本論文”Online English Teaching Based on Artificial Intelligence Internet Technology Embedded System”は、Haidong BanとJing Ningによって執筆され、2021年にMobile Information Systemsジャーナルに掲載されました。著者らは西京大学人文教育学院に所属しており、中国の高等教育におけるオンライン教育の発展に注目しています。

近年、教育のデジタル化が急速に進む中、特に新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機として、オンライン教育の重要性が高まっています。本研究は、人工知能(AI)やインターネット技術、仮想シミュレーション技術を活用したオンライン英語教育の可能性を探ったものです。

研究の背景と目的

中国では教育改革の一環として、インターネットを活用した教育が増加傾向にあります。著者らは、eラーニングで生成される短いテキストメッセージの分析が、授業の最適化や学生の革新能力、協調能力の向上に寄与すると考えています。

本研究の主な目的は以下の通りです:

1. AIを活用した教育設計の方法を探る
2. オンライン教育が高等職業教育におけるコンピューター思考力とスキル向上に与える影響を調査する
3. 小学生の段階からコンピューター教育思考を育成する方法を検討する

研究手法

著者らは、ある大学の芸術学部から6クラスを選び、従来の教育方法とオンライン教育方法を比較する実験を行いました。実験では以下の点に注目しています:

1. 学生の性別による芸術能力の違い
2. 従来の教育方法と仮想現実(VR)技術を用いたオンライン教育方法の効果の比較
3. 学生の理解度と満足度の調査

主な発見

性別による違い
実験前の調査では、男女間で芸術能力に若干の差が見られましたが、全体的な差は大きくありませんでした。

教育方法の効果
3ヶ月間の教育実験後、従来の教育方法を受けた学生の能力向上は限定的でしたが、VR技術を用いたオンライン教育を受けた学生は大幅な能力向上を示しました。特に女子学生の伸びが顕著でした。

学生の理解度と満足度
VR技術を用いたオンライン教育を受けた学生は、様々な芸術分野への理解度が大きく向上しました。また、約60%の学生がこの教育方法に満足していることがわかりました。一方、従来の教育方法に満足している学生は約30%にとどまりました。

AIと仮想技術の可能性

著者らは、AIと仮想技術を活用したオンライン教育には以下のような可能性があると指摘しています:

1. 個別化された学習体験の提供
2. 学生の自主性と独立した学習能力の促進
3. 多様なインテリジェンスの活用
4. 教師と学生の相互作用の促進
5. リアルタイムの学習進捗モニタリングと評価

課題と今後の展望

本研究は、AIと仮想技術を活用したオンライン教育の可能性を示唆していますが、いくつかの課題も残されています:

1. 技術インフラの整備: 全ての学生が高品質なオンライン教育にアクセスできる環境の整備
2. 教師のスキル向上: 新しい技術を効果的に活用するための教師の訓練
3. 長期的な効果の検証: より長期的な学習成果の評価
4. 倫理的配慮: 学生のデータ保護やAIの公平性に関する問題への対応
5. 対面教育との適切な組み合わせ: オンライン教育と従来の対面教育のバランスの模索

著者らは、AIと仮想技術を活用したオンライン教育が、従来の学校教育に新たな活力をもたらすと考えています。将来的には、大規模な一斉教育モデルから、より革新的で学生中心の個別化された教育への移行が進む可能性があります。

おわりに

本研究は、AIと仮想技術を活用したオンライン英語教育の可能性を示唆しています。特にVR技術を用いた教育方法が、学生の能力向上と満足度に大きな影響を与えることが明らかになりました。

しかし、この研究にはいくつかの限界があります。まず、実験期間が3ヶ月と比較的短く、長期的な効果については不明確です。また、芸術教育に焦点を当てているため、他の教科への適用可能性については更なる研究が必要です。

今後は、より多様な教科や長期的な学習成果に関する研究、また技術の進歩に伴う新たな教育方法の開発が期待されます。AIと仮想技術は教育の個別化と効率化を促進する可能性がありますが、同時に人間の教師の役割や対面教育の重要性も再考する必要があるでしょう。

オンライン教育の発展は、教育のアクセシビリティを向上させ、学習者のニーズに合わせた柔軟な教育を可能にする一方で、デジタル格差や社会的相互作用の減少といった新たな課題も生み出しています。これらの課題に対処しながら、テクノロジーの利点を最大限に活用する方法を見出すことが、今後の教育研究の重要なテーマとなるでしょう。


Ban, H., & Ning, J. (2021). Online English Teaching Based on Artificial Intelligence Internet Technology Embedded System. Mobile Information Systems, 2021, Article ID 2593656. https://doi.org/10.1155/2021/2593656

By 吉成 雄一郎

東海大学教授。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。東京電機大学教授を経て現職。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語e ラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているe ラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAI による新しい教育システムの開発にも着手している。