あなたは英語を学ぶ際、単に文法や単語を暗記するだけでなく、実践的なスキルを身につけたいと思ったことはありませんか? また、英語を学びながら、批判的思考力も同時に伸ばせたら素晴らしいと思いませんか?

今回紹介する論文は、まさにそんな願いを叶える可能性を秘めた学習方法、「プロジェクト学習」(Project-Based Learning: PBL)に焦点を当てています。この研究は、PBLが英語を外国語として学ぶ学習者の批判的思考力と言語スキルにどのような影響を与えるかを、過去10年間の文献を系統的にレビューしたものです。

著者のXinke Song氏らは、マレーシアプトラ大学の研究者たちです。彼らの研究は、2024年6月に「World Journal of English Language」に掲載されました。それでは、この興味深い研究の詳細を見ていきましょう。

プロジェクト学習(PBL)とは?

まず、プロジェクト学習(PBL)について簡単に説明しましょう。PBLとは、学生が実社会の問題や課題に取り組むプロジェクトを通じて学ぶ教育手法です。従来の教師中心の授業とは異なり、学生が主体的に学習を進めていきます。

例えば、「地域の観光PR動画を作成する」というプロジェクトを通じて英語を学ぶ場合、学生たちは以下のような活動を行うことになります:

  1. 地域の観光資源について調査する
  2. 英語でシナリオを作成する
  3. 撮影と編集を行う
  4. 英語でナレーションを録音する
  5. 完成した動画を発表する

このプロセスを通じて、学生たちは英語のスキルを実践的に使いながら、同時に問題解決力や創造性も養うことができるのです。

PBLが批判的思考力に与える影響

研究結果によると、PBLは英語学習者の批判的思考力を大きく向上させる可能性があることがわかりました。具体的には以下のような効果が報告されています:

  1. 分析力の向上: プロジェクトに取り組む中で、情報を分析し、重要な点を見極める力が養われます。
  2. 評価能力の強化: 自分や他者のアイデアや成果物を客観的に評価する機会が増えます。
  3. 創造力の育成: 課題解決のために新しいアイデアを生み出す過程で、創造的思考力が磨かれます。
  4. 問題解決力の向上: 実際の問題に取り組むことで、効果的な問題解決の方法を学びます。

例えば、タイの大学生を対象とした研究では、PBLを取り入れたグループが従来の教授法のグループよりも批判的読解力が大幅に向上したという結果が報告されています。

PBLが言語スキルに与える影響

PBLは英語の4技能(読む・書く・聞く・話す)すべてに良い影響を与えることがわかりました。主な効果は以下の通りです:

  1. 語彙力の向上: プロジェクトに関連する専門用語や実用的な表現を自然に習得できます。
  2. スピーキング力の改善: プレゼンテーションやグループディスカッションを通じて、英語で話す機会が増えます。
  3. ライティング力の強化: レポートやプロジェクト提案書の作成を通じて、実践的な英語ライティングスキルが身につきます。
  4. リーディング力の向上: プロジェクトに関連する様々な英語資料を読むことで、読解力が自然と高まります。

例えば、インドネシアの大学生を対象とした研究では、PBLを取り入れたグループが説得力のある英語エッセイを書く能力が大幅に向上したという結果が報告されています。

学習者と教師の反応

研究では、PBLに対する学習者と教師の反応も調査されています。

学習者の反応

多くの学習者がPBLに対して肯定的な反応を示しています:

  • 実践的なスキルが身につく感覚が motivationを高める
  • グループワークを通じてコミュニケーション能力が向上する
  • 自信と自尊心が高まる

一方で、以下のような課題も指摘されています:

  • 時間管理の難しさ
  • グループワークでの役割分担の難しさ

教師の反応

教師たちもPBLの効果を認識していますが、いくつかの課題も感じているようです:

  • 批判的思考力や創造性を育むのに効果的だと評価
  • 従来の教授法からの転換に戸惑いを感じる教師も
  • 評価方法の設計に難しさを感じる

今後の研究課題

著者たちは、PBLに関する今後の研究課題として以下の点を挙げています:

  1. 長期的な効果の検証: 多くの研究が短期的な効果を見ているため、長期的な影響を調査する必要がある
  2. 文化的背景の影響: 異なる文化圏でのPBLの効果を比較研究する必要がある
  3. テクノロジーとの融合: オンラインツールやVR技術などを活用したPBLの可能性を探る
  4. 教師のトレーニング: 効果的なPBL実施のための教師トレーニング方法の研究
  5. 学習者の英語レベルによる効果の違い: 初級者から上級者まで、レベルに応じたPBLの効果を検証する

まとめ: PBLで英語学習を革新する

この研究は、PBLが英語学習者の批判的思考力と言語スキルの両方を効果的に向上させる可能性があることを示しています。従来の暗記中心の英語学習から、実践的でやりがいのある学習へと転換することで、学習者はより深い理解と実用的なスキルを身につけることができるでしょう。

もちろん、PBLにはまだ課題もあります。時間管理の難しさや評価方法の確立など、解決すべき点も残されています。しかし、これらの課題を克服することで、PBLはより効果的な英語学習法として確立されていく可能性があります。

あなたも、次の英語学習ではPBLを取り入れてみませんか? 地域の問題解決や、興味のあるテーマについての調査など、自分なりのプロジェクトを設定して、楽しみながら英語力と思考力を伸ばしていくことができるかもしれません。

英語学習の未来は、単なる暗記ではなく、実践と思考を重視したアプローチにあるのかもしれません。PBLは、そんな新しい英語学習の形を示唆してくれる、とても興味深い教育手法なのです。


Song, X., Razali, A. B., Sulaiman, T., & Jeyaraj, J. J. (2024). Impact of Project-Based Learning on Critical Thinking Skills and Language Skills in EFL Context:A Review of Literature. World Journal of English Language, 14(5), 402-412. https://doi.org/10.5430/wjel.v14n5p402

By 吉成 雄一郎

東海大学教授。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。東京電機大学教授を経て現職。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語e ラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているe ラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAI による新しい教育システムの開発にも着手している。