研究の背景と概要
コロナ禍は、世界中の教育現場に否応なく変革を迫りました。日本でも、2020年以降、多くの学校や大学がオンライン授業への転換を余儀なくされ、教師と学生が同じ空間で顔を合わせながら学ぶという、これまで当然だったスタイルが突然失われました。そうした状況の中で、「自分で学べる力」すなわち学習の自律性がいかに重要かを、多くの教育者が痛感したことでしょう。本稿で紹介するのは、まさにその問題に正面から向き合った研究です。
Aam Ali Rahman、Anggi Angraeni、Rizal Ahmad Fauziの三名は、インドネシアのUniversitas Pendidikan Indonesia(インドネシア教育大学)に所属する研究者で、英語教育を専門としています。本論文 “The Activation of Learners’ Metacognition to Promote Learning Autonomy of Good Language Learners” は、2021年に Pegem Journal of Education and Instruction に掲載されました。研究の問いはシンプルでありながら深いものです。「優れた言語学習者が示す学習の自律性と、メタ認知の活性化にはどのような関係があるのか」というものです。
メタ認知とは、ひと言で言えば「自分の思考について考えること」です。Anderson(2002)の定義を借りれば、過去の出来事を振り返り、そのときの思考や感情を記述し、自分の学び方を批判的に評価して改善につなげる能力です。難しそうに聞こえますが、たとえば「あの勉強法は自分に向いていなかった」「次は声に出して練習してみよう」と考えること自体が、メタ認知の一形態です。日常的な学習の中に、実はこの力は潜んでいます。
研究デザインと参加者の選定
本研究は質的なケーススタディのデザインを採用しています。まず英語教育学専攻の大学院生26名を対象に、Holec(1979)が提唱した学習自律性の五つの基準―学習目標の設定、学習内容と進度の定義、使用する方法と技法の選択、習得手続きのモニタリング、習得内容の評価―を用いたアンケートを実施しました。その結果、五つすべてを満たす「自律的な優れた言語学習者」として分類されたのが12名でした。残りの14名は一つか二つの基準を満たしていなかったため、「非自律的な優れた言語学習者」と分類されています。
その12名に対して、次にメタ認知の五つの構成要素―Griffiths(2008)が整理した「学習の準備と計画」「ストラテジーの選択と使用」「学習ストラテジーのモニタリング」「ストラテジーの調整・統合」「学習の評価」―をそれぞれ尋ねるオープンエンド形式の質問をオンラインで実施し、その回答をコンテクスチュアルコーディングで分析しています。研究規模としては12名と小さく、抽象的な一般化には限界がありますが、質的分析の深みという点では十分な根拠があると言えます。
発見された五つのメタ認知要素の実態
まず「学習の準備と計画」については、12名中11名が実践していると回答しました。ただし、その頻度や対象はさまざまで、常に計画を立てるという5名がいる一方、特定の条件下でのみ実施するという6名もいました。興味深いのは、計画の対象が人によって異なる点です。ある学習者は学習ストラテジーの選択を、ある学習者は教材の準備を、またある学習者はスケジューリングによる進捗管理を重視していました。しかし共通して、彼らはいずれも自分の学習目標を念頭に置きながら準備を進めており、この点が自律性との連動を示しています。
「ストラテジーの選択と使用」では、11名が実践していると答えました。彼らは自分の強みと弱みを把握しており、過去の学習経験に基づいてどのストラテジーが効果的かを判断できると述べています。これはGriffiths(2015b)が指摘する、優れた言語学習者が学習文脈・目標・個人特性を踏まえてストラテジーを選択するという特徴と一致します。ただし、選択の有効性に自信を持てるのは1名のみで、大多数は「教材の特性によっても変わる」として、教員のサポートが引き続き必要だと感じていました。これは、自律性が「完全な独立」ではなく、適切な足場かけ(スキャフォールディング)との共存であることを示唆しています。
「学習ストラテジーのモニタリング」については、11名が実施し、2名は意識的には行っていないと答えました。ただしその2名も、自己評価や内省を通じて無意識にモニタリングをしている可能性があると著者らは指摘しています。Boström & Lassen(2006)を引きながら、何が自分に合うかを経験的に把握できているという事実は、何らかの形でモニタリングが機能している証拠だと論じています。興味深いのは、ストラテジーそのものを振り返る学習者と、習得プロセスを振り返る学習者に分かれた点です。前者が4名、後者が6名でした。
「ストラテジーの調整・統合」では、11名が実践できていると述べましたが、1名は確信が持てないと答えました。ストラテジーがうまく機能しない場面として、外部要因―特に担当教員の指導方針―が障壁になることが指摘されました。自己コミットメント、勇気、創造性、批判的思考といった内的要因が成功に結びつくと多くの参加者が述べており、これは自律的学習者の内的動機との整合性を示しています。
「学習の評価」については、全員が実施していると回答しました。これが唯一、12名全員が共通して持つメタ認知要素であり、学習の自律性との重なりも最も顕著です。参加者たちは、プロセスと結果の両面を評価することで次の学習への改善策を導き出すと述べており、Anderson(2002)が提示する「何を達成しようとしているか」「どんなストラテジーを使っているか」「それはうまく機能しているか」「他に何ができるか」という四つの問いが自然と機能している様子がうかがえます。
92%という数字が示すもの、そして残りの8%
本研究の結果として最も注目されるのは、12名中11名、つまり92%の自律的学習者がメタ認知を活性化させているという事実です。これは偶然の一致とは言いがたく、学習の自律性とメタ認知の間に強い相関があることを示唆しています。しかし著者らは慎重に、これが「決定的な因果関係」ではないと断っています。
残りの1名、つまり8%の参加者は、五つのメタ認知要素のうち「ストラテジーの調整・統合」と「学習の評価」の二つのみを示しており、にもかかわらず学習の自律性の五基準をすべて満たしていました。これは非常に興味深い例外です。著者らはこの「例外」を切り捨てるのではなく、動機、不安、自己肯定感といった他の学習者内的変数が自律性に影響している可能性を指摘し、さらなる研究の必要性を呼びかけています。この姿勢は誠実で好感が持てます。
日本の英語教育現場への示唆
この研究が日本の英語教育関係者にとってどのような意味を持つか、少し具体的に考えてみましょう。日本の英語教育、とりわけ大学英語教育では、授業外での自律的な学習をどう促進するかが長年の課題です。多くの学習者は、教師から与えられたタスクはこなすものの、自ら学習目標を設定したり、ストラテジーを意識的に選んだりすることが苦手だという声を、現場の教師からよく耳にします。
本研究はその課題に対して、「まずメタ認知を育てることが自律性への道につながる」という示唆を与えています。逆に言えば、自律性を育てたいなら、単に「もっと自分で学びなさい」と促すだけでは不十分で、「自分の学び方について考える習慣」を意図的に育てる必要があるということです。これは、日本の多くの授業で実践されているポートフォリオ学習や学習日記の記述と直接つながる知見です。ただそれらも、表面的な記録にとどまるのではなく、Griffiths(2008)が示すメタ認知の五要素を意識的に反映できるよう設計することで、より深い学習につながるでしょう。
また、著者らがオンライン教育とフリップト・クラスルームを背景として本研究を位置づけていることも、日本の文脈で重要です。コロナ禍以降、日本でもハイブリッド授業やオンデマンド授業が定着しつつあります。そうした環境では、教師の即時フィードバックや教室内での対話が減少するため、学習者が自分自身で進捗を確認し、修正し、評価する力がますます求められます。本研究の知見は、そのような現代的な学習環境に対しても有効な視点を提供しています。
関連研究との対比と学術的考察
Holec(1979)の学習自律性の概念は、もともとフランスの成人語学教育の文脈で生まれたものですが、本研究はそれをインドネシアの大学院生という文脈で再検証しています。そしてGriffiths(2008)の「優れた言語学習者」研究の枠組みを参照することで、自律性とメタ認知を「優れた学習者に共通する特性」という視点から統合的に論じています。この理論的な架け橋は、本研究の重要な貢献の一つです。
一方で、Victori & Lockhart(1995)は、学習者の信念・スタイル・ニーズの繰り返し診断こそが自律性へのメタ認知的基盤を形成すると論じており、本研究の参加者の行動とも一致します。また、Kayaoglu(2013)が「優れた学習者はメタ認知的ストラテジーを選ぶ傾向がある」と指摘していることを踏まえれば、本研究の92%という数値は、これらの先行知見を実証的に支持するものと言えます。
批判的な視点からは、いくつかの点を指摘できます。まず、サンプルサイズが12名と小さく、しかも英語教育学の大学院生という特定のグループに限定されています。大学院生はそもそも学習に対する意識が高く、一般の学習者への一般化には慎重であるべきです。次に、「自律的かどうか」をアンケートの自己報告で判断している点も、測定の妥当性という観点からは検討の余地があります。学習者が自分を「自律的だ」と思っていても、実際の学習行動がそうでない場合もあるからです。観察データや学習記録との組み合わせがあれば、より強固な根拠になったでしょう。
また、論文中には「30名の参加者」という記述が抽象部分に見られる一方で、本文中では「26名」という数字が使われており、若干の数値の不一致があります。こうした記述の揺れは、論文の完成度という観点では惜しい点です。ただし、これが研究の核心的な発見を損なうものではなく、全体的な論旨は一貫しています。
教育的インプリケーションの実践化に向けて
本研究が最終的に示すのは、教師・講師が「メタ認知を促す授業設計」を意識することの重要性です。著者らは具体的に、Andersonの四つの問いを学生に投げかけることで自己評価を促す方法を提示しています。これは日本の英語授業でもすぐに取り入れられる実践的なアイデアです。
たとえば、授業の終わりに「今日どんな方法で学んだか」「それは効果的だったか」「次はどう改善するか」という三つの問いをライティングで答えさせるだけでも、メタ認知的振り返りの習慣が育まれます。高校の英語授業でも、大学のライティングクラスでも、TEAPやIELTSの準備クラスでも、応用は幅広いです。日本の学習指導要領でも「学びに向かう力、人間性等」が三本柱の一つとして掲げられていますが、その具体的な育成方法として、メタ認知を意識した授業実践は有力な選択肢となります。
さらに、著者らが示唆するように、学習者の「不安・動機・自己肯定感」といった情意的変数も自律性に影響するとすれば、メタ認知の育成は認知的側面だけでなく、情意的サポートと組み合わせて設計されるべきでしょう。これは、学習者中心主義の観点とも合致しており、現代の英語教育が向かうべき方向性と整合的です。
総評
本研究は、規模としては小さいながらも、メタ認知と学習自律性という二つの重要な概念の関係を実証的に探ろうとした誠実な試みです。COVID-19という特殊な状況下における学習のあり方への問いかけとして、タイムリーな意義を持っています。質的アプローチによる深い記述は、量的研究では見えにくい学習者の内的プロセスを丁寧に掘り起こしており、教育実践への具体的な示唆も豊富です。
日本の英語教育関係者にとって、この研究は「自律学習者を育てたいなら、まず学習者が自分の学び方を意識できるよう支援せよ」というメッセージとして受け取れます。それは派手なICT活用でも、画期的なカリキュラム改革でもなく、日々の授業の中に「振り返りの文化」を埋め込むという、地道でありながら本質的な取り組みです。そうした積み重ねが、自律的な英語学習者の育成につながるという確信を、本研究は静かに、しかし確かに与えてくれます。
Rahman, A. A., Angraeni, A., & Fauzi, R. A. (2021). The activation of learners’ metacognition to promote learning autonomy of good language learners. Pegem Journal of Education and Instruction, 11(4), 249–253. https://doi.org/10.47750/pegegog.11.04.24
