英語嫌いが「学びたい」に変わる教室の秘密
英語の授業で「この単語の意味は何ですか」と先生に聞かれて、沈黙してしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。わからない、間違えたら恥ずかしい、そもそも英語で答えられない―そんな不安が頭をよぎります。しかし、もし先生が「中国語で答えていいよ」と言ってくれたら、あるいは身振り手振りで意味を示してくれたら、教室の雰囲気はどう変わるでしょうか。
南京林業大学の王欣策(Wang Xince)氏らによる今回の研究”Enhancing second language motivation and facilitating vocabulary acquisition in an EFL classroom through translanguaging practices”は、まさにこの問いに答えるものです。中国の江蘇省にある高校で、英語の語彙授業において母語である中国語や身振り、画像などを積極的に組み合わせる「トランスランゲージング」という教育実践を行い、生徒たちの学習意欲と語彙習得にどのような変化が起きるかを詳細に観察しました。結果は驚くべきものでした。試験のために仕方なく英語を勉強していた生徒たちが、英語そのものを楽しみ、「もっと学びたい」と思うようになったのです。
研究チームと背景:現場の悩みから生まれた問い
この研究を主導した王欣策氏は、南京林業大学で学びながら、香港大学教育学部でも研鑽を積んでいる若手研究者です。共同研究者には、実際に高校で英語を教えている夏春来(Xia Chunlai)氏と趙秋潔(Zhao Qiujie)氏、そして南京師範大学の陳麗萍(Chen Liping)教授が名を連ねています。つまり、この研究は大学の研究者と現場の教師が協力して行った、実践に根ざしたものなのです。
中国のような英語を外国語として学ぶ環境では、生徒たちは英語を使う必要性を日常生活でほとんど感じません。英語はあくまで試験科目の一つであり、大学入試の「高考(ガオカオ)」で良い点を取るための手段にすぎません。そのため、多くの生徒が英語学習に対して義務感や負担感を抱いています。特に語彙学習は暗記が中心となりがちで、意味がわからない単語を機械的に覚えることに苦痛を感じる生徒は少なくありません。
研究チームは、このような状況を変えられないかと考えました。そこで注目したのが、近年注目を集めている「トランスランゲージング」という考え方でした。
トランスランゲージングとは何か:言語の壁を越える新しい視点
トランスランゲージングという言葉は、少し難しく聞こえるかもしれません。簡単に言えば、「複数の言語や表現手段を自然に組み合わせて使う」という考え方です。
従来の外国語教育では、「英語の授業では英語だけを使うべきだ」という考えが強くありました。母語を使うことは、英語の習得を妨げると考えられていたのです。しかし、トランスランゲージングの視点では、人間の頭の中には言語が別々に存在するのではなく、すべての言語資源が統合されたレパートリーとして存在すると考えます。そして、学習者が持つすべての言語資源や身振り、画像、音声など、あらゆる表現手段を積極的に活用することで、より効果的な学習が可能になると主張します。
たとえば、英語で「drill」という動詞を教えるとき、英語だけで説明しようとすると「to make a hole using a tool」といった言い方になります。しかし、生徒がこの説明を理解できなければ意味がありません。そこで先生が「穴を開ける、という意味ですよ」と中国語で補足し、さらに手で回転させる動作を見せれば、生徒はすぐに理解できます。これがトランスランゲージングの実践です。
香港大学の李煒(Li Wei)教授は、この考え方をさらに発展させ、言語だけでなく身振りや表情、画像、動画など、あらゆる「意味を作り出すための資源」を含めてトランスランゲージングと捉えるべきだと提唱しています。この研究でも、李教授の考え方が理論的な基盤となっています。
モチベーションの変化を捉える枠組み:L2MSSという理論
この研究のもう一つの重要な柱が、「第二言語モチベーション自己システム(L2 Motivational Self System、略してL2MSS)」という理論です。これは、ハンガリーの心理学者ゼルテン・デルニェイ(Zoltán Dörnyei)教授が提唱したもので、言語学習のモチベーションを理解するために世界中で使われています。
L2MSSは、モチベーションを三つの要素に分けて考えます。一つ目は「理想的な第二言語自己(Ideal L2 Self)」です。これは「こんな自分になりたい」という前向きな願望から生まれるモチベーションです。たとえば、「将来は英語を使って世界中を旅したい」「英語の小説を原書で読みたい」といった個人的な夢や目標がこれに当たります。
二つ目は「義務的な第二言語自己(Ought-to L2 Self)」です。これは「こうあるべきだ」という外部からの期待や圧力から生まれるモチベーションです。「良い大学に入るために英語の点数が必要だ」「親や先生が期待しているから頑張らなければ」といった動機がこれに該当します。
三つ目は「第二言語学習経験(L2 Learning Experience)」です。これは、実際の学習環境での経験から生まれるモチベーションです。授業が楽しい、先生が親しみやすい、クラスメートと協力できる、といったポジティブな経験が学習意欲を高めます。
中国のような受験中心の教育環境では、多くの生徒が二つ目の「義務的な自己」によって英語を学んでいます。しかし、研究チームは、トランスランゲージングを取り入れることで、生徒のモチベーションを「理想的な自己」や「学習経験」へとシフトさせられるのではないかと考えました。
研究の舞台と方法:8回の授業を徹底観察
研究が行われたのは、江蘇省にある有力な高校です。この学校は教育研究に積極的で、新しい教育方法の試みを支援する環境が整っていました。参加したのは、英語教師として10年近い経験を持つ先生と、その先生が担当する11年生(日本でいう高校2年生)のクラスでした。生徒たちは全員が中国語を母語とし、英語の習熟度は比較的高いレベルにありました。
研究チームは、45分間の語彙授業を8回にわたって観察し、すべての授業をビデオ記録しました。学校の校長、先生、そして生徒の保護者全員から同意を得て、参加は自由意思であり、いつでも辞退できることを保証しました。
研究では複数の分析方法が組み合わされました。一つは「多モーダル会話分析(Multimodal Conversation Analysis)」という手法です。これは、授業中の言葉のやり取りだけでなく、身振り、視線、表情、間の取り方など、あらゆるコミュニケーションの要素を詳細に記録して分析する方法です。ビデオの静止画像を使いながら、先生がどのように手を動かし、どのタイミングで中国語と英語を切り替えたかなどを細かく調べました。
もう一つは「解釈的現象学的分析(Interpretative Phenomenological Analysis)」という手法です。これは、授業のビデオを先生自身に見てもらいながら、「このときなぜそうしたのか」「何を考えていたのか」を詳しくインタビューする方法です。先生の視点から授業を理解することで、表面的には見えない教育的意図を明らかにできます。
さらに、8人の生徒を対象としたフォーカスグループインタビューも実施されました。生徒たちは、成績によって4つのレベルに分けられ、各レベルから2人ずつランダムに選ばれました。インタビューでは、授業に対する率直な感想や、モチベーションの変化、トランスランゲージングについてどう思うかなどが話し合われました。
授業の実際:「drill」という単語をどう教えたか
具体的な授業の様子を見てみましょう。ある日の授業で、先生は「drill」という動詞を教えることになりました。この単語は「穴を開ける」という意味ですが、日本語でも「ドリル」という名詞は知っていても、動詞としての使い方は馴染みが薄いかもしれません。
先生はまず、例文を提示して「この単語の意味は何ですか」と尋ねました。しかし、生徒たちは沈黙してしまいます。先生は質問を言い換え、「drillは動詞として使われていますよ」とヒントを出しましたが、それでも反応がありません。そこで先生は三度目の質問をしました。すると、数人の生徒が中国語で答えを言い始めました。「钻(穴を開ける)」という意味ではないかと。
ここで先生が取った行動が興味深いのです。先生は生徒たちの中国語での答えを繰り返し、「そうです、钻ですね」と肯定しました。同時に、手で回転させる動作を見せて、穴を開ける動きを視覚的に示しました。生徒たちは安心した表情を見せます。自分たちの答えが正しかったこと、そして中国語で答えても良いのだと理解したからです。
しかし、先生はそこで止まりませんでした。今度は英語に切り替えて、「English we can say…」と説明を続け、身振りを続けながら英語での表現を教えていきます。そして、生徒たちに現実的な場面を想像させました。「エアコンを取り付けるとき、最初に何をしますか」と尋ねたのです。
先生は右手を上下に振って、何かをする動作を見せました。生徒たちは少し戸惑っています。そこで先生は質問を言い換え、両手を空中に持ち上げて大きな円を描く動作をしました。この大げさな身振りが生徒たちの注意を引き、答えようという意欲を喚起しました。
最終的に、生徒たちと先生が一緒に「drill a hole(穴を開ける)」というフレーズを声に出しました。先生はエアコン取り付けの最初のステップとして、壁に穴を開ける動作を視覚的に演じてみせました。生徒たちは「drill」という単語を、実際の生活場面と結びつけて理解することができたのです。
この一連の流れの中で、先生は中国語と英語を戦略的に切り替え、身振りや具体的な場面設定を組み合わせました。これがトランスランゲージングの実践例です。
先生の意図:インタビューから明らかになったこと
授業後のインタビューで、先生は自分の教え方について興味深い説明をしました。「生徒が難しい語彙を中国語で説明できるなら、それは受け入れるべきだと思います。生徒が中国語で意味を表現できたら、私たちは英語を使って説明を加えたり、文脈を与えたりできます。中国語での説明を繰り返すことで、生徒を励まし、意欲を高めたいのです」
先生は、最初は中国語でも英語でもどちらでも構わないが、最終的には英語で説明することが重要だと考えていました。また、身振りを使う理由についても説明しています。「生徒が単語を理解できるように、生き生きとした身振りを使いたいのです。動作を加えることで、生徒は動作とdrillという単語を関連付けることができます。印象が深まり、その単語を使えるようになります」
さらに、実生活の場面を作り出すことの重要性も強調しました。「エアコンの取り付けのような具体例を使うことで、英語がより身近に感じられます。単語と中国語の意味だけを与えることもできますが、丸暗記は非常に無理があります。だから、生徒の意欲を高めるために、さまざまな方法を考える必要があるのです」
もう一つの例:「close up」の教え方
別の授業では、「close up」という表現を教えました。この表現は「閉じる」という意味もありますが、文脈によっては「接近する」という意味にもなります。先生はまず例文を示しましたが、生徒たちは反応しません。
そこで先生は説明を始めると同時に、両腕を開いて指を伸ばし、手のひらを下に向けて、両腕を胸の前に持ってきて左右の指先が触れ合うまで動かすという身振りをしました。さらに、より強調するために、腕を抱きしめるような姿勢にして、指を伸ばし手のひらを自分に向けて、両側から腕を内側に動かして胸の前で交差させるという、より大げさな身振りをしました。
理解度を確認するため、先生は生徒たちに中国語で答えるよう促しました。生徒が間違った答えを言うと、先生は中国語で訂正しました。その後、スクリーンに別の例文を表示し、再び身振りを使って「close up」の意味を示しました。先生は声を伸ばしたり、イントネーションを変えたり、強調したりしながら、身振りを続けて文を2回読みました。
最後に、先生は「この文での『close up』の意味がわかりますか」と尋ね、中国語でヒントを与えました。生徒たちと先生が協力して、正しい答えに辿り着きました。
インタビューで先生は、なぜ中国語で訂正したのかを説明しました。「まず、生徒が他動詞と自動詞を混同しないようにしたかったのです。彼らは英語ではよく理解できないかもしれません。それに、生徒が中国語で答えたので、中国語で訂正することで一貫性を保ちました。実際、中国語で訂正することも肯定の表現です。生徒は『少なくとも半分は正しかった』という自信を持つことができます」
また、同じ質問を繰り返す際に長めの間を取った理由についても説明しました。「生徒にもっと考える時間を与えたかったのです。同時に、プレッシャーや難しさを減らして、沈黙を続けるのではなく、質問に答える勇気を持ってもらいたかったのです」
生徒のモチベーションに起きた変化
フォーカスグループインタビューでは、生徒たちの率直な声が聞かれました。授業を受ける前、生徒たちの英語学習の動機は主に外部的なものでした。「良い大学に入るため」「将来の大学院入試や公務員試験で必要だから」「就職の競争力を高めるため」といった、いわば義務感に基づくものでした。これはL2MSSでいう「義務的な第二言語自己」に相当します。
しかし、8回の授業を経た後、生徒たちの発言は変化しました。ある生徒は「確かにもっと興味深く、生き生きとしています。身振りや写真、ビデオと組み合わせると、いくつかの単語がそれほど難しくないと感じます。身体の動きを使ってこれらの単語を理解するのは、とても楽しいです」と述べました。
別の生徒は「先生は声が大きくて、教えることにとても熱心です。表情が豊かで、授業がとても活気があります。他のクラスメートが学習したり質問に答えたりしているのを見ると、私も参加したくなります」と語りました。
特に印象的だったのは、ある生徒の次のような発言です。「単語に合った写真を見ると、この単語が現実に存在するのかどうかがわかります。それらの写真を見ると、英語学習の動機が試験を受けることから世界を見ることへと変わります」別の生徒は「学習した後、達成感を感じます。これは今まで経験したことのない感覚です。この方法なら英語を上手に学べると思います」と述べました。
これらの発言は、生徒たちのモチベーションが「義務的な自己」から「理想的な自己」や「学習経験」へとシフトしたことを示しています。試験のための勉強から、英語そのものを楽しむ学習へと変化したのです。
中国語を使うことへの生徒の反応
生徒たちは、授業で中国語が使われることを非常に肯定的に捉えていました。ある生徒は「先生が母語で教えてくれると、単語を見ても怖くなったり緊張したりしません。奇妙に感じるのではなく、もっと親しみを感じます。単語を学ぶことにもっと興味を持ち、よりよく覚えられます」と語りました。
別の生徒は実用的な観点から支持しました。「私たちは日常のコミュニケーションで中国語しか話さないので、授業全体が英語で行われると、高校生の私たちには受け入れるのが難しいでしょう」
また、ある生徒は中国語を橋渡しとして捉えていました。「この中国語は、中国語と英語の間の橋として機能し、この単語をよりよく理解するのに役立つと思います」
英語の基礎が弱い生徒への配慮を指摘する声もありました。「授業が完全に英語で行われると、基礎が弱い生徒はいくつかの単語をはっきりと聞き取れず、遅れて授業についていくのに苦労するかもしれません」
これらの発言から、中国語の使用が不安を軽減し、理解を促進し、特に英語が苦手な生徒にとって包括的な学習環境を作り出していることがわかります。
身振りや画像などの多様な表現手段について
生徒たちは、先生が使う身振りや画像、動画などの多様な表現手段も高く評価していました。ある生徒は「まず私たちの注意を引きます。先生を見上げて、先生の表情や動きに注意を払うかもしれません」と述べました。
視覚的な補助が記憶に役立つという意見もありました。「いくつかの対応する単語やフレーズを写真と一緒につなげる方が効果的だと思います」「いくつかの単語はより抽象的です。写真や図は、私たちがよりよく理解し、覚えるのに役立つかもしれません」
さらに、複数の経路から情報を得ることの利点を指摘する生徒もいました。「知識を獲得する方法がより多様になります。さまざまなチャネルから得られた情報によって、この単語を覚える方法が得られます」
先生の声の変化や身振りが重要なポイントを示すサインになっているという認識も示されました。「これが重要なポイントだと私たちに教えてくれます。先生の声が突然高くなったり、何か動きをしたりすると、私たちは先生を見て、次に言おうとしている重要なポイントを覚えます」
心理的な安心感についても言及がありました。「先生の表情は生徒に過度のプレッシャーをかけず、萎縮することなく自由に話すことができます」「質問に間違って答えても、先生は失望した表情を見せますが、深刻ではないので、生徒はそれほど慌てません。後で、私が間違って言った単語を先生が説明するとき、私はそれを受け入れやすくなります」
特に評価が高かったのは、実生活の場面を使った説明でした。「エアコンの取り付けのように、英語がより生き生きとしたものになります」「例文も私たちのために文脈を作り出します。これにより、国際言語としての英語が私たちからそれほど遠くなく、それほど高尚ではないと感じられ、私たちはみんなこの言語を学びたいと思うようになります」
研究が示す教育への示唆
この研究から、いくつかの重要な教育的示唆が得られます。第一に、トランスランゲージングは生徒の学習意欲を「試験のための勉強」から「学びたいという内発的動機」へと転換させる可能性があります。これは、受験中心の教育環境において特に重要です。
第二に、母語の使用は第二言語学習を妨げるどころか、不安を軽減し、理解を深め、より包括的な学習環境を作り出します。特に、生徒が間違いを恐れずに参加できるようになることは、言語学習において非常に重要です。
第三に、言葉だけでなく、身振り、表情、画像、動画など、多様な表現手段を組み合わせることで、抽象的な概念をより具体的に理解できるようになります。これは特に語彙学習において効果的です。
第四に、実生活の場面を想像させることで、学習内容がより身近で実用的なものとして認識されます。エアコンの取り付けという具体例は、生徒たちにとって「drill」という単語を単なる試験問題の一部ではなく、実際に使える言葉として位置づけました。
教師には、トランスランゲージングを効果的に使うための訓練が必要です。この研究に参加した先生は、10年近い経験を持ち、いつ中国語を使い、いつ英語に切り替えるか、どのような身振りが効果的か、どのタイミングで生徒に答えさせるかなど、細かな判断を絶えず行っていました。これは単に母語を許容するというだけでなく、戦略的に複数の言語と表現手段を組み合わせる技術が求められることを意味します。
教育政策の面では、トランスランゲージングの役割を認識し、支援する枠組みが必要です。「英語の授業では英語だけを使うべきだ」という従来の考え方を見直し、生徒の持つすべての言語資源を積極的に活用する方針を打ち出すことが求められます。
研究の限界と今後の課題
研究チーム自身が認めているように、この研究にはいくつかの限界があります。まず、観察期間が8回の授業に限られていることです。より長期的な効果を確認するには、数ヶ月から1年にわたる追跡調査が必要でしょう。
また、研究対象が一つの学校、一人の先生、一つのクラスに限られています。この学校は教育研究に積極的で、生徒たちの英語習熟度も比較的高いレベルにありました。異なる環境、異なる習熟度の生徒たちでも同様の効果が得られるかは、今後の検証が必要です。
さらに、この研究は質的な分析が中心で、統計的なデータは含まれていません。アンケート調査などを組み合わせて、より多くの生徒のモチベーション変化を数値化できれば、説得力がさらに増すでしょう。
もう一つの重要な課題は、評価方法との整合性です。研究チームも指摘しているように、中国の大学入試「高考」は依然として従来型の標準化されたテストであり、トランスランゲージングで育まれる柔軟な言語運用能力を十分に評価できません。生徒の中には、トランスランゲージングが試験対策として適切かどうか不安を感じる者もいるかもしれません。これは、教育実践と評価制度の間のズレという、より大きな問題を浮き彫りにしています。
将来的には、多様な教室環境や習熟度レベルでトランスランゲージングの効果を検証する研究が必要です。また、より多くのインタビューや観察を含む質的研究の拡大、さらには長期的な追跡調査によって、時間とともにどのような変化が起きるかを明らかにすることも重要でしょう。
まとめ:言語教育の新しい可能性
この研究は、外国語教育における一つの重要な問いに答えようとしています。それは「生徒たちを本当に動機づけ、効果的に学習させるには、どうすればよいか」という問いです。
答えは意外なほどシンプルでした。生徒が持っているすべてのリソース――母語、身振り、実生活の経験、視覚的なイメージ――を積極的に活用することです。言語を切り離された技能として教えるのではなく、人間のコミュニケーション全体の中に位置づけることです。
江蘇省のある高校の教室で起きた変化は、小さなものかもしれません。しかし、「試験のために勉強する」という義務感に駆られていた生徒たちが、「英語を学ぶのは楽しい」「もっと世界を知りたい」と感じるようになったという事実は、決して小さくありません。
私たちの多くは、学校で外国語を学んだ経験があります。単語を暗記し、文法を覚え、試験のために勉強した記憶です。もし授業がもっと自由で、母語を使っても良く、先生が身振りや画像を使って楽しく教えてくれたら、私たちの外国語学習はどれほど違ったものになっていたでしょうか。
トランスランゲージングは、言語教育に新しい可能性を開きます。それは単なる教育技法ではなく、学習者を全人的に捉え、その持てる力を最大限に引き出そうとする姿勢です。完璧な解決策ではないかもしれませんが、試験中心の教育環境の中でも、学ぶ喜びを取り戻す一つの道を示しているのです。
Wang, X., Xia, C., Zhao, Q., & Chen, L. (2025). Enhancing second language motivation and facilitating vocabulary acquisition in an EFL classroom through translanguaging practices. Applied Linguistics Review, 16(5), 2183–2216. https://doi.org/10.1515/applirev-2024-0292