研究の背景と問いの核心

英語の授業で「自分で考えて勉強しなさい」と言われても、生徒はどうすればいいかわからない。そんな経験をした教師や、逆にそう言われた学習者は少なくないでしょう。学習者の自律性(Learner Autonomy、以下LA)は、英語教育の世界で長らく重要な概念として語られてきましたが、「自律性を育てる」と言いながら、実際に何をどう教えればいいのかが曖昧なまま議論が続いてきた領域でもあります。そこに正面から取り組んだのが、Le Thi Cam NguyenとYongqi Guによる本論文です。

Nguyenはベトナム出身の研究者で、ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校に所属し、EFL(外国語としての英語)学習における学習者自律性の測定と育成を専門としています。Guも同大学の研究者で、学習ストラテジーと自己調整学習の分野で広く知られています。本論文は、Nguyen(2008)の調査研究を発展させたもので、学習者自律性がEFL習熟度と連動するという先行研究の知見を踏まえ、「ストラテジー指導(Strategy-Based Instruction、以下SBI)が自律性と英語力を同時に高められるか」という問いに、実験的手法で答えようとするものです。

この問いは、日本の英語教育現場でも切実です。学習指導要領が「主体的に学ぶ態度」を強調する一方、どうすれば生徒が主体的になれるのかの具体的な方法論は乏しいままです。本論文は、その問いに対する一つの実践的な答えを提示しています。

研究デザインの特徴と誠実さ

研究は、ベトナムのある大学の第三学年英語専攻学生(通訳コース)91名を対象に行われました。実験群37名、統制群26名と28名の計2群、合計3クラスで構成された介入研究です。実験群には、通常の36時間のアカデミックライティングコースの中に、9時間のメタ認知トレーニングパッケージが組み込まれました。統制群は同じ教科書・カリキュラムで通常の授業を受けました。

事前・事後・遅延テストという三段階の測定設計を採用している点は、研究の誠実さを示しています。遅延テストはSBIプログラム終了から6週間後に実施された大学の期末試験で、しかも事前・事後テストと異なる「論述型エッセイ」が課されました。比較と対比のエッセイで訓練した学習者が、論述エッセイでも高いパフォーマンスを示したという事実は、ストラテジーの転移が起きたことを示唆しており、単なる「テスト慣れ」では説明できない成果です。

一方で、無作為割り当てではなく既存クラスをそのまま使った点、および実験群の事前の自己調整スコアが統制群より低かったという不均衡は、研究者自身も注意深く言及しています。この正直さは、読者への信頼につながります。

メタ認知トレーニングとはどんなものか

SBIとは、学習ストラテジーの訓練を通常の語学カリキュラムに統合するアプローチで、Rubin, Chamot, Harris, and Anderson(2007)が体系化したものです。本研究では、特にChamot, Barnhardt, El-Dinary, and Robbins(1999)が開発したCALLA(Cognitive Academic Language Learning Approach)モデルを基盤としながら、研究者独自の7段階セッション構造に再構成しています。ウォームアップ、準備、説明、デモンストレーション、練習、評価、まとめという流れで、各60分のセッションが9回実施されました。

具体的には、まず計画(Planning)として、エッセイを書く前にアイデアのブレインストーミング、トピックについての背景知識の活性化、語彙・文構造・結束デバイスの選択を訓練します。次にモニタリング(Monitoring)として、書いている最中に自分が軌道から外れていないか確認する方法を学びます。そして評価(Evaluating)として、書き終えた後に計画通りに書けたか、誤りを適切に修正したかを振り返ります。

「Mountain Story」という教材を全セッションを通じて一貫して使用したことで、学習者がスキルに集中しやすい環境が作られていました。また、英語を主な教授言語としながらもベトナム語訳を補助的に提供するという配慮も、実際の教室環境への現実的な対応です。

数字が語る成果

事前テストでは3グループ間に有意差はありませんでした。事後テストでは、実験群の平均スコアが5.833から7.348へと1.515点上昇した一方、統制群はいずれも約0.640点の上昇にとどまりました。ANOVAの結果(F(2, 80) = 8.134, p < .05)は、3群間の差が統計的に有意であることを示しており、事後比較でも実験群が両統制群を有意に上回っています。

遅延テストでは全グループのスコアが下落しましたが、実験群(平均6.27)は統制群1(平均4.88)を有意に上回り、統制群2(平均6.24)とは同水準を維持しました。この結果は、SBIの効果が短期的なものではなく、ある程度持続することを示唆しています。

自律性に関するデータも興味深いです。自己始動性(動機付けや努力の意思)については、3群間で有意な変化は見られませんでした。一方、自己調整(プランニング・モニタリング・評価)については、実験群がすべての指標で有意なゲインスコアを示しました。SBIは「やる気を出させる」ことはできなくても、「どうやるかを教える」ことには明らかに効果を発揮したわけです。

モニタリングという「難しい」スキル

本研究で特に注目すべき発見の一つが、モニタリングが最も発揮しにくいスキルであったという点です。インタビューでも、学生たちはモニタリングと評価を混同していたり、「書いている最中に確認する時間がない」と語ったりしていました。これはWhite(1995)やSert(2006)の先行研究とも一致する知見で、書くプロセスの中盤で自分の進捗を意識的に確認するという行為は、初学者には特に難しいのです。

たとえ料理に例えるなら、計画(レシピを確認する)と評価(食べて味を確かめる)はイメージしやすいですが、調理中に「今の火加減は適切か、順番は合っているか」と自分に問いかけるモニタリングは、経験を積まないとなかなか自然にはできません。この発見は、次のステップとして「モニタリングに特化した訓練の増加」が必要だという示唆を与えており、研究の正直さと同時に将来の研究への貢献も示しています。

日本の教育現場への示唆

日本の英語教育という文脈で考えると、本研究はいくつかの点で非常に示唆的です。まず、SBIが教科書中心の既存カリキュラムに統合できるという点です。ベトナムの大学でも、カリキュラムは教師と学校が決め、学習者に選択の余地はほとんどありません。それでも、「何を学ぶか」ではなく「どのように学ぶか」という部分への介入によって、学習者の自律性を高められたのです。

日本の高校や大学の英語授業でも、教科書や指導計画は所与のものです。しかしその中に、計画・モニタリング・評価という三つのメタ認知スキルを短時間ずつ組み込むことは現実的に可能です。たった9時間の追加トレーニングで有意な差が出たという事実は、授業時数の制約が大きい日本の現場にとって、勇気を与えるデータです。

また、授業目標を明示的に学習者に伝えるという実践も、日本の教室では改める余地のある部分かもしれません。論文中でも言及されているように、ベトナムでは授業の目標を学習者に明示しない傾向があり、それはある意味で日本の教室でも共通しています。目標を明示することが学習者の主体性を育てるという、Gagne(1974)の知見は古典的でありながら、今日も色あせません。

さらに、自己評価・相互評価の活動を通じてメタ認知の「評価」スキルを育てるという示唆も、日本の教育現場では多くの実践に転用できます。

関連研究との対話

本研究が特に際立つのは、LAに関する先行研究の多くが「記述的・探索的」にとどまっており、具体的な言語習得成果との関連を示していないという批判を引き受けた上で、実験的手法でそのギャップを埋めようとしているところです。Champagne et al.(2001)やDam and Legenhausen(1996)なども自律性と学力の関係に触れてはいますが、グループの均質性や統制群の欠如など、方法論的な限界がありました。Vickers and Ene(2006)の研究も同様に統制群を持たず、「自律性」よりも「間接的フォーム指導」に近いと論文自体が率直に指摘しています。

その意味で本研究は、比較的厳密な準実験的デザイン(統制群2群、3時点測定、事後比較分析)を採用しており、SBIがLAと学力の両方に与える影響を同時に測ろうとした試みとして、この分野の中でも方法論的に踏み込んだ位置づけにあります。Gu(2007)のシンガポールでの小学校作文授業への応用に続く研究として、大学レベル・EFLコンテキストへの展開という点でも価値があります。

研究の限界と正直な評価

もちろん課題もあります。参加者の91名という規模は決して大きくなく、女性が大多数(83名)という構成の偏りも気になります。また、実験群の授業は研究者自身が担当しており、教師効果(teacher effect)の影響を完全に排除できていません。遅延テストでは他の教師が採点に関わりましたが、採点基準の統一を研究者が「説得して合意を取り付けた」という記述は、手続き上のやや曖昧さを残しています。

加えて、SBIパッケージの9時間のうち、どのセッションが最も効果的だったのかという細部の分析は提供されていません。計画・モニタリング・評価のどれが書く力の向上に最も寄与したのかを切り分けることができれば、実践的示唆はさらに具体化されたでしょう。

それでも、これらの限界を補って余りある知見が本研究には詰まっています。限界を自覚した上で議論を進める姿勢は、研究としての誠実さのあかしです。

学習者の声が教えてくれること

量的分析に加えて、グループインタビューからの学習者の声が研究に温かみを与えています。「以前は書けることを全部書こうとしたけれど、今は二つの大きなアイデアを選んで書くようにした」という学習者の言葉は、メタ認知的な変容が実際に起きていることを示す証言です。また、モニタリングが足りないことに気づいた学習者が「行き詰まったら次に進む、後で戻る」という方略を採用するようになったという変化も印象的です。

こうした声は、数字だけでは見えない「学び方の変容」を可視化してくれます。学習者が自分の思考プロセスを言語化できるようになること自体が、自律性の証拠であると言えます。

おわりに―「どう学ぶか」を教える価値

本論文が最終的に問いかけているのは、「学習者に何を教えるか」ではなく「どう学ぶかを教えることに、どれだけの価値があるか」という問いです。そしてその答えは、少なくともこの研究においては、明確にポジティブです。8週間・9時間という限られた介入で、学習者の自己調整スキルが向上し、英作文の力が統制群を有意に上回った。しかもその効果は6週間後の別種のテストでも確認された。これは、教育現場にとって見逃しがたい発見です。

日本の英語教育界でも、アクティブラーニングや主体的学習の重要性が繰り返し語られています。しかし「主体的に」という言葉が独り歩きし、具体的なスキルを教えることなく「やる気を引き出す」活動だけが増えてしまうリスクもあります。本論文は、自律性は「雰囲気」ではなく「スキルとして教えられる」という事実を、データとともに示しています。

計画する。書きながら確認する。振り返る。この三つのシンプルなサイクルを、意識的に、丁寧に、繰り返し練習させること。それが、英語を書く力と、英語を学ぶ力の両方を育てる道だと、この研究は教えてくれます。


Nguyen, L. T. C., & Gu, Y. (2013). Strategy-based instruction: A learner-focused approach to developing learner autonomy. Language Teaching Research, 17(1), 9–30. https://doi.org/10.1177/1362168812457528

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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