はじめに―筆者と研究の出発点

この論文を書いたKenza Takarrouchtは、アルジェリア第2大学の英語学科で教鞭をとる研究者です。アルジェリアはフランス語を公用語の一つとする国ですが、英語教育も盛んに行われています。ただし、英語は多くの学生にとって外国語であり、特にライティング(書くこと)は難しい技能の一つとされています。Takarrouchtが注目したのは、学生たちが「自分は英語で文章を書ける」という感覚、つまり自己効力感を持てるかどうかという問題でした。

自己効力感というのは、心理学者Albert Banduraが提唱した概念で、簡単に言えば「自分はこの課題をうまくこなせる」という確信のことです。例えば、料理を始めたばかりの人が「私はこのレシピ通りに作れば、おいしい料理ができる」と信じられるかどうか。その信念が強ければ、失敗を恐れずに挑戦できますし、多少の失敗があっても諦めずに続けられます。英語のライティングでも同じことが言えます。「自分は段落を書ける」「文法を適切に使える」という感覚があれば、学習意欲は高まり、実際の成果も上がりやすくなります。

Takarrouchtは、この自己効力感を高める方法として「自己評価」に着目しました。自己評価とは、教師が採点するのではなく、学生自身が自分の作品を評価する活動です。この研究”The effect of self-assessment on the development of EFL writing self-efficacy: A case of Algerian higher education”では、4週間にわたって大学1年生60名を対象に、自己評価活動を取り入れた実験を行い、その効果を検証しました。

自己評価とは何か―料理のレシピチェックに例えると

自己評価という概念は、日常生活の中でも実は私たちが頻繁に行っていることです。例えば、料理を作るとき、レシピを見ながら「ちゃんと材料は揃っているか」「調味料の量は正しいか」「火加減は適切か」と自分でチェックしますよね。そして出来上がった料理を味見して「もう少し塩を足そう」とか「次はもっと煮込み時間を長くしよう」と改善点を考えます。これがまさに自己評価のプロセスです。

ライティングにおける自己評価も同じです。学生は、自分の書いた文章を一定の基準に照らして確認します。「この段落には主題文があるか」「支持文は適切に配置されているか」「文法の間違いはないか」といった具合です。このプロセスを通じて、学生は「良い文章とは何か」という基準を内面化していきます。そして、その基準に照らして自分の文章を評価することで、「できている部分」と「改善が必要な部分」が明確になります。

Takarrouchtの研究では、この自己評価が単にライティング技能を向上させるだけでなく、「自分は書ける」という自信を育てることにも効果があるのではないかという仮説のもとに進められました。

研究方法―統制群と実験群を使った実験の仕組み

この研究では、60名の大学1年生を2つのグループに分けました。一方は「実験群」で、自己評価活動を行います。もう一方は「統制群」で、通常の授業を受けます。この2つのグループを比較することで、自己評価の効果を測定しようというわけです。

実験群の学生たちは、4週間にわたって2種類の自己評価活動に取り組みました。1つ目は「ライティング戦略の自己評価」です。これは、文章を書く前や書いている最中に、「計画を立てたか」「目標を設定したか」「アイディアをブレインストーミングしたか」「読み返したか」「修正したか」といった戦略をチェックするものです。いわば、料理を作る前に「今日は何を作るか決めたか」「材料は揃えたか」「手順を確認したか」とチェックするようなものです。

2つ目は「パラグラフライティングのチェックリスト」です。これは、書き上げた段落を評価するためのもので、「内容は適切か」「構成は論理的か」「文法は正しいか」「語彙は適切か」「句読点は正しいか」といった項目があります。料理で言えば、出来上がった料理を「味は良いか」「見た目は美しいか」「温度は適切か」とチェックするようなものです。

実験が終わった後、両方のグループに「ライティング自己効力感スケール」という質問紙を実施しました。これは13項目からなる尺度で、「私はライティング戦略を使いこなせる」「私は適切な語彙を選べる」といった項目に対して、5段階で回答します。この結果を統計的に分析して、2つのグループに差があるかどうかを調べました。

さらに、実験群の20名に対しては、インタビューも行いました。「自分のライティング能力についてどう思うか」「自己評価活動は役に立ったか」といった質問をして、数字だけでは見えない学生の実感を探りました。

研究の理論的背景―メタ認知と自己調整の世界

この研究を理解するには、いくつかの理論的な背景を知っておく必要があります。まず「メタ認知」という概念です。メタ認知とは、「認知についての認知」、つまり自分の考え方や学び方について考えることです。例えば、数学の問題を解いているとき、「この解き方で合っているかな」と自分の解法を振り返ることがメタ認知です。

ライティングにおけるメタ認知は、「メタ認知的モニタリング」と「メタ認知的コントロール」の2つに分けられます。モニタリングは、書いている内容を常にチェックすることです。「この文は意味が通じているか」「論理的な流れになっているか」と確認するわけです。コントロールは、その確認に基づいて実際に文章を修正したり、書き方を変えたりすることです。読み返して「ここは分かりにくいな」と気づいたら(モニタリング)、その部分を書き直す(コントロール)という具合です。

この2つのプロセスは「モニター」と呼ばれる機能によって調整されます。モニターは、いわば文章を書く過程の指揮者のようなものです。「今は計画を立てる段階」「今は実際に書く段階」「今は見直す段階」と、各段階を管理します。

そして、もう1つ重要な概念が「自己調整学習」です。これは心理学者Barry Zimmermannらが提唱したモデルで、学習を3つの段階に分けて考えます。第1段階は「予見段階」で、課題に取り組む前に目標を設定したり、自分の能力を見積もったりします。第2段階は「遂行段階」で、実際に課題に取り組み、戦略を使いながら進めます。第3段階は「自己省察段階」で、結果を振り返り、「うまくいったか」「何が良くて何が悪かったか」と評価します。

Takarrouchtの研究では、自己評価活動がこの自己調整学習のサイクルを促進し、その結果として自己効力感が高まるという理論的な枠組みを採用しています。つまり、自己評価を通じて、学生は自分のライティングプロセスを客観的に見つめ、効果的な戦略を身につけ、「自分はできる」という感覚を育てていくというわけです。

研究結果―数字が語る明確な差

この研究の結果は、かなり明確でした。ライティング自己効力感スケールの得点は、13点から65点の範囲で測定されます。39点が中立的な反応で、それより高ければ自己効力感が高く、低ければ自己効力感が低いと判断されます。

統制群(通常の授業を受けたグループ)の平均点は38.87点で、39点をわずかに下回りました。39点を超えた学生は12名で、下回った学生は27名でした。一方、実験群(自己評価活動を行ったグループ)の平均点は49.33点で、明らかに39点を上回りました。39点を超えた学生は20名で、下回った学生は10名でした。

この差が偶然によるものかどうかを確かめるため、統計的な検定(独立サンプルt検定)を行いました。その結果、p値が0.001683という非常に小さな値が得られました。統計学では、p値が0.05以下であれば「偶然ではない」と判断されますので、この差は統計的に有意、つまり意味のある差だと言えます。

さらに、インタビューの結果も興味深いものでした。学生たちは、自己評価活動を通じて次のような感覚を持つようになったと語りました。「文章を書く前に計画を立てられるようになった」「目標を設定できるようになった」「自分の文章をチェックする方法が分かった」「段落を整理して書けるようになった」「適切な語彙を選べるようになった」「良い段落とはどういうものか分かるようになった」。

これらの声は、単に「自信がついた」という抽象的なものではなく、具体的に「何ができるようになったか」を示しています。それが自己効力感の本質です。漠然とした自信ではなく、「この部分は自分にはできる」という具体的な確信なのです。

研究の意義―理論と実践をつなぐ試み

この研究の最も重要な貢献は、理論的な概念である自己効力感と、実践的な教育手法である自己評価を結びつけた点にあります。これまでの研究でも、自己評価がライティング技能を向上させることは知られていました。しかし、それが学生の心理的な側面、特に自己効力感にどのような影響を与えるのかについては、十分に研究されていませんでした。

Takarrouchtは、アルジェリアという特定の文化的・教育的文脈において、この問いに答えようとしました。アルジェリアでは、近年教育改革が進められ、学習者中心の教育が推進されています。その中で、自己評価のような学生が主体的に学ぶ手法が注目されています。この研究は、そうした教育改革の流れの中で、具体的なエビデンス(証拠)を提供するものとなっています。

また、この研究は混合研究法を採用している点も評価できます。量的データ(自己効力感スケールの得点)だけでなく、質的データ(インタビュー)も収集することで、統計的な差の背後にある学生の実感や経験を捉えようとしています。例えば、スケールの得点が上がったという事実だけでなく、「なぜ自信がついたのか」「具体的にどのような点で成長を感じたのか」といった学生の声を聞くことで、研究結果により豊かな意味を与えています。

方法論上の課題―限界を認識することの大切さ

しかし、この研究にはいくつかの限界もあります。Takarroucht自身も論文の最後で認めているように、最も大きな問題はサンプリング方法です。この研究では「便宜的サンプリング」、つまり研究者がアクセス可能な学生を対象にしたため、無作為抽出ではありません。そのため、この結果が他の学生集団にも当てはまるとは必ずしも言えません。

例えば、この研究の参加者は1年生だけでした。もし上級生を対象にしたら、結果は変わるかもしれません。また、参加者の英語能力は「様々」だったと記述されていますが、具体的なレベルは明記されていません。初級者と中級者では、自己評価の効果が異なる可能性もあります。

さらに、介入期間が4週間と比較的短いことも課題です。短期的には効果があっても、長期的に維持されるかどうかは分かりません。料理の例で言えば、1か月間レシピをチェックしながら料理を作ったら自信がついたけれど、3か月後、半年後もその自信が続いているかどうかは別の問題です。

また、統制群がどのような授業を受けたのかについての詳細な記述が不足しています。実験群と統制群の差が、本当に自己評価活動によるものなのか、それとも単に「何か特別な活動をした」という事実によるものなのか(いわゆるホーソン効果)を区別することが難しくなっています。

統計的な分析についても、いくつか疑問が残ります。例えば、事前テストが実施されていないため、2つのグループが最初から同等だったかどうかが確認できません。もしかしたら、実験群の学生は最初から自己効力感が高かったという可能性も否定できません。通常、こうした準実験では、事前テストと事後テストの両方を実施し、「変化量」を比較するのが望ましいとされています。

理論的枠組みの適用―複雑さをどう扱うか

Takarrouchtは、Zimmermanの自己調整学習モデルをライティングに適用していますが、この適用の仕方にも議論の余地があります。Zimmermanのモデルは一般的な学習を対象としたものですが、ライティングには特有の複雑さがあります。特に外国語でのライティングは、母語でのライティングよりもさらに複雑です。

例えば、母語で書く場合は、語彙や文法についてほとんど意識せずに、内容や構成に集中できます。しかし外国語では、「この単語の使い方は正しいか」「この前置詞で良いか」といった言語的な問題に常に注意を向けなければなりません。この二重の負荷(内容と言語)を、自己調整学習のモデルがどこまで捉えられているかは疑問です。

また、自己評価と教師評価の関係についても、もう少し踏み込んだ議論が必要でしょう。この研究では、学生が自己評価を行いましたが、教師からのフィードバックはどうなっていたのでしょうか。自己評価と教師評価が食い違った場合、学生はどのように対処すべきなのでしょうか。例えば、学生が「良く書けた」と思っても、教師が「まだ改善が必要」と評価した場合、それは学生の自己効力感にどう影響するのでしょうか。

実際の教育現場では、学生の自己評価と教師の評価を組み合わせることが多いですが、この研究ではその点が十分に考慮されていません。自己評価が自己効力感を高める一方で、現実離れした過度な自信を生む危険性についても検討が必要です。

文化的文脈の考慮―アルジェリアという場

この研究がアルジェリアで行われたという事実は、重要な意味を持ちます。アルジェリアは、かつてフランスの植民地だった歴史があり、現在もフランス語が公用語の一つとして使われています。そうした多言語環境の中で、英語は「第三言語」として学ばれることになります。

また、アルジェリアの教育文化も考慮する必要があります。多くの研究者が指摘するように、中東や北アフリカの教育システムでは、伝統的に教師中心の授業が主流で、学生が主体的に学ぶ機会は限られていました。そうした文化的背景を持つ学生にとって、自己評価という活動は、かなり新しい経験だったかもしれません。

この点を考えると、この研究の結果は、より大きな意味を持ちます。自己評価は、単なる学習技法ではなく、学生が自分の学びに責任を持ち、主体的に関わるという姿勢の転換を促すものだからです。もし伝統的な教育に慣れた学生が、わずか4週間の介入で自己効力感を高めたのだとすれば、それは注目に値する変化です。

一方で、この文化的文脈は、研究結果の一般化可能性を制限するものでもあります。アルジェリアの学生に効果があったからといって、日本やアメリカ、あるいは他のアラブ諸国の学生にも同じ効果があるとは限りません。教育文化や学習スタイルの違いを考慮する必要があります。

実践への示唆―教室での応用を考える

この研究から得られる実践的な示唆は多くあります。第一に、ライティングの授業に自己評価活動を取り入れることの重要性です。多くの教師は、学生の作品を評価し、フィードバックを与えることに多くの時間を費やしています。しかし、この研究は、学生自身に評価させることの価値を示しています。

ただし、ここで注意が必要なのは、自己評価は単に「自分の点数をつけてください」というものではないということです。この研究で使われた自己評価活動は、明確な基準(チェックリスト)を伴うものでした。学生は、「良い文章とは何か」という基準を学び、その基準に照らして自分の文章を評価しました。つまり、自己評価は評価のための評価ではなく、学習のための評価だったのです。

教師は、学生が自己評価を効果的に行えるように、以下のような支援をする必要があります。まず、評価基準を明確にすることです。「内容が良い」といった漠然とした基準ではなく、「主題文が明確に示されている」「支持文が3つ以上ある」といった具体的な基準を示す必要があります。

次に、自己評価の方法を教えることです。学生は、最初から自己評価ができるわけではありません。教師がモデルを示したり、学生同士で練習したりする機会が必要です。例えば、サンプルの文章を使って、クラス全体で評価の練習をすることが考えられます。

さらに、自己評価の結果を学習につなげることです。自己評価をして終わりではなく、その結果をもとに改善計画を立てたり、次の課題に活かしたりすることが重要です。この研究で使われた自己評価活動には、学生が自分の目標を書くセクションが含まれていました。これは良い実践例と言えます。

測定の妥当性―何を測っているのか

この研究で使われたライティング自己効力感スケールは、Tengらが開発したものを採用しています。このスケールは、ライティング戦略を使う能力と、言語的・修辞的能力の両方を測定するように設計されています。しかし、13項目という比較的少ない項目数で、ライティング自己効力感という複雑な構成概念を十分に捉えられているかは疑問です。

例えば、このスケールには「文章構成を計画する能力」や「適切な語彙を選ぶ能力」についての項目はあるかもしれませんが、「読者を意識して書く能力」や「説得力のある議論を展開する能力」といった、より高次の能力についてはどうでしょうか。特に大学レベルのアカデミックライティングでは、こうした能力が重要になります。

また、自己効力感の測定には、文脈依存性という問題もあります。学生は、「パラグラフを書くこと」には自信があっても、「エッセイ全体を書くこと」には自信がないかもしれません。あるいは、「個人的な経験について書くこと」には自信があっても、「学術的なトピックについて書くこと」には自信がないかもしれません。このスケールが、どの程度そうした文脈の違いを反映しているかは不明です。

さらに、インタビューのデータ分析についても、もう少し詳細が欲しいところです。どのような質問をしたのか、どのように回答を分類したのか、分析の信頼性をどう確保したのかといった点が、論文からは十分に読み取れません。質的研究では、研究者の解釈が結果に大きく影響するため、分析プロセスの透明性が特に重要です。

自己効力感の源泉―何が自信を生むのか

Banduraの理論によれば、自己効力感には4つの主要な源泉があります。第一は「達成体験」で、実際に成功することです。第二は「代理経験」で、他者の成功を見ることです。第三は「言語的説得」で、他者から「できる」と言われることです。第四は「生理的・情動的状態」で、不安や緊張の程度です。

この研究では、主に達成体験に焦点を当てています。自己評価を通じて、学生は「自分はこの基準を満たせている」という小さな成功体験を積み重ねます。それが自己効力感につながるという説明です。しかし、他の3つの源泉についてはあまり議論されていません。

例えば、自己評価活動の中で、学生同士がお互いの文章を見る機会があったでしょうか(代理経験)。教師は、自己評価の結果について学生にどのようなフィードバックを与えたでしょうか(言語的説得)。自己評価を行うことで、学生のライティングに対する不安は減少したでしょうか(情動的状態)。こうした点についても、もっと深く探求できたかもしれません。

また、自己効力感と実際の能力の関係についても考える必要があります。自己効力感が高まることは良いことですが、それが実際のライティング能力の向上につながっているかどうかは、この研究では検証されていません。理想的には、自己効力感の測定と並行して、実際のライティング課題のパフォーマンスも測定すべきでした。

教育的含意―評価のパラダイムシフト

この研究が示唆するのは、評価についての考え方の転換です。伝統的に、評価は学習の「後」に行われるもので、教師が学生の習熟度を判定するために使われてきました。いわば、学習と評価は別々のものでした。しかし、自己評価という手法は、評価を学習プロセスの中に組み込みます。評価それ自体が学習になるのです。

料理の例に戻ると、伝統的な評価は、料理を作り終えてから誰か(教師やシェフ)に味見してもらい、点数をつけてもらうようなものです。一方、自己評価は、料理を作りながら自分で味見し、調整していくようなものです。後者の方が、料理人としての成長につながることは明らかでしょう。

この転換は、教師の役割の変化も意味します。教師は、単に評価者としてだけでなく、学生が自己評価できるように支援する存在となります。評価基準を明確にし、評価の方法を教え、学生の自己評価を適切に導く必要があります。これは、より難しい役割かもしれませんが、学生の主体的な学びを促進するという点で、より意義深い役割と言えます。

今後の研究への展望―問いは続く

この研究は、多くの問いを投げかけています。例えば、自己評価の頻度や方法はどうあるべきでしょうか。この研究では4週間という比較的短期間でしたが、もっと長期的に実施したらどうなるでしょうか。また、自己評価とピア評価(学生同士の評価)を組み合わせたら、さらに効果が高まるでしょうか。

自己効力感の向上が、実際のライティング能力の向上につながるのか、それとも単に自信だけが高まるのかという問いも重要です。理想的には、両方が向上すべきですが、その関係を明らかにするには、さらなる研究が必要です。

また、文化的な違いも興味深いテーマです。アルジェリアの学生に効果的だった方法が、他の文化圏の学生にも効果的かどうかは、比較研究を通じて検証する必要があります。特に、個人主義的な文化と集団主義的な文化では、自己評価に対する受け止め方が異なる可能性があります。

さらに、デジタル技術の活用も考えられます。近年は、オンラインでの自己評価ツールやアプリケーションが開発されています。こうしたツールを使うことで、より効率的に、より個別化された自己評価が可能になるかもしれません。

結びに―学びの主体性を取り戻す

この研究を通じて見えてくるのは、学びにおける主体性の重要性です。外国語でのライティングは、多くの学生にとって困難な課題です。文法、語彙、構成、内容など、考えるべきことが山ほどあります。しかし、自己評価という手法を通じて、学生は自分の学びをコントロールできるようになります。「何ができていて、何ができていないか」「次に何をすべきか」を自分で判断できるようになるのです。

Takarrouchtの研究は、規模は小さく、限界もありますが、重要なメッセージを伝えています。それは、評価を教師だけのものにせず、学生と共有することで、学生の自信と能力の両方を育てられるということです。これは、アルジェリアだけでなく、世界中の教育現場に当てはまる教訓でしょう。

最後に付け加えるなら、この研究の真の価値は、完璧な答えを提供することではなく、さらなる問いを投げかけることにあります。「どうすれば学生はもっと自信を持って書けるようになるか」「評価をどのように学びの一部にできるか」「教師と学生の役割をどう再定義すべきか」。こうした問いに向き合い続けることが、教育をより良いものにしていくのだと、この研究は教えてくれます。

私たち教育に関わる者にとって、学生一人ひとりが「自分はできる」という感覚を持てるように支援することは、最も重要な仕事の一つです。この研究は、その道筋の一つを示してくれています。自己評価という地道な活動が、学生の内面に変化をもたらし、自信という目に見えない力を育てることができる。それは、数字やグラフだけでは測れない、しかし確かに存在する教育の成果なのです。


Takarroucht, K. (2022). The effect of self-assessment on the development of EFL writing self-efficacy: A case of Algerian higher education. International Journal of Language Education, 6(2), 157–168. https://doi.org/10.26858/ijole.v6i2.22065

By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語e ラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているe ラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAI による新しい教育システムの開発にも着手している。

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