「AIを授業に使ってみようと思いますか?」と聞かれたとき、あなたはどう答えるでしょうか。「便利そうだけど、難しそう」「学校にサポートがあれば使いたい」「そもそも何ができるのかよくわからない」――おそらく、こんな声が聞こえてきそうです。英語教師であれば、AIを使った発音指定や自動採点、チャットボットによる会話練習など、様々な可能性が頭をよぎりつつも、実際の導入には躊躇してしまうというのが正直なところではないでしょうか。

今回紹介するのは、中国の中学校の英語教師を対象に、AIを授業に使おうとする意欲(行動意図)がどのような要因によって形成されるかを実証的に分析した研究です。An, Xinを筆頭著者とし、Ching Sing Chai(香港中文大学)をはじめとする複数の研究者が共同で執筆したこの論文は、Education and Information Technologies(2023年、第28巻)に掲載されました。理論的な枠組みとして、技術受容に関する「UTAUT」と、教師の知識構造を示す「TPACK」という二つのモデルを統合させたアプローチは、これまでの研究ではあまり試みられてこなかった独自性を持ちます。470名のEFL(外国語としての英語)教師から収集した有効データをもとに、構造方程式モデリング(SEM)を用いて複雑な変数間の関係を解析しています。

UTAUTとTPACKという二つの理論を「合わせ技」にした意義

研究の骨格を理解するために、まず二つの理論について簡単に押さえておきましょう。UTAUTとは「技術受容・利用の統一理論」(Unified Theory of Acceptance and Use of Technology)の略称で、人がある技術を使おうと思うかどうかを左右する要因を体系化したモデルです。Venkatesh et al.(2003)によって提唱されたこのモデルは、「この技術は自分の仕事に役立つか(パフォーマンス期待)」「使いやすいか(努力期待)」「周囲の人間は使うべきだと思っているか(社会的影響)」「使うための環境は整っているか(促進条件)」という四つの観点から、技術受容を予測します。

一方のTPACKは「技術的・教育学的・内容知識」(Technological Pedagogical Content Knowledge)の略称で、Mishra and Koehler(2006)が提唱した枠組みです。教師の知識を「技術的知識(TK)」「教育学的知識(PK)」「内容知識(CK)」の三つに分け、これらの組み合わせによって形成される複合的な知識が、技術を授業に効果的に統合するうえでいかに重要かを示したものです。

本研究が面白いのは、UTAUTが「外側からの要因」(技術がどう見えるか、どう使えそうか)を測るのに対し、TPACKが「内側からの要因」(教師自身の知識や能力)を測るという点で、両者が補完的な役割を果たすと考えた点にあります。従来、この二つのモデルは別々に研究されることが多かったのですが、本研究はそれを一つのモデルに統合し、AIという新技術の文脈で検証しました。いわば「外の条件」と「内の力量」が組み合わさって初めて、教師のAI使用意欲が生まれるという仮説です。これは、ちょうど料理に例えるなら、食材(技術環境)がいくら揃っていても、料理の腕(TPACK)がなければ美味しい料理(良い授業)はできない、という関係に似ています。

研究の対象と方法―中国AI教育モデル地区という特殊性

本研究の調査地は、中国においてAI教育モデル地区に指定されたある地域です。2020年12月以来、英語教育へのAI応用が積極的に推進されており、教師たちは政府・大学・研究機関の支援を受けながら、AIを活用した授業設計に継続的に取り組んでいます。週に一度、AIを使った英語授業の設計と実践について専門家による指導会も開催されているとのことです。

この文脈を踏まえると、対象教師たちはAIについてある程度の知識と実践経験を有しており、一般的な教師集団よりもAIリテラシーが高い集団である可能性が高いと言えます。この点は後の考察でも重要な意味を持ちます。

調査は2021年11月に40校中40校を対象に実施され(20校ずつ二段階)、合計470名の有効回答を得ました。5件法のリッカートスケールを採用し、パフォーマンス期待(PE)、努力期待(EE)、社会的影響(SI)、促進条件(FC)、AIL-TK(AI言語技術知識)、AI-TPK(AI技術教育学的知識)、AI-TPACK(AI技術教育学的内容知識)、行動意図(BI)の8つの構成概念を測定しました。注目すべきは、AIL-TKをはじめとするAI関連のTPACK尺度を、先行研究と教師へのインタビューをもとに独自に開発した点で、この尺度自体が本研究の貢献のひとつと言えます。

何が教師の「使いたい」という気持ちを直接動かすのか

構造方程式モデリングの結果から、行動意図(BI)を直接的に予測する要因として確認されたのは、パフォーマンス期待(PE)、社会的影響(SI)、AIL-TK、そしてAI-TPACKの四つでした。

パフォーマンス期待が最も強い影響を持つという結果は、ある意味で直感に合致しています。教師は「これを使えば授業の質が上がる」と確信できれば、積極的に使おうとします。逆に、「便利そうだけど本当に役立つの?」という疑念が拭えない限り、使用意欲は高まらない。これは、日本の英語教師が新しいデジタル教材に対してしばしば感じる「本当に生徒の力が伸びるの?」という問いと重なります。研究者たちは、AIがEFL学習において不安の軽減や個別化学習の促進に有効であるという先行知見を引用しながら、教師がその有用性を具体的に理解することの重要性を強調しています。

社会的影響についても興味深い結果が出ています。「AIを使える教師は同僚から尊敬される」「周囲がAIを使うべきだと思っている」といった社会的圧力や期待が、行動意図を高めることが確認されました。職員室の雰囲気や学校の文化がいかに大切かを改めて実感させられる知見です。日本でも、「一人だけGIGAスクール端末を使いこなしている先生」が職場の雰囲気を少しずつ変えていくという場面は珍しくありません。

そして、本研究の最も独自性の高い発見のひとつが、AI-TPACKが行動意図を直接予測するという結果です。つまり、「AIという技術を使って、英語という教科の授業を、自分の生徒に対して効果的に設計する知識がある」と感じている教師ほど、実際にAIを使おうとするということです。AIL-TK(AIの言語技術に関する知識)も行動意図を直接予測することが示されており、技術そのものについての知識が出発点として重要であることも確認されました。

間接的にしか効かなかった要因―努力期待と促進条件のパラドックス

一方で、予想に反して行動意図を直接予測しなかった要因もあります。努力期待(EE)と促進条件(FC)です。

努力期待とは「AIが使いやすいかどうか」という認識です。直感的には「使いやすければ使う」と思われがちですが、結果はそう単純ではありませんでした。努力期待は、パフォーマンス期待を経由する形で行動意図に間接的な影響を与えることが確認されました。つまり、「使いやすい→役立ちそう→使いたい」という経路です。「使いやすい」だけでは不十分で、それが「役立つ」という認識に結びついて初めて意欲が生まれるわけです。これは、たとえシンプルなアプリでも「授業に活かせるイメージがわかない」と感じた教師が使わないままにしてしまう、という現実をよく説明しています。

促進条件(学校や組織によるサポート)も、行動意図への直接効果は確認されませんでした。しかし、三種類のAI-TPACK系知識(AIL-TK、AI-TPK、AI-TPACK)のすべてを有意に予測することが示されており、サポート体制の整備が教師の知識形成を促し、その知識が行動意図を高めるという間接的な経路が確認されています。環境が整っているだけでは動かないが、環境が知識を育て、知識が行動を生む――この流れは、日本の学校現場でICT担当教員が孤軍奮闘している姿と対照的に、組織的なサポートがいかに重要かを示唆しています。

AIL-TK→AI-TPK→AI-TPACKという知識の積み上げ構造

TPACKに関する分析で得られたもう一つの重要な知見は、AI関連知識が段階的に積み上がる構造を持つという点です。AIL-TK(AIの言語技術に関する知識)がAI-TPKを予測し、AIL-TKとAI-TPKがともにAI-TPACKを予測するという経路が確認されました。

これは先行するICT研究(Koh et al., 2013)の知見とも整合しており、AI教育においても「まず技術を知る」→「その技術を授業でどう使うか考える」→「特定の教科内容と組み合わせた授業を設計する」という学習の順序があることを示しています。英語教師向けのAI研修を設計するうえで、非常に実践的な示唆を含む発見です。段階を踏まずにいきなり「AI-TPACKを高めよう」と言っても難しく、まずAIそのものの技術を理解させる研修(AIL-TK)から始め、次第に授業設計への応用を考えさせる(AI-TPK)という積み上げが有効なのです。

日本の英語教育現場への示唆

この研究から日本の英語教育が学べることは、決して少なくありません。

まず、AIの有用性を体験させることの重要性です。「これを使えば授業が変わる」という実感なしに研修を積み重ねても、行動意図は高まりにくいことが示されました。日本でも、AIを用いたスピーキング評価やライティング支援ツールが普及しつつありますが、その効果を教師自身が体験し、「生徒に役立つ」と確信できる機会を意図的に設けることが求められます。

次に、AI-TPACKの育成を目的とした段階的な教員研修の設計です。技術知識から出発し、教育学的な応用へ、そして教科固有の実践へと進む研修プログラムは、日本の学校現場でも参考にできる枠組みです。GIGAスクール構想以降、端末の整備は進みましたが、「何をどう教えるか」という授業設計能力の育成は依然として課題として残っています。本研究の枠組みはその点に直接応えるものです。

さらに、職場環境と同僚文化の影響を見逃せません。社会的影響が行動意図を高めるという結果は、AIを積極的に使う教師を学校内で「見える化」し、その実践を共有する機会を作ることの重要性を示しています。授業研究や教科会議の場で「AIを使ったらこんな授業ができた」という成功体験を積極的に発信することが、職場全体の意欲向上につながる可能性があります。

研究の限界と残された問い

もちろん、本研究にも限界があります。著者たち自身が率直に認めているように、調査対象がAI教育モデル地区に限定されているため、知見の一般化には慎重さが必要です。モデル地区の教師たちはAIサポートが充実した特殊な環境にいるため、一般的な日本の英語教師にそのままあてはめることには無理があります。

また、調査が自己報告式の質問紙に依拠しているため、AI-TPACKが「実際の能力」ではなく「自己効力感」を反映している可能性があるという指摘も著者らは認めています。「知っていると思う」と「実際にできる」の間には、実践現場では大きな隔たりがあることは教師なら誰もが知っているはずです。

さらに、行動意図(BI)が実際の行動(actual behavior)とどの程度対応するかという問題も残ります。本研究では実際の授業実践データは収集されておらず、「使おうと思っている」から「実際に使った」への橋渡しを検証するためには、今後の縦断的研究や行動ログの収集が求められます。AIの不安(AI anxiety)や、コミュニケーション重視の外国語学習においてAIが感情・身体表現を代替できないという懸念も、今後の研究課題として挙げられています。

関連研究との対比から見える貢献

Bardakci and Alkan(2019)の研究では電子ホワイトボードの文脈でパフォーマンス期待のみが行動意図を強く説明するという結果が出ており、Lim and Harwati(2021)ではTPACKのみが意図を予測するという結果でした。本研究はこれらとは異なり、複数の要因が相互に連関しながら行動意図を形成するという複雑な構造を示しています。文脈の違いが結果を大きく左右することを示す好例であり、「どの研究でも同じ結論」ではなく、状況に応じた理解の必要性を改めて教えてくれます。

また、本研究はAI特有のTPACK尺度を開発した点でも貢献が大きく、「AIL-TK」という構成概念を提案したことは、今後のAI教育研究に使いやすい測定ツールを提供するという実践的な意義を持ちます。

締めくくりに

AIが教育現場に浸透しつつある今、「使う・使わない」の二項対立ではなく、「どうすれば教師がAIを自信をもって使えるようになるか」という問いへのアプローチが求められています。本研究はその問いに対し、理論的・実証的に精緻な答えを提示しました。日本の英語教育関係者にとっても、研修設計、学校文化の醸成、そして教師個人の知識形成をどう支援するかという点で、多くのヒントが詰まった論文です。「とりあえずAIを導入しよう」ではなく、「教師がAIを活かせる力を育てよう」という視座に立った議論を、日本でも本格的に始める時期に来ているのではないでしょうか。


An, X., Chai, C. S., Li, Y., Zhou, Y., Shen, X., Zheng, C., & Chen, M. (2023). Modeling English teachers’ behavioral intention to use artificial intelligence in middle schools. Education and Information Technologies, 28, 5187–5208. https://doi.org/10.1007/s10639-022-11286-z

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By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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