デジタル技術の発展とともに、教育界でも新しい学習方法が注目を集めています。その中でも特に注目を浴びているのが、ゲーム型学習です。従来の講義型の伝統的な学習方法と比較して、ゲーム型学習にはどのような効果があるのでしょうか。パキスタンのムルタンにあるサザン・パンジャブ研究所のMuhammad Hafeez氏による研究論文「Effects of Game Based Learning in Comparison of Traditional Learning to Provide Effective Learning Environment- A Comparative Review」は、この問いに答えるべく、過去10年間の関連研究を徹底的にレビューしています。

筆者紹介と研究背景

Muhammad Hafeez氏は、教育工学の分野で活躍する研究者です。デジタル時代における効果的な学習環境の構築に関心を持ち、特にゲーム型学習の可能性に注目しています。

本研究が行われた背景には、急速に進むデジタル化があります。現代の学生たちは、幼少期からデジタル機器に囲まれて育っており、従来の教育方法では彼らの学習ニーズを十分に満たせなくなってきています。そこで、学生たちの興味を引き、より効果的な学習を促進する新しい方法として、ゲーム型学習が注目されるようになりました。

研究方法

Hafeez氏は、2012年から2021年までの10年間に発表された関連研究論文から26本を厳選し、詳細なレビューを行いました。選ばれた論文は、ゲーム型学習と伝統的な学習方法を比較し、その効果を検証したものです。対象となった学習者は、小学生から大学生、さらには社会人まで幅広く、学習内容も数学、科学、医学、言語学習など多岐にわたります。

ゲーム型学習の特徴

ゲーム型学習の最大の特徴は、学習者の能動的な参加を促すことです。従来の講義型学習では、学習者は受動的に情報を受け取るだけでしたが、ゲーム型学習では、学習者自身が問題を解決し、課題をクリアしていくことが求められます。

また、即時フィードバックという特徴も重要です。ゲームでは、プレイヤーの行動に対して即座に結果が示されます。これにより、学習者は自分の理解度や進捗を常に確認しながら学習を進めることができます。

さらに、ゲーム型学習では、競争要素や達成感、報酬システムなどを通じて、学習者のモチベーションを高める工夫がなされています。

研究結果:ゲーム型学習の効果

Hafeez氏のレビューによると、多くの研究がゲーム型学習の効果を支持する結果を示しています。主な効果は以下の通りです:

1. 学習意欲の向上:
ゲーム型学習は、従来の学習方法と比べて、学習者の興味や関心を引き出し、学習意欲を高める効果があることが示されました。

2. 理解度と記憶力の向上:
多くの研究で、ゲーム型学習を受けた学習者の方が、学習内容の理解度が高く、長期的な記憶力も優れていることが報告されています。

3. 批判的思考力の育成:
ゲーム内での問題解決を通じて、学習者の批判的思考力が養われることも明らかになりました。

4. 学習への積極的参加:
ゲーム型学習では、学習者がより積極的に学習プロセスに参加する傾向が見られました。

5. 実践的スキルの向上:
特に医学や工学などの分野では、ゲーム型学習が実践的スキルの向上に効果的であることが示されています。

伝統的学習方法との比較

一方で、伝統的な学習方法にも依然として一定の利点があることも指摘されています。例えば:

1. 体系的な知識の伝達:
講義形式の授業は、短時間で多くの情報を体系的に伝えるのに適しています。

2. コスト効率:
ゲーム型学習の開発には多くの時間と費用がかかる場合があるのに対し、伝統的な方法は比較的低コストで実施できます。

3. 特定の学習スタイルへの適合:
一部の学習者は、講義形式の方が学習しやすいと感じる場合があります。

ゲーム型学習の課題

Hafeez氏は、ゲーム型学習にも課題があることを指摘しています:

1. 適切な設計の難しさ:
学習目標とゲーム要素をうまく融合させることは容易ではありません。

2. 技術的な障壁:
ゲーム型学習を実施するには、適切な機器やソフトウェアが必要です。これらが整っていない環境では実施が難しくなります。

3. 評価方法の確立:
ゲーム型学習の効果を適切に評価する方法が、まだ十分に確立されていません。

4. 過度の競争心の助長:
ゲーム要素が強すぎると、学習よりも勝利を目指してしまう可能性があります。

今後の展望

Hafeez氏は、ゲーム型学習と伝統的学習の長所を組み合わせたブレンド型学習が今後の主流になるのではないかと予測しています。また、人工知能(AI)やバーチャルリアリティ(VR)などの新技術を活用したゲーム型学習の発展にも期待を寄せています。

おわりに

本研究のレビューから、ゲーム型学習は多くの場面で伝統的な学習方法よりも効果的であることが示唆されました。特に、学習意欲の向上や理解度の深化、批判的思考力の育成などの面で優れた効果を発揮しています。

しかし、Hafeez氏は、ゲーム型学習が万能ではないことも強調しています。学習の目的や対象、環境に応じて、最適な学習方法を選択することが重要です。また、ゲーム型学習と伝統的学習のそれぞれの長所を活かしたハイブリッドな approach を模索することも有効でしょう。

デジタル技術の進化とともに、教育の形も変わっていきます。しかし、その根底にあるべきは、学習者の成長と発達を支援するという教育の本質的な目的です。新しい学習方法を取り入れる際も、この点を忘れてはならないでしょう。

Hafeez氏の研究は、急速に変化する教育環境の中で、効果的な学習方法を模索する上で重要な示唆を与えてくれます。今後も、様々な学習方法の効果を検証し、より良い教育環境の構築を目指す研究が続けられることが期待されます。


Hafeez, M. (2021). Effects of game based learning in comparison of traditional learning to provide effective learning environment- A comparative review. International Journal of Social Sciences & Educational Studies, 8(4), 100-115. https://doi.org/10.23918/ijsses.v8i4p100

By 吉成 雄一郎

東海大学教授。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。東京電機大学教授を経て現職。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語e ラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているe ラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAI による新しい教育システムの開発にも着手している。