はじめに―単語ひとつずつ読んでいませんか

英語の文章を読むとき、私たちはどのように情報を処理しているのでしょうか。例えば “The students sent a Christmas card to their teachers at school” という文を読むとき、英語が母語の人は「the students」「sent a Christmas card」「to their teachers」「at school」といった意味のある「かたまり」として瞬時に理解します。ところが、英語を学習中の日本人の多くは、「The」「students」「sent」「a」「Christmas」と、一語ずつ順番に処理していく傾向があります。

この違いは些細なことのように思えるかもしれませんが、実は読解力や処理速度に大きな影響を与えます。Melbourne大学のTakumi KosakaとHelen Zhaoは、この「かたまり処理」の能力を高める訓練方法を開発し、その効果を科学的に検証しました。本研究”Chunk reading strategy training improves multiword processing by Japanese English learners”は、日本の高校生74名を対象に、約3週間にわたる介入実験を行った意欲的な取り組みです。

研究の理論的背景―言語処理の「今か決して」原則

Kosakaたちの研究は、Christiansen and Chater(2016)が提唱した「Chunk-and-Pass モデル」という理論に基づいています。この理論の核心にあるのは「Now-or-Never bottleneck(今か決して制約)」という考え方です。

言語を理解するとき、私たちの脳は次から次へと流れてくる言葉を瞬時に処理しなければなりません。会話でも読解でも、入ってきた情報をその場で処理しないと、すぐに忘れてしまいます。しかし、人間の短期記憶には限界があります。かつてMiller(1956)は「マジカルナンバー7±2」として、私たちが同時に保持できる情報は5〜9個程度だと指摘しました。近年の研究ではこの数はさらに少なく「4±1」とも言われています。

この記憶の制約に対処するため、脳は賢い戦略を使います。それが「チャンキング(chunking)」、つまり複数の要素をひとつのかたまりにまとめる処理です。電話番号を覚えるとき、090-1234-5678と区切って覚えるのと同じ原理です。言語でも、個別の単語を意味のある多語単位(multiword units)にまとめることで、限られた記憶容量で効率的に情報を処理できるのです。

さらに、この理論は「学習は処理と同時に起こる」と主張します。つまり、言語を身につけるということは、適切にチャンクを作り、それを高次の抽象的な文法構造に結びつける能力を、実際に言語を使いながら獲得していくプロセスなのです。

日本人学習者が抱える特有の困難

Fender(2003)の研究は、日本人英語学習者が直面する独特の課題を明らかにしています。日本語は「主語-目的語-動詞(SOV)」という語順を持つ「head-final(中心語後置)」の言語です。「太郎がリンゴを食べる」のように、動詞が最後に来ます。一方、英語は「主語-動詞-目的語(SVO)」の「head-initial(中心語前置)」の言語です。

この根本的な違いのため、日本人学習者は英語で動詞と目的語をひとつのかたまりとして統合することに困難を感じます。Fenderの研究では、アラビア語話者(VSO/SVOという語順)と比較して、日本語話者は動詞-目的語の統合が明らかに苦手でした。興味深いことに、読解の最終的な理解度には差がなかったのですが、処理の仕方が異なっていたのです。

Kosaka(2024)の先行研究では、低熟達度の日本人英語学習者は、英語母語話者とは異なり、統語的・意味的に完結した語のかたまり(phrasal trigrams、例えば「give a present」)と、不完全なかたまり(fragmental trigrams、例えば「give presents to」)を区別して処理できないことが示されました。つまり、どこで意味のある区切りがあるのかを感じ取る感覚が十分に発達していないのです。

チャンク読解ストラテジー訓練(CRST)とは

こうした課題に対処するため、Kosakaたちが開発したのが「Chunk Reading Strategy Training(CRST)」です。この訓練は、文章を統語的・意味的に完結した多語単位に分割し、学習者にそれを順次提示するというものです。

例えば、”My family will have a party at home this Sunday because I graduated from my university” という文は、以下のように区切られます。

  • My family /
  • will have a party /
  • at home /
  • this Sunday /
  • because /
  • I /
  • graduated from my university.

重要なのは、動詞と目的語を一緒にひとつのチャンクとして提示することです(「will have a party」)。これは、日本人学習者が英語のSVO語順に慣れ、動詞と目的語を統合して処理できるようにするための工夫です。

訓練では、各チャンクが画面中央に0.5秒/音節の速度で順次表示されます。一度表示されたチャンクに戻ることはできません。この時間制約が「今か決して」の状況を作り出し、その場での処理を促します。すべてのチャンクが表示された後、文全体が4秒間表示され、見逃した情報を確認できます。

3文ごとに日本語で理解度を確認する真偽問題が出されます。これにより、学習者は意味理解に注意を向けながら訓練に取り組むことになります。

全体で600文、10セッション(1セッション約15〜20分)の訓練が用意されました。扱われた構文は以下の5種類です。

  • 句動詞(PV): waited for him
  • 単純他動詞(STV): reading a book
  • 移動動詞(CMV): put the ball in the box
  • 二重目的語動詞(DV): gave him something
  • be動詞+形容詞/名詞: were kind

これらの構文の出現頻度は均等に調整されました。頻度効果を統制することで、特定の構文だけが集中的に訓練されることを避けたのです。

実験の設計―厳密な比較研究

実験には日本の高校の2年生74名が参加しました。全員が日本語母語話者で、英語能力はヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)でA1〜A2レベル、つまり初級から初中級程度です。13歳から英語を学び始め、英語圏での生活経験はありません。

2つのクラスがランダムに「treatment群(CRST訓練)」と「control群(従来型読解訓練)」に割り当てられました。control群は、Eiken(実用英語技能検定)の3級と準2級の読解問題に取り組みました。従来の段落形式で文章が提示され、理解度を測る4つの質問に答えます。訓練時間はtreatment群と同じになるよう調整されました。

効果測定には「Phrasal Decision Task(PDT)」という方法が用いられました。これは、画面に3語のかたまり(trigram)が提示され、それが英語として「ありうる」かどうかを4秒以内にできるだけ速く正確に判断するというものです。

実験用の刺激は320個用意され、半分が完結したチャンク(phrasal trigrams、例: give a present)、半分が不完全なチャンク(fragmental trigrams、例: give presents to)です。さらに同数の非文法的なフィラー項目(例: present a giveのように語順を入れ替えたもの)も含まれました。

重要なのは、音節数、頻度、もっともらしさなどの要因が統計的に統制されたことです。これにより、処理の難易度の違いが、これらの要因ではなく、チャンクの完結性によるものだと言えます。

測定は3回行われました。訓練前(pretest)、訓練直後(posttest、短期効果)、2週間後(delayed posttest、長期効果)です。この縦断的デザインにより、効果の持続性も検証できます。

研究結果―速度は改善、しかし感度には課題

まず、英語母語話者27名から得られたベースラインデータを見てみましょう。彼らは完結したチャンク(平均1055ミリ秒)を不完全なチャンク(平均1222ミリ秒)よりも明らかに速く処理しました。効果量はd=0.55と中程度の大きさです。正確さでも同様の傾向が見られ(完結97% vs. 不完全85%)、オッズ比は5.59でした。これは、英語母語話者が統語的・意味的な境界に非常に敏感であることを示しています。

一方、日本人学習者はこの区別をつけませんでした。訓練前の段階で、完結したチャンクと不完全なチャンクの処理時間に有意差がありませんでした。これはKosaka(2024)の先行研究を追認する結果です。

短期効果―訓練直後の変化

訓練直後の測定では、重要な発見がありました。treatment群の反応時間は、訓練前の平均2025ミリ秒から訓練後の1676ミリ秒へと大幅に短縮しました(効果量d=0.59)。一方、control群には有意な変化がありませんでした(訓練前1845ミリ秒、訓練後1984ミリ秒)。統計的に有意な「セッション×グループ」の交互作用が検出され、訓練の効果が確認されました。

興味深いことに、この改善はすべての構文タイプで均等に見られました。二重目的語構文(DV)は全体的に処理が最も遅かったのですが、訓練による改善の度合いは他の構文と変わりませんでした。これは、訓練で各構文の出現頻度を統制したことの成果と考えられます。

しかし、期待されていた「完結チャンクへの感度の向上」は見られませんでした。訓練後も、日本人学習者は完結したチャンクと不完全なチャンクを区別して処理することができませんでした。

正確さに関しては、全体的に完結したチャンク(78%)の方が不完全なチャンク(63%)よりも高い傾向がありましたが、訓練による改善は見られませんでした。むしろ、treatment群で単純他動詞構文(STV)の正確さが訓練前と比べて若干低下する傾向が見られました(統計的には有意ではありませんが)。

長期効果―2週間後の持続性

2週間後の測定では、さらに興味深いパターンが現れました。treatment群の反応時間は訓練前の2025ミリ秒から1532ミリ秒へとさらに短縮していました(効果量d=0.92と大きい)。驚くべきことに、control群も訓練前の1845ミリ秒から1661ミリ秒へと改善を示しました(効果量d=0.43)。

ただし、統計的には、treatment群の改善の方がcontrol群よりも有意に大きいことが確認されました。control群の改善は、複数回のテストに慣れたことによる「練習効果」と解釈されます。

長期効果でも、完結チャンクへの感度向上は見られませんでした。正確さについても、短期効果と同様のパターンでした。

考察―なぜ速度は改善したが感度は向上しなかったのか

研究者たちは、訓練の効果を「オンライン学習」と「局所的学習」という観点から説明しています。

CRSTでは、文が常に統語的・意味的に完結したチャンクに分割されて提示されます。学習者は、文全体ではなく、これらの局所的な単位に焦点を当てて処理します。4つの構文タイプにわたって、統語的に一貫したチャンクが繰り返し提示されることで、多語レベルでの構造の抽象化が進んだと考えられます。

特に、動詞と目的語が一緒にチャンク化されることで、日本人学習者が苦手とする英語のSVO語順の処理が促進されました。この構造が「定着(entrenchment)」することで、処理速度が向上したのです。

さらに、各チャンクは時間制限付きで一度しか表示されません。この「オンライン」の制約が、その場での即時的な処理を強制し、「今か決して」の状況を作り出しました。これにより、学習者は来るべき情報を予測する能力を発達させた可能性があります。例えば、動詞を見たら目的語が続くことを予測するといった具合です。

しかし、なぜ完結チャンクへの感度は向上しなかったのでしょうか。研究者たちは、CRSTがすべて完結したチャンクだけを提示し、不完全なチャンクという「負の証拠(negative evidence)」を含まなかったことを理由として挙げています。

心理学の研究では、認知処理を一般化するには、正の証拠だけでなく負の証拠との対比が重要であることが示されています。第二言語習得研究でも、統計的学習だけでは不十分で、誤用の訂正などの負の証拠が文法習得に不可欠だとされています。

完結したチャンクと不完全なチャンクの違いを学習者に意識させるには、両方を提示し、その違いを明示的に教える必要があったのかもしれません。

もう一つの要因として、訓練期間の短さが挙げられます。約150〜200分という訓練時間は、過去のVisual-Syntactic Text Formatting(VSTF)を用いた研究(例: Walker et al., 2005)と比べて短いものでした。第二言語習得の研究では、目標言語への曝露時間が学習成功の重要な要因であることが知られています。より長期間の訓練であれば、感度の向上も見られた可能性があります。

構文タイプによる違い―二重目的語構文の困難さ

すべての構文の中で、日本人学習者が最も苦手としたのは二重目的語構文(DV: gave him something)でした。これは「主語-動詞-目的語1-目的語2(SVOO)」という構造を持ちます。

この困難さには二つの要因が絡んでいると考えられます。第一に、SVOOは英語の基本語順SVOよりもさらに「非典型的(less canonical)」です。Brown et al.(2012)は、典型的な語順から外れるほど処理が難しくなることを示しています。

第二に、日本語にも二重目的語構文は存在しますが、日本語では助詞(「に」「を」など)によって文法的役割が示されるため、語順は比較的自由です。例えば「太郎が花子に本をあげた」も「太郎が本を花子にあげた」も可能です。一方、英語では語順によって文法的役割が決まるため、”gave him something”と”gave something him”では意味が異なります。

日本人学習者は、日本語で培った「助詞による処理」の方略を英語に転用しようとしますが、英語では語順が決定的に重要です。この「語順による役割割り当て」の能力が十分に発達していないため、二重目的語構文の処理が特に難しいのです。

興味深いことに、訓練によってこの構文の処理速度も他の構文と同じように改善しました。これは、CRSTが統語的に一貫した形で構文を提示し、その頻度を統制したことの効果と言えるでしょう。

日本の英語教育への示唆

この研究は、日本の英語教育に対していくつかの重要な示唆を与えてくれます。

第一に、CRSTのような訓練は、通常の授業に組み込むことが可能です。本研究では1セッション15〜20分で、10セッション分の教材が用意されました。これを60分の授業で使うには文数を減らすなどの調整が必要ですが、実現不可能ではありません。より少ない文数で長期間(例えば1学期間や1年間)継続することで、効果を最大化できる可能性があります。

第二に、教材における構文の頻度管理の重要性です。本研究では、各構文タイプの出現頻度を意図的に均等にしました。その結果、学習者は構文間で均等に処理能力を発達させました。日常の教材では特定の構文に偏りがちですが、意図的にバランスを取ることで、より体系的な学習が可能になるかもしれません。

第三に、明示的な文法指導との組み合わせの可能性です。本研究のCRSTは暗示的(implicit)な訓練でした。しかし、研究者たちは、完結したチャンクと不完全なチャンクの違いを明示的に教える方が効果的かもしれないと指摘しています。意味理解を重視した暗示的訓練を基本としつつ、必要に応じて構文の特徴を明示的に説明する「ハイブリッド」アプローチが有望でしょう。

第四に、母語の影響への配慮です。日本人学習者が特に二重目的語構文に困難を感じるのは、日本語と英語の構造的違いによるものです。こうした「つまずきやすいポイント」を教師が理解し、重点的な指導を行うことが重要です。

研究の限界と今後の展望

研究者たち自身も認めているように、この研究にはいくつかの限界があります。

最大の限界は訓練期間の短さです。約3週間、150〜200分という訓練では、深い構造知識の獲得まで期待するのは難しいかもしれません。より長期的な介入研究が必要です。

また、測定方法もPDTという単一の課題に限られていました。実際の読解力の向上や、より自然な文脈での言語使用への転移があったかどうかは、今後検証する必要があります。

参加者も1つの高校の2クラスに限られており、結果の一般化可能性には慎重であるべきです。異なる年齢層や熟達度レベルの学習者での検証も求められます。

それでも、この研究は重要な第一歩を踏み出しました。Chunk-and-Passモデルという認知科学的な理論を、実際の教育実践に応用しようとした挑戦的な試みです。今後、訓練方法の改良や長期的効果の検証が進めば、英語教育の現場に実用的な示唆を与える可能性があります。

おわりに―「かたまり」で読む力を育てるために

言語を学ぶということは、単に単語や文法規則を覚えることではありません。それは、流れゆく言語情報を適切な「かたまり」として処理し、その背後にある構造を直感的に理解できるようになることです。

日本人英語学習者の多くは、一語一語を丁寧に追う習慣が身についています。それは決して悪いことではありませんが、ある段階を超えるためには、より大きな単位で言語を捉える視点が必要になります。

KosakaとZhaoの研究は、そのための具体的な方法論を提案し、その効果を科学的に検証しました。完全な成功とは言えないまでも、処理速度の向上という明確な効果が示されました。これは、適切な訓練によって、日本人学習者も英語的な処理様式を身につけられる可能性を示唆しています。

英語教育の現場では、こうした研究知見を参考にしながら、学習者が自然に「かたまり」を感じ取れるような教材や活動を工夫していくことが大切でしょう。一文一文をどう区切るか、どの構文をどれくらいの頻度で提示するか、といった細かな配慮が、長い目で見れば大きな違いを生むかもしれません。

言語学習に王道はありませんが、認知科学の知見に基づいた系統的なアプローチは、より効率的な学習への道を開いてくれるはずです。


Kosaka, T., & Zhao, H. (2025). Chunk reading strategy training improves multiword processing by Japanese English learners. Australian Review of Applied Linguistics. Advance online publication. https://doi.org/10.1075/aral.24019.kos

 

By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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