コロナ禍が世界の教育現場を一変させてから数年が経ちました。授業がオンラインに移行し、教師と学習者のあいだに物理的な距離が生まれると同時に、フィードバックの機会も大幅に減少しました。そのような状況のなかで、「学習者自身が自分の学びを評価する」という自己評価(self-evaluation)の重要性が、あらためて注目を集めるようになっています。今回取り上げる論文 “Online Self-Evaluation: The EFL Writing Skills in Focus”(Al-Mwzaiji & Alzubi, 2022)は、まさにその問いに正面から向き合った研究です。

執筆者のKhaled Nasser Ali Al-MwzaijiとAli Abbas Falah Alzubiはいずれも、サウジアラビアのナジュラン大学(Najran University)英語学科に所属するアシスタント・プロフェッサーです。Al-Mwzaijiはインドのハイデラバード中央大学(Central University of Hyderabad)でPh.Dを取得しており、文体論・批評的談話分析・翻訳が専門です。一方、Alzubiはマレーシアのマラヤ理科大学(Universiti Sains Malaysia)で応用言語学のPh.Dを取得しており、EFL指導・言語習得・モバイル支援言語学習などを専門としています。両者ともに、学習者の自律性や学習ストラテジーに継続的な関心を持っており、本研究はその延長線上に位置づけられます。

研究の背景と問題意識

本研究の問題意識は、オンライン学習環境において教師からの即時フィードバックが得にくくなっているという現実にあります。日本の英語教室でもよく見られる光景ですが、教師が一人で多くの学習者のライティングを添削するには限界があります。まして授業がオンライン上で行われるとなれば、そのタイムラグはさらに大きくなります。そうした状況に対する一つの答えとして、研究者たちが着目したのが「自己評価ストラテジー」です。

Oxford(1990)の分類によれば、自己評価は間接的なメタ認知的言語学習ストラテジーの一つであり、学習者が自分の言語学習プロセスをコントロールするために用いるものです。自己モニタリング(self-monitoring)が「誤りを気づき特定すること」であるのに対し、自己評価(self-evaluation)は「自分の進歩を評価すること」であると定義されています。これら二つは密接に関連しており、ライティング指導においては特に有効な組み合わせとされています。

研究の舞台となったのは、サウジアラビアのナジュラン大学における予備課程(Preparatory Year, PY)です。この課程は、高校の理系クラス出身の学生が医学・工学・コンピュータサイエンスなどの専門課程に進む前に、英語・数学・コンピュータスキルなどを学ぶ2学期間のプログラムです。参加した学習者はすべて男性で、平均年齢19歳、英語レベルは準中級(pre-intermediate)という均質なグループでした。

研究デザインと使用された手法

本研究は準実験(quasi-experimental)デザインを採用し、説明的混合研究法(explanatory mixed methods)を用いています。60名の男子学生が実験群(30名)と統制群(30名)に分けられました。実験群は自己評価ストラテジーのトレーニングを受けたうえでライティング授業を受け、統制群は従来どおり教師評価のみを受ける形で学習しました。

データ収集には四つのツールが使用されました。まず自己モニタリング・チェックリストです。これは教科書の各単元に対応した8種類のチェックリストで、文構造・句読点・大文字の使用・縮約形・代名詞・接続詞などの項目が含まれています。次に自己評価アンケートで、これはOxford(1990)に基づき開発された6項目の質問紙です。第三に期末達成度テストです。Blackboardを通じてオンラインで実施され、多肢選択・真偽問題・空欄補充など50問で構成されました。そして最後にポートフォリオです。Padletというオンラインプラットフォームを使い、実験群と統制群それぞれのページに学習者がライティング課題を投稿する形式がとられました。

トレーニングの内容は理論と実践の二段構えで構成されており、学習者は自己評価の定義・種類・意義・特徴について学んだうえで、実際にチェックリストを使った練習を積みました。毎週2時間の授業が1学期間(約15週)にわたって行われたことを考えると、介入の量としては比較的充実していると言えます。

主な発見―どの領域で誤りが多かったか

ポートフォリオ分析の結果として特に注目すべきは、誤りのパターンです。学習者がもっとも苦手としていたのは句読点(punctuation marks)の使用であり、実験群が17件(39%)の誤りを犯したのに対し、統制群は27件(61%)でした。次いで多かったのは大文字の使用(capitalization)で、実験群5件・統制群7件。さらに縮約形・略語(contractions/abbreviations)では実験群5件・統制群6件、主語と動詞の一致(subject-verb agreement)では実験群2件・統制群5件という結果でした。

これらの誤りは、実は日本の英語学習者にも非常になじみのある問題です。「文の最初を大文字にしない」「ピリオドやコンマを忘れる」「三人称単数のsが抜ける」といった誤りは、日本の中学・高校の英語ライティングでも頻繁に観察されます。その意味で、本研究の知見は決してサウジアラビアに限定された話ではありません。

また、実験群が統制群より2倍以上多くの課題を提出したことも注目に値します。実験群は79件(69%)、統制群は36件(31%)の課題を提出しました。自己評価ストラテジーを用いることで、学習者が積極的に課題に取り組む姿勢が培われたと研究者たちは解釈しています。確かに、自分でチェックして直す、という行為そのものが、書くことへの動機づけに繋がっていた可能性は十分に考えられます。

自己評価アンケートの結果が示すもの

自己評価アンケートの全体平均は2.52(3段階尺度)で「高」の水準に達しており、実験群の学習者たちは総じてライティング能力の向上を実感していたことがわかります。特に高かったのは「教室内でのライティングをクラスメートや教師に理解してもらえるか」という項目で、平均2.73という高得点でした。一方で「教室外での日常的なライティングを一般の人に理解してもらえるか」という項目は平均2.33と「中」の水準にとどまりました。

この差は興味深い点を示唆しています。つまり、学習者の自己評価能力は、授業という文脈のなかでは機能しやすい一方、より広い実際のコミュニケーション場面への転移はまだ十分ではないということです。これはまさに「教室の英語」と「実際の英語使用」のギャップという、日本の英語教育が長年抱えてきた問題とも重なります。

統計分析と効果量の解釈

実験群と統制群の期末テスト得点の比較には、Mann-Whitney U検定が用いられました(データが正規分布に従わなかったため)。結果は実験群の平均順位35.92に対し統制群は25.08で、統計的に有意な差(p = .016)が認められました。実験群の方が明らかに高い得点を示したのです。

しかし、ここで重要なのが効果量(effect size)です。Cohenのdは0.09、Mann-Whitney U検定の効果量は0.31という値が示されており、これは「低い実践的意義」と解釈されています。統計的には有意差があっても、その差が実際にどれほど大きいかという意味での効果量が低いのは、なぜでしょうか。

研究者自身も率直に認めているように、その要因としてはオンライン試験における不正行為の可能性、テストが多肢選択式のみであったこと、問題作成の質(識別力の低い選択肢など)が挙げられています。つまり、自己評価ストラテジーの効果が低かったというよりも、それを測定するためのテスト自体に問題があった可能性が高いのです。この点については、批評として後で改めて触れます。

先行研究との対比

自己評価がEFLライティングに与える効果については、すでに多くの先行研究が存在します。Abolfazli and Sadeghi(2012)はイランの大学生を対象とした研究で、自己評価を用いた学習者が同輩評価・教師評価を用いたグループを上回ったことを報告しています。Butler and Lee(2010)は韓国の小学生を対象に自己評価ツールの効果を検証し、言語パフォーマンスと正確さの向上を確認しています。Tongpai and Deerajviset(2017)はタイの学部生68名を対象に、自己評価チェックリストが特に文章構成の弱点把握に有効であることを示しました。

本研究はこれらの流れを汲みつつ、「オンライン」という条件を加え、Saudi Arabiaという地域的文脈でデータを収集したという点で独自の貢献をしています。特に、オンライン環境下での自己評価という視点はコロナ禍以降に急速に重要性を増しており、その先駆的な研究として位置づけられる価値があります。

研究の限界と批判的考察

この研究を評価するうえで、いくつかの点について批判的に検討する必要があります。

まず、サンプルの均質性と代表性の問題です。参加者は全員サウジアラビア人の男性で、年齢も英語レベルも揃っており、L1はアラビア語です。この均質性は内的妥当性を高める一方で、外的妥当性(一般化可能性)を著しく制限します。女性学習者が含まれていないのは、サウジアラビアの教育制度における男女別学という現実的制約によるものですが、研究者自身もこれを限界として認識しており、将来の研究では性差の影響を検討することを提言しています。

次に、達成度テストの内容的妥当性の問題があります。期末テストは多肢選択・真偽問題・空欄補充・文の並び替えといったオブジェクティブ形式の問題で構成されており、ライティング能力を直接測るテストとは言えません。自己評価ストラテジーを使って「書く力」を伸ばした学習者が、このようなオブジェクティブ形式のテストで必ずしも高得点を取るとは限りません。効果量が低かった原因の一つは、まさにここにあると考えられます。自由英作文や段落ライティングなどのプロダクション型タスクを評価に組み込むべきだったでしょう。

また、自己評価アンケートの項目数が6つと少なく、また3段階尺度を使用していることも気になります。Likert尺度の段階数は少なければ少ないほど回答の分散が制限され、差異を検出する感度が下がります。5段階あるいは7段階尺度を用いた方が、学習者の実感の違いをより精度よく捉えられたかもしれません。

さらに、トレーニングの質と量についての記述が不十分です。実験群は「理論と実践」によるトレーニングを受けたとされていますが、それが何時間で、どのような内容で、誰が実施したのかについての詳細は十分に述べられていません。再現性の観点から、より詳細な記述が望まれます。

日本の英語教育への示唆

日本における英語教育の文脈に引き直して考えてみると、この研究はいくつかの重要な問いを提起しています。

一つは、「学習者の自己評価能力は教えられるのか」という問いです。本研究はトレーニングを施したうえで自己評価ストラテジーを導入しており、その意義は大きいと言えます。日本の学校教育では、ルーブリックを用いた自己評価や相互評価が少しずつ普及しつつありますが、「なぜ評価するのか」「どう評価するのか」という点を体系的に指導するケースはまだ多くありません。本研究が示すように、ストラテジー指導を伴わない自己評価はその効果が限定的となる可能性があります。

もう一つは、「テクノロジーを活用した学習記録の可能性」という問いです。本研究ではPadletというオンラインツールを用いてポートフォリオを管理しており、学習者がデジタル上で自分の成果を蓄積していく仕組みを採用しています。GIGAスクール構想によって一人一台端末が整備された日本においても、こうしたデジタル・ポートフォリオを活用した自己評価の実践は十分に応用可能です。

また、「オンライン授業における評価のあり方」という視点も重要です。コロナ禍以降、日本でもオンライン授業が急増しましたが、評価の仕組みは対面授業のものを流用しているケースが少なくありませんでした。教師の目が届きにくいオンライン環境だからこそ、本研究が提唱するような学習者主体の自己評価ストラテジーを取り入れることが、評価の質を維持するための一つの鍵になるかもしれません。

研究の総合的評価

総じて言えば、この研究はオンライン環境下でのEFLライティングにおける自己評価ストラテジーの効果を実証的に示した、意義ある研究です。混合研究法の採用によって、量的データと質的データの双方から多角的に問題に迫ろうとした姿勢は評価できます。またPadletというツールを使ったポートフォリオ管理や、チェックリストを用いた段階的な誤り修正の仕組みは、実践的で応用可能なモデルを提示しています。

一方で、測定ツールの精度・サンプルの多様性・効果量の低さという課題が残っており、今後の研究では、より直接的なライティングプロダクションを評価するデザインや、女性学習者・異なる英語レベルの学習者を含む多様なサンプルを用いた再検証が求められます。

「自分の学びを自分で見つめる力」を育てることは、英語教育に限らず、あらゆる学びの根幹です。チェックリストを手に自分の文章を見直す学習者の姿を思い浮かべると、それはまるで鏡を前にして自分を正確に見ようとしているようでもあります。この研究はその「鏡」の有効性を示しつつ、まだ磨きが足りない部分があることも正直に教えてくれています。英語教育にかかわるすべての人にとって、読む価値のある一論です。


Al-Mwzaiji, K. N. A., & Alzubi, A. A. F. (2022). Online self-evaluation: The EFL writing skills in focus. Asian-Pacific Journal of Second and Foreign Language Education, 7, Article 7. https://doi.org/10.1186/s40862-022-00135-8

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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