本論文は、エチオピアのアディスアベバにある私立の英語言語学校に通う中級レベルの成人男性EFL学習者60名を対象に、eポートフォリオ評価と総括的評価(サマティブ・アセスメント)のどちらがより効果的かを比較検討した実証研究である。著者はBasem Okleh Salameh Al-Hawamdeh(サウジアラビア、プリンス・サッタム・ビン・アブドゥルアジーズ大学)、Negash Hussen(エチオピア、アディスアベバ大学)、Nasser Said Gomaa Abdelrasheed(オマーン、ドファール大学)の三名で、2023年にLanguage Testing in Asia誌に掲載された。研究の背景としては、エチオピアにおけるEFL教育でこれら二種類の評価形態が学習者に与える影響を包括的に検証した研究がほとんど存在しないという問題意識がある。評価が教授・学習プロセスにとって不可欠であるという出発点は至極まっとうであり、現場感覚とも一致する。
研究が問いかけていること
この研究が焦点を当てているのは、四つの従属変数である。すなわち、ライティングのCAF(複雑さ・正確さ・流暢さ)、学習者の自律性、学習不安、そして自己効力感だ。eポートフォリオを使った実験群(EG)と、従来型の総括的評価を受けた統制群(CG)にそれぞれ30名ずつ配置し、21セッションの介入の前後でこれらを測定した。使用された測定ツールは、Oxford Quick Placement Test(OQPT)による習熟度の均一化に始まり、Horwitz et al.(1986)の不安質問紙、Hancı-Yanarらによる自己効力感尺度、Kashefan(2002)の学習者自律性質問紙、そして研究者作成のライティングCAFテストである。統計処理にはSPSSが用いられ、独立標本t検定と対応サンプルt検定が実施された。
eポートフォリオとは何か、なぜ注目されるのか
日本の教育現場でも「ポートフォリオ」という言葉はよく聞かれるようになってきた。しかし「eポートフォリオ」となると、まだ漠然としたイメージしか持っていない教員も多いのではないだろうか。本研究では、学習者が自分の書いたテキストをウェブベースのプラットフォームに蓄積し、教師からのフィードバック(語彙・文法・構成・一貫性に関して)を受けたうえで第二稿を提出できるという仕組みが採用された。また、ピア・コレクションのために一部の作品がプラットフォーム上で共有され、他の学習者がコメントを付けることができた。自分のペースで振り返り、修正し、成長の軌跡を可視化できるというのが、eポートフォリオの本質的な強みである。Lorenzo & Ittelson(2005)はeポートフォリオを「個人のウェブベースの作品・自己省察・フィードバックの蓄積であり、批判的能力と達成を示すために用いられるもの」と定義しており、本研究もその定義に依拠している。
一方の総括的評価群は、中間テストと期末テストによる評価を受けた。教師のフィードバックはyes/noやtrue/falseにとどまり、詳細な説明はなく、ピアフィードバックも存在しなかった。テキストの修正は許可されなかった。これはいわゆる「点数をつけて終わり」の評価モデルであり、日本の多くの英語授業でも馴染みのある光景ではないだろうか。
結果が示すこと―数字の意味を読む
結果は明快だった。四つの変数すべてにおいて、eポートフォリオ群が総括的評価群を有意に上回った。ライティングの正確さについて言えば、事前テストでは両群の平均点はほぼ同等(EG: 10.00、CG: 9.90)だったが、事後テストではEGが14.93、CGが11.06と大きく差が開いた。流暢さでは、EGが15.16、CGが11.30。複雑さでは、EGが15.26、CGが11.43。いずれも統計的に有意な差が認められている。
不安の測定では、事前テストでEG: 64.10、CG: 64.96とほぼ同水準だったものが、事後テストではEG: 102.40、CG: 68.83と大きく上昇した。ここで注意が必要なのは、この研究で使用されたHorwitzらの外国語教室不安尺度(FLCAS)においては、得点が高いほど不安が高いことを意味しているのではなく、文脈によっては逆の解釈が必要な場合もある。しかし著者らはEG群の不安得点の上昇を「不安の軽減ではなく、何らかのポジティブな変化」と解釈しているように読めるが、この点については論文の説明が若干不明瞭であると言わざるを得ない。他の変数との整合性を踏まえれば、EG群の学習者が不安と向き合いながらも積極的に学習に取り組む姿勢を持つようになったという解釈が最も自然ではあるが、読者にとってはやや混乱を招く記述になっている。
自律性と自己効力感については、事後テストでEGがそれぞれ105.03(CG: 70.96)、105.56(CG: 60.46)と圧倒的な差を見せた。いずれも統計的に有意(p < 0.05)であり、eポートフォリオ評価が学習者の内的動機や自己信頼感を高める上でいかに強力なツールであるかを示している。
先行研究との対比―何が新しく、何が確認されたか
本研究の知見は、先行研究の知見と概ね一致している。Yastibas(2015)はeポートフォリオが自己評価能力の向上に貢献することを示し、Erice(2008)はライティング授業でのeポートフォリオ活用が学習者の自律性と動機付けを高めることを報告している。Abbaszad Tehrani(2010)のネットフォリオを用いた研究も、学習者の自己責任感の向上と自己評価能力の発展を示した。本研究の独自性は、エチオピアという研究対象が少ない地域において、CAF・不安・自律性・自己効力感という複数の変数を同時に検証したことにある。従来の研究が単一スキルや単一変数に焦点を当てがちだったなかで、複合的な視点を提供している点は評価に値する。
一方で、Mahshanian et al.(2019)は総括的評価と形成的評価を組み合わせることがEFL学習者のパフォーマンス向上に有効であることを示しており、本研究のように純粋に二項対立的な比較だけでは実践的含意に限界が生じる可能性もある。eポートフォリオは本来、形成的評価の機能を内包しているため、この研究の「eポートフォリオ vs. 総括的評価」という枠組みは、ある意味で「継続的フィードバック付き評価 vs. フィードバックなし評価」という非対称な比較になっていることも見逃せない。
日本の英語教育現場への示唆
日本の英語教育の現場では、依然として定期試験や入学試験を中心とした総括的評価が支配的な評価文化を形成している。英語四技能を幅広く評価しようという動きはあるものの、ライティング評価に関しては採点の負荷が大きいことや、フィードバックの質の均一化が難しいことから、継続的な形成的評価の実装はなかなか進んでいないのが実態だ。そうした文脈において、本研究が示すeポートフォリオの有効性は示唆に富む。
特に注目したいのは、自律性と自己効力感に関する知見である。日本の英語学習者は「受け身」になりやすいと言われることが多い。授業中に自分の意見を発信することへの抵抗感、ミスを恐れることによる萎縮、自己評価の低さ―これらは多くの教師が日々目の当たりにしているはずだ。eポートフォリオという評価形式が、学習者に「自分の学びを自分でデザインする」という体験を与え、それが自律性と自己効力感の向上につながるというメカニズムは、日本の教室にも十分に転用可能な知見である。もちろん、ウェブベースのプラットフォーム整備やデジタルリテラシーの問題など、実装上の課題は存在するが、GIGAスクール構想によって一人一台端末が普及しつつある今日の日本においては、その障壁はかつてよりも低くなっていると言えよう。
また、本研究が対象としたのはすべて男性の成人学習者であり、日本の中高生や大学生にそのまま結果を一般化することはできない。しかし、「継続的なフィードバックと自己省察の機会を与えることが学習者の書く力と情意面の変数を同時に改善する」という基本的な命題は、文化的背景を超えて普遍性を持ちうると考えられる。
研究の限界と今後の課題
著者自身も認めているように、本研究にはいくつかの限界がある。対象者が中級レベルの男性のみであること、サンプルサイズが60名と比較的小さいこと、ライティングCAFのみに焦点を当てていること、そして介入期間が21セッションと短期的であることが挙げられる。21セッションというのは、たとえば週に2〜3回の授業を想定すれば2〜3ヶ月程度に相当するが、ライティング能力の根本的な変容を論じるにはやや短い期間とも言える。
さらに、先ほど触れた不安スコアの解釈問題に加え、本研究では質的データが一切収集されていない。インタビューや学習日誌などの質的手法を組み合わせることで、なぜeポートフォリオが効果的なのかという「プロセスの理解」がより深まったはずである。フィールドノートを記録したとの記述はあるが、それがデータとしてどう分析されたかは論文中に明示されていない。混合研究法(Mixed Methods)の採用が、この研究の説得力をさらに高めたであろうという点は、今後の研究者へのメッセージとして重要だ。
また、eポートフォリオ群に対しては教師・ピア・自己評価の三重のフィードバックが提供されたのに対し、統制群へのフィードバックはきわめて限定的なものだった。この非対称性がどの程度結果に影響しているのかを切り分けることは難しく、「eポートフォリオという評価形式そのものの効果」と「フィードバックの量と質の差異による効果」を峻別するためには、さらに精緻な実験デザインが必要である。たとえば、総括的評価群にも同等量の書面フィードバックを与えた場合に差が縮小するかどうかを検討することが、研究の内的妥当性を高める一つの方法となろう。
評価の哲学的背景―なぜ「評価のあり方」が重要なのか
この研究が根底に置いているのは、Gipps(1994)が提唱した「心理測定的視点から包括的な指導的評価への転換」という考え方である。従来の行動主義的評価観が「習慣の形成」としての学習を前提とするのに対し、構成主義的評価観は「行動による学習」を重視し、学習者中心の評価手法を正当化する。eポートフォリオはその構成主義的アプローチの最たる体現形式の一つと言える。この哲学的基盤は、日本の学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」ともきわめて親和性が高い。教師が一方的に点数をつけるのではなく、学習者が自ら学びを選択し、省察し、改善していくというプロセスそのものを評価するという発想は、これからの日本の英語教育が向かうべき方向性とも重なる。
Bandura(1986)の社会的認知理論に基づく自己効力感の概念も、本研究の重要な理論的支柱となっている。「自分はできる」という信念が、学習への持続的な取り組みを生み出すという視点は、単に英語力の向上だけでなく、生涯学習者の育成という観点からも重要だ。
総括―この研究が残したもの
本研究は、規模の小さいパイロット的研究ではあるものの、エチオピアという新たな地域文脈においてeポートフォリオの多面的効果を実証的に示したという点で、EFL評価研究に一定の貢献をしている。複数の変数を同時に検討したことで、eポートフォリオが単なる「書く力の練習ツール」ではなく、学習者の情意面や自律的学習態度を総体的に育てる評価システムであるという事実が浮かび上がってくる。
日本の英語教育に携わる教師や研究者にとって、本研究が持つ最大のメッセージは「フィードバックと省察の機会をいかに設計するか」という問いへの示唆である。高大接続改革や学習評価の多様化が語られる時代において、eポートフォリオという選択肢はもはや一部の先進的な実践家だけのものではない。技術的基盤が整い、学習者の自律性が求められる今こそ、この研究から学べることは多い。一方で、本研究が抱える方法論上の課題―非対称なフィードバック設計、質的データの欠如、短期的な介入期間―を乗り越えた、より堅固な後継研究が日本を含む各地で展開されることを期待したい。
Al-Hawamdeh, B. O. S., Hussen, N., & Abdelrasheed, N. S. G. (2023). Portfolio vs. summative assessment: impacts on EFL learners’ writing complexity, accuracy, and fluency (CAF); self-efficacy; learning anxiety; and autonomy. Language Testing in Asia, 13, Article 12. https://doi.org/10.1186/s40468-023-00225-5
