研究の背景―コロナ禍で加速したオンライン言語学習
この論文”The role of the language of interaction and translanguaging on attention to interactional feedback in virtual exchanges”の筆者のLaia Canalsは、スペインのUniversitat Oberta de Catalunya(カタルーニャ公開大学)に所属する研究者で、オンラインでの言語学習、特にタスクベースの言語教育やビデオ会議を使った遠隔言語交換に関する研究を行っています。この論文が発表されたのは2022年ですが、まさにコロナ禍によってオンライン言語学習が急速に普及した時期と重なります。
私たちの多くは、ZoomやSkypeを使って誰かと話す経験を持っているでしょう。では、そのような環境で外国語を学ぶ場合、どのような会話が最も効果的なのでしょうか。この研究は、そうした実践的な問いに答えようとする試みです。
具体的には、英語を学ぶスペイン人学生と、スペイン語を学ぶカナダ人学生がペアになって、ビデオ通話で会話する「タンデム学習」を分析しています。タンデム学習とは、お互いが相手の母語を学んでいる学習者同士が、半分の時間は一方の言語で、残り半分はもう一方の言語で会話するという方法です。例えば、30分の会話のうち、最初の15分は英語で、後半の15分はスペイン語で話すというやり方です。
研究の核心―言語の違いが学習効果に影響するのか
この研究の最大の特徴は、会話の中で「言語についての話し合い」(専門用語では「言語関連エピソード」、略してLREと呼ばれます)がどの言語で行われるかに注目した点にあります。
もしあなたがスペイン語を学んでいて、カナダ人の友人とビデオ通話をしているとします。スペイン語で会話している最中に、「あれ、この単語ってどう言うんだっけ?」とか「今の文法、合ってる?」という疑問が浮かんだとします。そのとき、あなたはどうしますか?
選択肢は大きく分けて三つあります。一つ目は、スペイン語のまま質問して、スペイン語で説明してもらう方法。二つ目は、英語に切り替えて質問する方法。三つ目は、スペイン語で話し始めたけれど、途中から英語を混ぜて説明してもらう方法です(これを「トランスランゲージング」と呼びます)。
Canalsの研究は、この三つのパターンのうち、どれが最も効果的に学習を促進するのかを調べたものです。
研究方法―実際の授業での会話を分析
研究の参加者は32名で、カナダの大学でスペイン語を学ぶ学生16名(中上級レベル、CEFR B2相当)と、スペインの大学で英語を学ぶ学生16名(上級レベル、CEFR C1相当)でした。年齢は18歳から30歳で、女性22名、男性10名という構成です。
彼らは約2ヶ月半にわたるバーチャル交換プログラムに参加し、その中で3つの口頭タスクをペアで実施しました。タスクの内容は、例えば「大学での経験を共有する」「便利なライフハックについて話し合う」「都市再生プロジェクトについて議論する」といったものでした。各タスクは平均39分間で、参加者はSkypeを使って会話を録画しました。
研究者は、これらの録画された会話を文字に起こし、合計742の言語関連エピソードを特定しました。約21時間分の会話データです。そして、それぞれのエピソードを以下の4つのカテゴリーに分類しました。
まず、スペイン語だけで行われたエピソード(242件、全体の32%)。次に、英語だけで行われたエピソード(185件、全体の24%)。そして、スペイン語で始まったものの、途中で英語に切り替わったエピソード(271件、全体の37%)。最後に、英語で始まったものの、途中でスペイン語に切り替わったエピソード(44件、全体の5%)です。
さらに、各エピソードにおいて、「明示的な訂正フィードバック」(相手が間違いをはっきり指摘して正しい形を示すこと)と「修正出力」(フィードバックを受けて、学習者が自分の発話を修正すること)の有無も記録しました。
興味深い発見―スペイン語での会話の方が学習効果が高い?
分析の結果、いくつかの興味深いパターンが浮かび上がりました。
まず、英語のエピソードの方が、スペイン語のエピソードよりも平均で長く続きました(24秒対18秒)。しかし、エピソードの数自体はスペイン語の方が多かったのです。これは何を意味するのでしょうか。
もっと重要な発見は、フィードバックと修正出力のパターンでした。英語のエピソードは、わずかに多くの明示的訂正フィードバックを示しました(平均0.39対0.34)。一方、スペイン語のエピソードは、統計的に有意に多くの修正出力を含んでいました(平均0.69対0.57)。
これが意味するのは、英語で言語について話し合う時、相手は少し多めに間違いを指摘してくれる傾向があるものの、スペイン語で話し合う時の方が、学習者は実際に自分の発話を修正する行動を多く取るということです。
第二言語習得の理論では、フィードバックを受けること自体も大切ですが、それを受けて実際に自分の発話を修正しようとすること(修正出力)の方が、より強い学習効果を持つとされています。なぜなら、修正出力の過程で、学習者は自分の知識と正しい形の間のギャップにより深く気づき、新しい言語規則を試す機会を得るからです。
この観点から見ると、スペイン語での言語議論の方が、学習にとってより効果的である可能性が示唆されます。
トランスランゲージングの効果―言語を混ぜると逆効果?
さらに驚くべき発見は、トランスランゲージング(途中で言語を切り替えること)の効果に関するものでした。
直感的には、二つの言語を使うことで説明がより明確になり、学習効果が高まると思うかもしれません。実際、多くの研究者は、言語を切り替えることでフィードバックがより目立ち、気づきやすくなると予想していました。
しかし、この研究の結果は異なりました。スペイン語だけで行われたエピソードと、スペイン語で始まったものの途中で英語に切り替わったエピソードを比較すると、スペイン語だけのエピソードの方が、明示的訂正フィードバック(平均0.34対0.24)も修正出力(平均0.69対0.64)も統計的に有意に多かったのです。
つまり、スペイン語で言語について話し合っている時に英語に切り替えてしまうと、学習者が実際に自分の発話を修正する機会が減ってしまうということです。
一方、英語のエピソードについては、英語だけの場合とスペイン語に切り替わった場合で、統計的に有意な差は見られませんでした。
なぜこのような結果になったのか―英語が「デフォルト言語」?
Canalsは、これらの結果について、いくつかの可能性を提示しています。
一つの説明は、英語が「デフォルト言語」として機能しているというものです。つまり、何か問題が生じたり、言語について詳しく議論したりする必要がある時、学習者は自然と英語に切り替える傾向があるということです。これは、国際語としての英語の地位を反映しているのかもしれません。
実際、スペイン語で始まったエピソードで英語へのトランスランゲージングが非常に多かった(85%)のに対し、英語で始まったエピソードでスペイン語へのトランスランゲージングは少なかった(13%)という事実は、この説明を支持しています。
別の説明としては、話し手の認識の違いがあります。スペイン語話者は、相手(カナダ人学習者)がスペイン語でフィードバックを理解できると判断した時は、スペイン語だけで説明し、その結果として学習者も修正出力を産出できたのかもしれません。一方、相手が理解できないと感じた時に英語に切り替えたとすれば、その時は学習者の理解度が低く、修正出力まで至らなかったということになります。
研究の意義と限界
この研究の強みは、実際の教育文脈で収集されたデータを使っている点です。実験室での人工的な設定ではなく、実際に大学の授業の一環として行われたバーチャル交換プログラムのデータを分析しているため、結果の現実的な妥当性が高いと言えます。
また、約21時間、742のエピソードという豊富なデータ量も強みです。統計的な分析を行うのに十分なサンプルサイズが確保されています。
さらに、言語選択という新しい視点から学習プロセスを分析している点も評価できます。従来の研究は、対面とオンライン、あるいはテキストと音声といったモード(様式)の違いに焦点を当てることが多かったのですが、この研究は同じオンライン音声環境の中で、使用される言語の違いに注目しました。
一方、限界もいくつかあります。Canals自身が認めているように、この研究は量的分析に偏っており、学習者の主観的な認識についてのデータが欠けています。なぜ特定の言語を選んだのか、フィードバックをどう受け止めたのかといった質的なデータがあれば、結果の解釈がより深まったでしょう。
刺激再生法(stimulated recall)という手法を使えば、学習者に録画を見せながら、その時何を考えていたかを尋ねることができます。これにより、言語選択の動機や、フィードバックへの気づきについて、より詳しい情報が得られたはずです。
また、参加者の背景情報が不完全だった点も限界として挙げられています。アンケートが匿名だったため、学習者の専攻分野などの情報が収集できず、それが言語行動に与える影響を分析できませんでした。例えば、言語学や教育学を専攻している学生は、他の専攻の学生よりも積極的にフィードバックを提供する傾向があるかもしれません。
さらに、タスクによる違いについても、より詳しい分析が必要かもしれません。この研究では3つのタスクを一つのデータセットとして扱っていますが、タスクの種類(情報交換型、意思決定型など)によって、言語選択のパターンが異なる可能性があります。
日本の英語教育への示唆―オンライン交流プログラムの設計
この研究は、日本の英語教育にも重要な示唆を与えます。
近年、日本でもオンラインでの国際交流プログラムが増えています。コロナ禍以降、物理的な留学が難しくなったこともあり、バーチャル交換は現実的な選択肢として注目されています。しかし、そのような交流をどう設計すれば学習効果が最大化されるのかについては、まだ十分に理解されていません。
この研究が示唆するのは、使用言語の選択が学習成果に影響を与えるということです。日本の文脈で考えると、日本人英語学習者が英語圏の日本語学習者と交流する場合、どちらの言語で言語について議論するのが効果的なのかという問題になります。
Canalsの研究結果を踏まえると、学習者が実際に自分の発話を修正する機会を増やすためには、一つの言語で一貫して議論することが望ましいかもしれません。途中で言語を切り替えることは、一見すると理解を助けるように思えますが、実際には修正出力の機会を減らしてしまう可能性があります。
ただし、これは学習者のレベルにもよるでしょう。この研究の参加者は中上級から上級のレベルでしたが、初級レベルの学習者の場合は、母語でのサポートがより重要になるかもしれません。
また、英語が「デフォルト言語」として機能するという発見も興味深いものです。日本人学習者の場合、問題が生じた時に日本語に戻りたくなる傾向があるかもしれませんが、相手が日本語学習者であれば、英語が共通語として使われることになるでしょう。このような言語選択のダイナミクスを理解しておくことは、プログラムを設計する上で重要です。
さらに、この研究は、フィードバックを提供する文化的な傾向の違いも示唆しています。研究では、英語母語話者(カナダ人学生)の方がスペイン語母語話者よりも多くの明示的訂正を提供する傾向がありました。これは、先行研究で指摘されてきた「アメリカ人は相手の間違いを訂正するのを避ける傾向がある」という知見と矛盾します。
日本人学習者の場合、相手の間違いを指摘することに抵抗を感じる人も多いかもしれません。しかし、この研究の参加者のように、長期的な関係を築き、信頼関係ができれば、より積極的にフィードバックを提供し合えるようになる可能性があります。Canalsは、バーチャル交換が「安全な環境」を提供し、参加者間の信頼関係を醸成することを指摘しています。
タスク設計の重要性―どんな活動が効果的か
この研究が使用したタスクは、情報交換、比較分析、意思決定といった複数の要素を含む、比較的複雑なものでした。平均39分という長さも、十分な相互作用を引き出すのに適していたと言えます。
日本の英語教育でオンライン交流を実施する際も、タスクの設計は重要です。単なる自己紹介や雑談だけでなく、何か具体的な目標を持った活動(例えば、共同でプレゼンテーションを作成する、あるテーマについて議論して結論を出すなど)を設定することで、より豊かな言語使用が促されるでしょう。
また、学習者に明示的に「相手の言語使用についてフィードバックを提供する」よう指示することも効果的かもしれません。この研究では、タスク2と3において学習者に「いくつかの言語ポイントについてフィードバックを提供するように」という指示が出されていました。このような明示的な指示は、特に初めてこのような活動に参加する学習者にとって有用でしょう。
今後の研究課題―さらなる探求の必要性
Canalsは、今後の研究の方向性として、トランスランゲージングの機能についてより詳しく調べる必要性を指摘しています。この研究では、トランスランゲージングが修正出力を減らす傾向が見られましたが、すべてのトランスランゲージングが同じ機能を持つわけではありません。
例えば、単語レベルの切り替え(「つまり、それはwaterproofということです」のような)と、文レベルの切り替え(スペイン語で話していた内容を英語で言い直す)では、効果が異なるかもしれません。また、切り替えの目的(理解を確認するため、説明を補足するため、正しい言い方を教えるためなど)によっても、学習効果は変わる可能性があります。
先に紹介したTudiniの研究(2016年)は、テキストベースのコミュニケーションにおけるコードスイッチングを分析し、それが訂正フィードバックの威圧感を和らげ、より対等な関係を築く機能を持つことを示しました。音声コミュニケーションにおいても、同様の社会的機能があるのか、そしてそれが学習にどう影響するのかは、さらなる研究が必要です。
また、修正出力の質についても、より詳しい分析が求められます。Gurzynski-WeissとBaraltの研究(2015年)は、修正出力を「完全な修正」「部分的な修正」「修正なし」の3つに分類し、部分的な修正が最も気づきを示す指標となることを示しました。Canalsの研究でも、このような細かい分類を適用すれば、どの言語での議論が最も深い学習を促進するのかが、より明確になるかもしれません。
さらに、長期的な学習効果の測定も重要です。この研究は、会話の中での即時的な修正出力を測定していますが、それが実際に学習者の長期的な言語能力向上につながるのかは検証されていません。プレテストとポストテストを組み込んだ実験デザインであれば、より直接的に学習効果を測定できるでしょう。
結びにかえて―オンライン言語学習の可能性
この研究は、オンラインでのタンデム学習という、比較的新しい教育実践について、実証的なデータを提供しています。結果は、使用言語の選択が学習プロセスに影響を与えることを示しており、教育実践者にとって有用な知見と言えます。
特に、コロナ禍を経て、オンラインでの言語学習や国際交流は「特別なもの」ではなく「当たり前の選択肢」になりつつあります。そのような時代において、どのような実践が効果的なのかを実証的に明らかにすることは、ますます重要になっています。
ただし、研究結果の解釈には慎重さも必要です。この研究は特定の文脈(カナダとスペインの大学生、英語とスペイン語、中上級から上級レベル)での知見であり、他の言語ペアや学習レベル、文化的背景でも同じ結果が得られるとは限りません。
日本の教育現場で応用する際には、学習者の特性やニーズに合わせて調整することが必要でしょう。例えば、日本人学習者は欧米の学習者と比べて、間違いを指摘されることに対する心理的な抵抗が大きいかもしれません。そのような場合は、フィードバックの提供方法について事前に十分な説明やトレーニングを行うことが重要になります。
また、技術的な側面も無視できません。この研究ではSkypeが使用されましたが、現在ではZoom、Microsoft Teams、Google Meetなど、様々なビデオ会議ツールが利用可能です。それぞれのツールの特性(画質、音質、安定性、機能など)が学習体験や成果にどう影響するかも、今後の研究課題となるでしょう。
いずれにせよ、この研究は、オンライン言語学習の設計において考慮すべき新たな要因―使用言語の選択―を明らかにした点で、重要な貢献をしています。今後、同様の視点からの研究が蓄積されることで、より効果的なオンライン言語教育の実践が可能になることが期待されます。
Canals, L. (2022). The role of the language of interaction and translanguaging on attention to interactional feedback in virtual exchanges. System, 105, Article 102721. https://doi.org/10.1016/j.system.2022.102721
