研究であり、かつほとんどが研究者自身が介入を実施・評価した準実験的デザインです。著者たちも限界として認めているように、「ピグマリオン効果」、すなわち教師(研究者)の期待が学生のパフォーマンスに影響する可能性は排除できません。そして興味深いことに、出版バイアス分析では効果量が過小評価されている可能性が示唆され、統計的に非有意な結果もむしろ報告されやすい傾向が検出されています。これは通常の研究とは逆のパターンであり、慎重な解釈が求められます。

モデレーター分析が示す重要な知見

七つのモデレーター変数の中で、統計的に有意な調整効果を示したのは「アウトカムの種類」のみでした。この結果は、一見地味に見えて、実は非常に重要な示唆を含んでいます。

認知・メタ認知・動機・社会という複数側面の学習者自律性を同時に測定した研究の効果量は1.89(p = .009)と最も高く、動機的側面のみを測定した研究(効果量0.15、非有意)や社会的側面のみの研究(効果量0.52)を大きく上回りました。学業成果を測定した研究の効果量は1.00でしたが、複数側面を測定した研究との差は統計的には有意ではありませんでした。

これが意味することは何でしょうか。学習者自律性は一枚岩の概念ではなく、多面的な構成概念であるということです。動機づけや社会的側面だけを測定しても、ストラテジー指導の効果は十分に捉えられない可能性があります。Plonsky(2011)のメタ分析でストラテジー使用への効果は有意だったのに態度への効果は有意でなかったという先行知見とも整合する結果です。研究者・実践者双方にとって、「何を測るか」という問いが介入の有効性評価において決定的な意味を持つことが改めて確認されました。

一方、介入設定(教室のみ対ハイブリッド)、協調学習の有無、学習日誌の使用、訓練ストラテジーの種類、サンプルサイズ、介入期間はいずれも有意なモデレーターとはなりませんでした。特に介入期間については、12週間未満の短期介入(効果量0.72)と12週間以上の長期介入(効果量0.94)の間に有意差がなかったという点は、実践的に重要な知見です。

日本の英語教育現場への含意

この論文の知見は、中国のEFL教育に限らず、同様の文化的・教育的文脈を持つ日本にも多くの示唆を与えます。

第一に、ストラテジー指導の「コストと効果」についてです。本研究が示したように、12週間未満の短期介入と長期介入の間に効果量の有意差がなかったことは、「時間がない」を理由に導入をためらっている教師への励ましとなります。もちろん最短の介入期間が5週間だったという制限は認識する必要がありますが、カリキュラムの中に短期集中的なストラテジー指導を組み込むことの意義を支持する証拠として読めます。

第二に、アウトカム測定の問題です。日本の英語教育では、成績やテストスコアで介入の効果を判断する傾向があります。しかし本研究は、学習者自律性の複数側面を同時に測定することの重要性を示しています。認知的側面(ストラテジーの使用)、メタ認知的側面(自己モニタリング・計画・評価)、動機的側面(自己効力感・内発的動機)、社会的側面(協働・ヘルプシーキング)を網羅的に評価する枠組みを持つことが、指導の効果をより正確に把握することにつながるのです。

第三に、オンライン学習環境の問題です。本研究では、ハイブリッド設定(教室+オンライン)の研究はわずか4本で、純粋なオンライン設定の研究はゼロでした。コロナ禍以降、日本でもオンライン・ハイブリッド授業が急速に普及しましたが、そのような環境でのストラテジー指導の効果については、まだ研究の蓄積が乏しいことを意味しています。この点は中国だけでなく日本でも喫緊の研究課題です。

第四に、協調学習と学習日誌の問題です。これらは自律性育成への効果が理論的に示唆されているにもかかわらず、本メタ分析では有意なモデレーターとなりませんでした。著者たちはその理由として、多くの研究がこれらの要素を「あった・なかった」という二値で記述するだけで、学生がどのように関与したかの詳細を報告していないことを指摘しています。日本の実践研究でも同様の問題はないでしょうか。授業での活動の「有無」だけでなく、「質」や「深度」まで記述・分析する研究が求められています。

研究の強みと限界を正直に見る

本論文の強みは複数あります。まず、中国語で書かれた研究を積極的に収集・分析した点は、国際的な研究コミュニティが見落としがちだった知識体系にアクセスしているという意味で価値があります。全体の65.3%が中国語の研究で、そのうち59.2%が中国語の学術誌に掲載されたものです。従来の英語圏中心のメタ分析では得られなかった視点が加わっています。

次に、学習者自律性を認知・メタ認知・動機・社会という四つの側面に分けて効果量を算出したことで、介入が「何に」効くのかという問いへのより精緻な回答が可能になっています。これはTassinari(2012)の動的モデルに基づいた分類で、多くの先行メタ分析が「自律性」を一枚岩の概念として扱ってきたことへの重要な批判的前進です。

一方、限界も明確です。第一に、ほぼ全ての研究が研究者自身による介入・評価という点から生じる評価者バイアスの問題は、効果量の解釈において常に念頭に置く必要があります。第二に、長期的効果(追跡調査)のエビデンスが乏しく、ストラテジー指導の最終的な目標である「生涯学習能力の育成」への効果は不明のままです。第三に、準実験デザインが大半を占めるため、因果推論には一定の限界があります。無作為割り当てによる実験デザインの研究が今後増えることが望まれます。第四に、学生の専攻や英語習熟度レベルに関するデータが不足しており、これらが調整変数となり得るかどうかは未検討のままです。

先行研究との対比から見えること

Plonsky(2011)のメタ分析は1980年から2009年の61研究を対象とし、全体効果量0.49を報告しています。同研究では「態度」への効果が有意でなかったという知見が本論文の複数側面測定の重要性を示す議論と直接連動しており、約10年を経て知見が更新・深化されていることがわかります。Ardasheva et al.(2017)は言語成果0.78・SRL成果0.87という値を報告していますが、本論文はさらに特定的な文脈(中国の大学EFL)に絞ることで、より高い効果量とより精緻な分析を実現しています。Dignath & Büttner(2008)が初等・中等教育レベルを対象としていたのに対し、本論文は高等教育レベルに特化した初めての本格的なメタ分析であるという意義も見逃せません。大学進学後の自律的学習能力の重要性は誰もが認識していながら、この段階に特化した研究の蓄積は世界的に見てもまだ十分ではないのです。

実践への接続と今後の研究課題

著者たちが強調する実践的含意の中で、特に印象的なのは「訓練するストラテジーの種類は有意な調整変数ではなかった」という知見から導き出される主張です。認知的・メタ認知的・社会情動的のいずれのストラテジーを教えても、学習者自律性や英語成果への影響に大きな差はなかったということは、教師にとって一定の裁量の余地があることを意味します。自分が得意なストラテジー、学習者のニーズに合ったストラテジーを選択する自由度があるということです。これは実践者にとって、肩の荷が少し軽くなるような知見ではないでしょうか。

また、多くの研究が一学期以上の長期にわたる介入を含んでいたという事実は、コストパフォーマンスという観点からの慎重な検討を促します。しかし同時に、短期介入でも有意な効果が確認されていることは、まず「小さく始める」ことの正当化にもなります。

今後の研究課題としては、無作為割り当てによる実験デザインの実施、評価者の独立性の確保、長期追跡調査の実施、学生の英語習熟度や専攻を変数として組み込んだ分析、そして完全オンライン環境やハイブリッド環境でのストラテジー指導効果の検証が挙げられます。日本でこのようなアジェンダを実行するためには、個々の実践研究者と研究機関が協力して、共通の測定枠組みを持ちながら研究を積み重ねていく必要があるでしょう。

この論文が投げかける問い

この論文を読み終えて、私が感じるのは「測ることの責任」とでも言うべき問いです。効果量が高かった研究の多くは、複数側面の学習者自律性を丁寧に測定していました。逆に言えば、動機づけの変化しか測定しなかった研究は、それ以外の変化に気づくことができなかったわけです。授業の工夫が「成果として見えない」ことの一部は、測定の問題である可能性があります。日本の英語授業でも「試験の点数が上がったかどうか」以外の変化を記録・分析する実践が、もっと広がってほしいと思います。

学習ストラテジー指導は特別な設備も高額な教材も必要としません。教師が意識的に「どう学ぶか」を教え、学習者がそれを自分のものにしていく過程を丁寧に支えること。それが学習者自律性の育成につながり、ひいては生涯にわたって言語を学び続ける力の基盤になる。そのことをこのメタ分析は、49本の研究の声を束ねながら静かに、しかし力強く語っています。


Wang, X., Zhang, Q., Chen, H., Neitzel, A., & Davis, M. (2024). The effects of language learning strategy instruction on college students’ English achievement and learner autonomy in mainland China: A meta-analysis. International Journal of Education Research, Advance Online Publication. https://doi.org/10.1016/j.ijer.2024.102442

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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