Padraic Monaghan(ランカスター大学・アムステルダム大学)、Simón Ruiz(テュービンゲン大学)、Patrick Rebuschat(ランカスター大学・テュービンゲン大学)の三名による “The Role of Feedback and Instruction on the Cross-Situational Learning of Vocabulary and Morphosyntax: Mixed Effects Models Reveal Local and Global Effects on Acquisition”(Second Language Research, 2021年, 37巻2号)は、第二言語習得研究のなかでもとりわけ根源的な問いに向き合った論文です。「語彙を知らなければ文法がわからない。文法を知らなければ語彙の意味がわからない」というジレンマを、実験的に解きほぐそうとした意欲作です。本稿では、この論文を精読しながら、その成果と限界を検討し、日本の英語教育現場への示唆についても考えてみます。

鶏と卵の問題―語彙と文法の学習ジレンマ

英語の授業を担当していると、こんな場面にしばしば遭遇します。動詞 give の意味を教えようとしたとき、「誰かが誰かに何かを渡す」という場面を見せるだけでは不十分で、主語・目的語の語順が分からなければ、giveが「渡す」なのか「受け取る」なのかすら確定できません。反対に、文法的な構造が分かっていなければ、個々の単語の意味を正確に取り出すことができない。これは長い間、英語の教師を悩ませた問題ですね。

言語習得研究では長らく、この問題を「まず語彙を教え、それから文法を導入する」という段階的指導によって回避してきました。Friederici らの研究(2002年)をはじめ、実験室ベースの多くの研究が、語彙先習・文法後習という手順を採用してきたわけです。しかし本論文の著者たちは、そこに根本的な疑問を投げかけます。そのような段階的分離は本当に必要なのか。子どもが母語を獲得するとき、語彙と文法は同時並行で学ばれているのではないか。そしてこの問いを検証するため、彼らは「状況横断的語彙学習(cross-situational learning)」と呼ばれるパラダイムを援用します。

状況横断的学習とは何か―「がわがい」と走るウサギ

哲学者 Quine がWord and Object(1960年)のなかで提起した有名な思考実験があります。見知らぬ言語の話者が「ガワガイ(gavagai)」と叫んだとき、横をウサギが走り過ぎた。さて、この言葉はウサギを指すのか、その耳を指すのか、走るという動作を指すのか、はたまた美味しそうな食材を指すのか―言葉と世界の対応関係は、一度の観察では確定できない。

これが語彙習得の根本的な難しさです。しかし Yu と Smith(2007年)が示したように、ある言葉が複数の場面で繰り返し現れるうちに、その言葉が特定の対象と一貫して共起していることが統計的に浮かび上がってきます。一度では分からなくても、複数回の状況にわたって観察を続ければ、パターンが見えてくる。これが状況横断的学習の核心です。

Monaghan ら(2015年)はすでに、文中に名詞と動詞が混在していても、成人学習者がこの統計的メカニズムを使って双方を学習できることを示していました。今回の論文は、その先行研究をさらに複雑な言語構造と実験計画で発展させたものです。

実験のデザイン―宇宙人と人工言語の世界

実験の舞台はなかなか魅力的です。参加者90名(英語母語話者の大学生)は、「遠い惑星のフレンドリーな住民」が話す人工言語を学ぶ課題に取り組みます。画面には二つのアニメーションシーンが提示され、そこには色の異なるエイリアンたちが「隠れる」「飛ぶ」「持ち上げる」「押す」といった動作を行っています。その場面のどちらかを記述する人工言語の文が音声で流れ、参加者はどちらの場面が記述されているかを選ぶ、というものです。

使用された人工言語は日本語を参考に設計されており、語順は SOV(主語―目的語―動詞)または OSV(目的語―主語―動詞)の自由語順、動詞は文末に固定、名詞句には主語か目的語かを示す格助詞に相当するマーカー語が付加されます。語彙は16の擬似語で構成され、名詞8語、動詞4語、形容詞2語、格マーカー2語という構成です。自然言語における品詞ごとの頻度分布を模して、名詞の種類が最も多く設定されています。

参加者は無作為に三群に分けられました。暗示群(implicit)は何の説明もなく学習課題に取り組みます。明示群(explicit)は事前に格マーカーの機能について説明を受けます。フィードバック群(feedback)は課題中に正解した場合のみベル音が鳴ります。これだけです。誤答時には何も起こりません。この「正解だけを知らせる最小限のフィードバック」というデザインが、後の結果の解釈に大きく影響してきます。

結果その一―フィードバックは効く、明示的説明は効かない

訓練段階の結果は明快でした。フィードバック群は他の二群に比べて学習の軌跡が急峻で、特に中盤の習熟度向上が際立ちました。統計的に言えば、フィードバック群と暗示群・明示群の合算との間に有意差が確認されています。一方で、明示群と暗示群の間には有意差がありませんでした。

テスト段階での語彙習得成績も同様で、フィードバック群が他の二群を有意に上回っています。明示的な文法説明を受けたにもかかわらず、明示群は暗示群と差がなかった。この結果は一見して驚くべきものです。なぜなら、第二言語習得の研究では、明示的指導が学習を後押しするという報告が多数あるからです(Norris & Ortega, 2000; Spada & Tomita, 2010など)。

著者たちはこれを、帰納的学習課題の性質によって説明します。参加者は場面と発話の共起から言語構造を自ら導き出さなければならず、文法の仕組みを事前に知識として与えられても、個々の語と場面特徴との対応関係を特定する作業には直接役立たない。明示的知識が暗示的統計学習の回路に接続されないまま、宙に浮いてしまう、ということです。

結果その二―フィードバックは語彙を伸ばすが、語順は伸ばさない

ここが本論文の最も重要な、そして最も興味深い発見です。フィードバックによる学習促進効果は、語彙習得には明確に現れました。しかし文法的な語順の習得については、三群の間に統計的な有意差がなかったのです。フィードバックを受けても受けなくても、格マーカーを事前に教わっても教わらなくても、語順の正確さは変わらなかった。

これは何を意味するのでしょうか。著者たちは、語彙習得と文法習得が認知的に異なるシステムによって支えられている可能性を示唆します。Paradis(2009年)や Ullman(2004年)が提唱した「宣言的記憶対手続き記憶」の枠組みで言えば、語彙は宣言的知識として蓄積され外部情報の影響を受けやすいのに対し、文法規則は手続き記憶として徐々に内在化され、外部からの介入が効きにくい、という解釈です。

また著者たちは、語彙テストと語順テストの方法論的な違いも指摘しています。語彙テストは訓練課題と同じ「どちらの場面か」という課題形式で実施されており、いわば暗示的な測定です。一方、語順テストは文法性判断課題という、より意識的・明示的な判断を要するものでした。フィードバックが暗示的学習を促進し、その効果が暗示的テストには現れるが明示的テストには現れにくい、という可能性も否定できません。

結果その三―局所的文脈効果の発見

本論文のもう一つの貢献は、混合効果モデルを用いた「局所的」学習文脈の分析です。従来の研究が群間の平均値の差という「大局的」な効果を測定してきたのに対し、著者たちは一試行ずつの成否が次の試行に与える影響を丁寧に追跡しました。

その結果、過去に同じ動詞を含む試行で正答していた場合、現在の試行でも正答しやすくなることが分かりました。同様に、文中の第二位置の形容詞(二番目の名詞句の冒頭に位置する形容詞)を含む試行で過去に正答していた場合にも、促進効果が見られました。興味深いのは、この効果が全ての語に均等に現れるわけではなかった点です。名詞や第一位置の形容詞では、同様の前試行効果は観察されませんでした。

なぜ動詞と第二形容詞だけなのか。著者たちは、格マーカーという高頻度語の直後に位置する語であることに着目します。Bortfeld ら(2005年)や Frost, Monaghan, Christiansen(2019年)の研究が示すように、高頻度の機能語は学習者の注意を引きつける「アンカー」として機能し、その直後の語への注目を高める効果を持ちます。動詞は第二格マーカーの直後、第二形容詞は第二名詞句の冒頭すなわち第一格マーカーの直後に来ることが多く、これらが他の語より際立って処理されやすい位置にあるということです。

この論文の強みと弱みを正直に見る

研究の強みは複数あります。まず、語彙と文法を同時に学習させるという、より自然な習得条件を設定した点です。段階的分離を前提としてきた先行研究へのアンチテーゼとして、理論的な意義は大きい。次に、混合効果モデルを用いて局所的文脈効果を検出した点は方法論的に洗練されており、今後の研究が踏まえるべき基準を示しています。

一方で、限界も率直に指摘しなければなりません。人工言語を用いた実験室研究であるため、自然言語の教室学習に結果が直接適用できるかどうかは慎重に検討する必要があります。著者自身も「実際の教育的示唆を引き出すには、より複雑で長期的な訓練へと拡張する必要がある」と述べています。その点での誠実さは評価できます。

また、フィードバックの形式が「正解時のベル音のみ」という非常に限定されたものであった点も見逃せません。実際の教室では、教師が誤りを指摘し、正解を明示し、説明を加えるというより多層的なフィードバックが行われています。本研究の「最小限フィードバック」での効果が、より豊かなフィードバック環境でどう変容するかは、依然として未解明です。さらに、90名という標本規模は統計的分析には十分とも言えますが、三群間比較での個人差の大きさ(標準偏差の広がり)を考えると、より大規模な追試が望まれます。

日本の英語教育への視点

さて、この研究が日本の英語教育にどのような示唆を与えるか、少し考えてみます。日本の英語授業では長らく「文法の明示的説明」が重視されてきました。品詞の役割を説明し、語順の規則を黒板に書き、例文を分析する。この手法は、本研究で言えば明示群の条件に近いものがあります。そしてその明示的指導が語彙習得の促進には結びつかなかったというのが、本研究の発見です。

もちろん、人工言語の実験結果を英語の教室に直接投影することには慎重であるべきです。英語は日本語話者にとって既知の自然言語であり、文字もあり、教材もあり、学習者の動機も複雑です。実験室とは条件が大きく異なります。とはいえ、「文法の説明をすれば語彙も身につく」という前提が自明でないことを、この研究は示唆しています。

むしろ注目したいのはフィードバックの効果です。日本の英語教育では、特にコミュニケーション重視の授業においてフィードバックが不足しがちな状況があります。大人数のクラスで一人ひとりの発言に応じるのは難しく、どうしても「やりっぱなし」になりがちです。本研究が示すように、正解したことを知らせるだけという最小限のフィードバックでさえ、語彙習得に統計的に有意な差をもたらしました。これは、ICTを活用した即時フィードバックや、自動採点システムの導入を考える上での一つの根拠になり得るでしょう。

局所的文脈効果の発見も、指導法に考えさせるものがあります。学習者が前の試行で正答した語に続く語が、次に学びやすいという発見は、カリキュラムの配列設計に示唆を持ちます。ある語を習得した直後に、その語と共起しやすい語を提示することで、統計的な足場効果を最大化できるかもしれません。コンピュータ支援学習の文脈では、学習者の直近の正誤履歴に基づいて次の提示語を動的に調整するアダプティブ・ラーニングの設計に理論的根拠を提供する可能性があります。

関連研究との対話

本研究はMonaghanらの一連の研究群の延長にあります。Monaghan & Mattock(2012年)は非指示語と指示語が混在した人工言語学習を扱い、Monaghan ら(2015年)は名詞と動詞の同時習得を示しました。そして Walker, Monaghan, Rebuschat(印刷中)が本研究の直接的な先行研究であり、より複雑な他動詞構造でも状況横断的学習が機能することを実証しています。本論文はこの流れの上に、フィードバックと明示的指導という「介入変数」を持ち込んだものとして位置づけられます。

語彙習得における「提案―検証(propose-but-verify)理論」(Trueswell ら, 2013年)と「連想学習理論」(McMurray ら, 2012年)の対比も、本論文の背景として重要です。前者は学習者が単語の意味について一つの仮説を立て、それを確認しようとする過程を重視します。後者は、単語と指示対象の連想強度が複数同時進行で徐々に強化されるという見方です。著者たちは、フィードバックはどちらの理論とも整合するが、局所的文脈効果の詳細なパターン―特定の位置の語だけが前試行効果を示すという非対称性―を説明するためには、両理論に加えて注意の方向付けを考慮するメカニズムが必要だと論じます。この指摘はなかなか鋭く、今後の理論発展に向けた明確な問いを残しています。

学術的考察―「局所性」という視点の重要性

本論文が提示した最も独自性の高い貢献は、混合効果モデルによる局所的学習文脈の可視化にあると私は考えます。言語習得研究はともすれば、実験前後の平均値の差という大局的な変化のみを記述しがちです。しかし実際の学習は、一試行ごとの成功と失敗が次の試行に動的に影響し合うプロセスです。その微細な連鎖を統計的に捉えようとした姿勢は、方法論的にも理論的にも重要な一歩です。

同時に、「局所的効果が群(条件)との交互作用を示さなかった」という結果も見逃せません。つまり、フィードバックや明示的指導は、局所的な文脈効果の大きさや方向を変えなかった。言い換えれば、どの学習条件においても、動詞と第二形容詞が「学びやすい位置」にあるという構造的な事実は変わらなかった、ということです。これは、言語刺激の構造的特性が、外部から与えられる指導条件よりも強い制約として学習に働くことを示唆しています。教師の介入よりも、言語そのものの統計的構造が学習の枠組みを規定するというこの見方は、教育者としてのある種の謙虚さを求めるものかもしれません。

本研究ではフィードバックを「正解時のベル音」という極めて単純な形式に絞ったことで、より豊かなフィードバックとの比較ができていません。また、長期的な保持や転移について、訓練直後しか測定されていない点も限界です。習得の「その後」を追った縦断的研究との組み合わせが、今後の課題として浮かび上がります。さらに、参加者がすべて英語母語話者であり、第二言語として実際に英語を学ぶ非英語圏の学習者に結果がどこまで適用できるかも、問い続けなければならない点です。

おわりに―静かに積み重なる問いの価値

本論文を読み終えて感じるのは、派手な発見よりも「想定外の無効果」の誠実な報告が、研究を前に進めるということです。明示的指導が語彙習得を促進しなかったという結果は、その条件では「効かなかった」ということを明確に示した点で、十分な貢献です。そしてフィードバックが語彙には効くが語順には効かないという非対称性は、語彙と文法が同じ認知基盤に乗っていない可能性を改めて提示しました。

英語の授業でよく「とにかく聞け、使え」という指導がある一方で、「文法をきちんと説明しなければ」という声もあります。本研究はそのどちらか一方を全面的に支持するものでも否定するものでもありません。ただ、フィードバックという「手応えを返す」行為が、明示的な説明よりも語彙の定着に強く働く可能性を示した。英語教育の現場では、それは決して小さな発見ではないはずです。授業のあちこちに、小さな手応えを埋め込む工夫を、この論文は促しているように感じます。


Monaghan, P., Ruiz, S., & Rebuschat, P. (2021). The role of feedback and instruction on the cross-situational learning of vocabulary and morphosyntax: Mixed effects models reveal local and global effects on acquisition. Second Language Research, 37(2), 261–289. https://doi.org/10.1177/0267658320927741

 

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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