研究の背景と筆者について
英語を外国語として学ぶEFL(English as a Foreign Language)の文脈において、学習者がどのように自分自身の学習をコントロールし、自律的に成長していくかという問いは、英語教育の世界では長年にわたって議論されてきたテーマです。本稿で取り上げるのは、Ali RezalouとIsmail Fırat Altayによる論文 “Strategies for Developing Autonomy by EFL Learners and Its Relation to Foreign Language Achievement”(2022年、Shanlax International Journal of Education掲載)です。この研究は、Rezalouが2014年にHacettepe大学に提出した修士論文を土台にしたものであり、トルコのEFL教育文脈における学習ストラテジーと学習者自律性の関係を定量的に分析しています。
Rezalouは現在Atatürk大学に所属し、Altayは共著者としてHacettepe大学に在籍しています。トルコという文脈は、英語が外国語として学ばれる典型的な環境であり、その点で日本の英語教育環境と多くの共通点を持ちます。日本でも英語は「外国語」として学校教育の場で教えられており、学習者の多くは日常生活で英語を使う機会が限られているという状況が続いています。そのため、この研究が示す知見は、日本の英語教育関係者にとっても決して遠い話ではありません。
学習者自律性とはそもそも何か
まず、この論文のキーワードである「学習者自律性(learner autonomy)」について整理しておきましょう。自律性とは、ざっくり言えば「自分の学習に責任を持つ能力」のことです。論文中でも引用されているHolec(1981)の定義によれば、自律性とは「自分自身の学習に対して責任を取る能力」であり、Dickinson(1987)はさらにこれを、学習に関わる意思決定とその実施を学習者が全面的に担う状況として説明しています。
これを日本の教室場面に当てはめて考えてみると、なかなか難しいテーマだと感じられるかもしれません。日本の多くの英語授業では、カリキュラムや教科書、授業の進め方はすべて教師が決定し、生徒はその枠組みの中で受動的に学ぶことが多いからです。もちろん近年では、主体的・対話的で深い学びを目指す学習指導要領の改訂もあり、自律的な学習者の育成は日本でも重視されるようになっています。しかしながら、「自律的学習者を育てるために何をすればよいのか」という問いへの具体的な回答は、いまだ模索中という感覚が正直なところではないでしょうか。
研究の設計と参加者
本研究はトルコのHacettepe大学の英語教授法(ELT)学科に在籍する学生150名(女性117名、男性33名)を対象に実施されました。対象は2年生から4年生で、年齢は18歳から22歳以上にわたります。参加者の選定には単純無作為抽出法が用いられており、研究の信頼性確保への配慮がうかがえます。
データ収集にはChan, Spratt, and Humphreys(2002)が開発した質問紙を研究者が修正・適用したものが使われており、30項目からなるリッカート尺度形式(「常に」から「決してしない」までの5段階)で回答が求められました。信頼性係数はα=0.89と高く、測定ツールとしての安定性は十分に確保されています。また、学生の成績(GPA)も参照されており、学習ストラテジーの使用と実際の学業成績との相関を調べるという、実証的な枠組みが整えられています。
分析手法としては、ストラテジーの使用頻度を把握するために記述統計が、ストラテジーとGPAの関係を調べるためにSpearmanの順位相関係数が、性別との差異を検討するためにMann-Whitney U検定が、年齢との関係を調べるためにKruskal-Wallis検定がそれぞれ用いられました。
最も使われたストラテジーはメタ認知
本研究の核心的な発見のひとつは、3種類のストラテジー(認知的・メタ認知的・社会的)の中で、学生がメタ認知ストラテジーを最も多く使用していたという点です。中央値で見ると、認知的ストラテジーが2.37、社会的ストラテジーが2.50、そしてメタ認知ストラテジーが2.68という結果でした。いずれも「低使用(1〜2)」と「高使用(3.5〜5)」の中間に当たる「中程度の使用(2〜3.5)」の範囲内ではありますが、その中でもメタ認知ストラテジーが際立っています。
メタ認知ストラテジーとは、学習プロセスそのものを管理・計画・モニタリングするための方略のことです。ノートを取る、要約する、リソースを活用する、学習活動を自分で選ぶ、自分の学習を振り返るといった行動がこれに相当します。これらは学習者が自分の頭の中の思考プロセスに目を向け、それを意識的にコントロールしようとする行為であり、自律的学習者の特徴とも深く結びついています。
Zhang(2007)はこの点について、メタ認知が学習者の認知的・定期的な学習コントロールを助け、外国語達成度を高めると述べています。本研究の結果はそれを裏付けるものと言えるでしょう。逆に言えば、学習者がメタ認知ストラテジーをほとんど使っていない場合、どれだけ授業時間を増やしても学習の定着には限界があるということです。
成績との相関が示すもの
本研究のもうひとつの重要な発見は、学習ストラテジーの使用と学生のGPAとの間に有意な正の相関が見られたことです。Spearmanの相関係数で見ると、認知的ストラテジーはr=0.203(p=0.013)、社会的ストラテジーはr=0.245(p=0.003)、そしてメタ認知ストラテジーはr=0.328(p<0.001)と、いずれも統計的に有意な相関を示しています。中でもメタ認知ストラテジーとGPAの相関が最も強いという事実は、注目に値します。
これはO’Malley et al.(1985)の研究とも整合しています。彼らの研究では、成功した学習者はそうでない学習者よりも包括的な学習ストラテジーを使用していることが示されました。また、Green and Oxford(1995)も、より高い習熟度の学習者はすべてのタイプの学習ストラテジーをより頻繁に使用すると報告しています。Griffiths(2003)でも、ストラテジー使用と言語習熟度の間に強い正の相関が確認されています。本研究はこれらの先行研究と一致する結果を出しており、その再現性という意味でも価値があります。
もっとも、相関関係は因果関係ではありません。「ストラテジーを使うから成績が上がるのか」、それとも「もともと優秀な学生がストラテジーをよく使うのか」という鶏と卵の問題は依然として残ります。この点について本論文は明示的な議論を行っておらず、今後の研究での深掘りが期待されます。
性別・年齢の影響はほぼなし
先行研究の多くは、女性学習者が男性学習者よりも多くの学習ストラテジーを使用すると報告しています。Ehrman and Oxford(1989)、Oxford and Nyikos(1989)、Kaylani(1996)、Green and Oxford(1995)、Zare(2010)などはその代表的なものです。特にBacon(1992)は、女性がメタ認知的・認知的ストラテジーをより多く使用すると報告しており、こうした先行研究の積み重ねからは、性別がストラテジー使用に影響を与えるという仮説が自然に浮かび上がります。
しかし本研究では、Mann-Whitney U検定の結果、性別によるストラテジー使用の差は統計的に有意ではありませんでした。認知的(p=0.289)、メタ認知的(p=0.130)、社会的(p=0.871)のいずれも差は見られませんでした。これは先行研究とは対照的な結果であり、研究者自身も論文内でこの点を認めています。
では、なぜこのような結果になったのでしょうか。参加者の大多数が女性(117名中の女性対33名の男性)であり、サンプルサイズに偏りがある点は考慮すべきでしょう。また、Hacettepe大学のELT学科という特定の文脈では、男性学生も比較的高い英語学習動機を持っている可能性があり、それが性差を相殺している可能性も否定できません。
年齢についても同様に、Kruskal-Wallis検定によってすべてのストラテジーカテゴリにおいて有意差は見られませんでした。この結果はEhrman and Oxford(1989)の知見、すなわち年齢要因が言語学習において必ずしも決定的ではないという立場と整合しています。
日本の英語教育への示唆
この研究が日本の英語教育に対して持つ意味は、いくつかの点で具体的です。まず最も重要なのは、メタ認知ストラテジーの指導を明示的に授業に組み込む必要性です。日本の英語授業では、語彙や文法の指導に多くの時間が割かれますが、「自分の学習をどのようにモニタリングするか」「何がわからないかをどのように把握するか」「どのようなリソースをどう活用するか」といったメタ認知的なスキルを教える機会は限られています。
教師が「勉強しなさい」と言うだけでは学習者は動きません。どのように勉強するかを教えることが、真の意味での学習者の自律性を育てることにつながります。たとえば、授業の終わりに「今日の授業で何がわかって、何がわからなかったかを3行で書いてみよう」という活動を導入するだけでも、学習者のメタ認知的意識を高める第一歩となります。
また、本研究が示すように、カリキュラムや教科書が自律性の原理に沿って設計されているかどうかを定期的に見直すことも重要です。日本では教科書の選定が学校や自治体レベルで行われることが多く、個々の教師がカリキュラムに関与する余地は限られていますが、少なくとも授業の中で学習者が選択や判断を行う機会を意図的に作ることは可能です。たとえば、学習の目標を教師が一方的に設定するのではなく、生徒が自分なりの学習目標を設定し、それを振り返る場面を作るといった実践がこれにあたります。
さらに、性別や年齢によるストラテジー使用の差が必ずしも存在しないという本研究の結果は、すべての学習者に対して平等にストラテジー指導を提供する根拠となります。「女子のほうが真面目だから」「若いうちに習得させなければ」という固定観念に縛られず、どの生徒にも効果的な学習法を教えることが、公平な教育実践につながります。
研究の限界と今後の課題
本研究にはいくつかの限界も存在します。まず、対象がHacettepe大学のELT学科の学生に限定されているため、結果の一般化には慎重さが求められます。ELT学科の学生は、一般の英語学習者と比べて英語への動機や習熟度がもともと高い可能性があり、その点での偏りは否定できません。
次に、質問紙のみによる自己報告データという点も注意が必要です。学習者が「自分はこのストラテジーを使っている」と答えたとしても、実際の使用状況が正確に反映されているかどうかは保証されません。研究者自身も、インタビューやシンクアラウドプロトコルなどの補完的な手法を用いることで、より信頼性の高い結果が得られると指摘しています。この提言は非常に妥当であり、今後の研究では混合研究法(mixed methods)を採用することが望まれます。
また、質問紙の項目配置に関して、本論文の末尾に掲載されている付録を見ると、若干気になる点があります。たとえば「英語でeメールを送る」「英語のラジオプログラムを聞く」などの項目がメタ認知ストラテジーのセクションに含まれていますが、これらはむしろ認知的ストラテジーや社会的ストラテジーに分類される行動に近いように思われます。研究者が質問紙を「適応・修正」したと述べているにもかかわらず、こうした分類の妥当性については、論文中で十分な説明がなされていない点は惜しいところです。
関連研究との対比から見えてくること
Oxford(1990)による言語学習ストラテジーの6分類(記憶・認知・補償・メタ認知・情意・社会的ストラテジー)は、この分野の基礎的な枠組みとして広く使われています。本研究はその中の3つのカテゴリ(認知・メタ認知・社会的)に絞っており、分析の焦点は明確ですが、残りの3つ(記憶・補償・情意)が除外されている理由については、もう少し丁寧な説明があってもよかったと感じます。
一方で、本研究が先行研究と異なる結果(性差が有意でない)を出していることは、学問的な観点からむしろ価値があります。科学は反証可能性によって進歩するものであり、先行研究の知見をそのまま追認するだけでは、新たな知識の創出には至りません。本研究が示す「性別差が見られない」という結果は、文脈の違い(国、教育機関、学習者の特性など)がストラテジー使用に与える影響の複雑さを示唆しており、安易な一般化を戒める意味でも重要なデータと言えます。
まとめ―自律的学習者を育てるために私たちができること
本論文は、メタ認知ストラテジーが外国語学習の自律性と達成度の両面において中心的な役割を果たすことを、トルコのEFL文脈において実証しました。規模や文脈に一定の限界はあるものの、その方向性は先行研究と整合しており、教育的示唆としても具体的で実践的です。
英語教育の現場に立つ者として、この研究から受け取るべきメッセージは明確です。それは、言語知識を教えるだけでなく、学び方そのものを教えるという視点の重要性です。生徒に魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えるという古くからのたとえがありますが、それはまさにメタ認知ストラテジーの指導を指しています。自分の理解状態を把握し、計画を立て、振り返り、修正する力を持った学習者こそが、教室を離れた後も学び続けることができるのです。
日本の英語教育もまた、このような「自律的学習者の育成」という課題と真剣に向き合う時期に来ています。本研究は、その議論を深めるための実証的な足場のひとつとして、十分に参照する価値があります。
Rezalou, A., & Altay, I. F. (2022). Strategies for developing autonomy by EFL learners and its relation to foreign language achievement. Shanlax International Journal of Education, 10(3), 79–85. https://doi.org/10.34293/education.v10i3.4961
