Levey, Rochon & Kastronic(2025)の論文”Language Learning in the Wild: The L2 Acquisition of English Restrictive Relative Clauses”を読み終えて、しばらく頭の中でその余韻が続きました。実験室で作られた言語データではなく、オタワの街なかで録音された29人のフランス語母語話者の「生きた英語」を分析した本研究は、私たちが「第二言語習得とはどういうことか」を考える上で、非常に地に足のついた問いを投げかけてきます。

この論文が問うていること

まず研究の概要を整理しておきましょう。この論文は、カナダ国家首都圏(オタワ・ガティノー地域)に暮らすフランス語母語話者29名が、英語の制限的関係節をどのように産出しているかを分析したものです。制限的関係節というのは、「the person who helped me」や「the decision that I made」のように、名詞句を後ろから限定する節のことです。日本語の「私を助けてくれた人」「私が下した決断」に相当する構造といえばわかりやすいかもしれません。英語ではこの関係節を導くマーカーとして、that、ゼロ形(マーカーなし)、who、whichなどが使われますが、どれを選ぶかは話者の気まぐれではなく、様々な言語的・社会的要因によって体系的に規定されています。

著者らがとったアプローチは「比較変異論的(comparative variationist)」と呼ばれるもので、単にL2話者(第二言語話者)のデータを単独で分析するのではなく、三つのコーパスを並べて比較します。一つ目は自然発話のL2英語コーパス(約27万7000語)、二つ目は同じ地域に暮らすネイティブの英語話者コーパス(約27万3000語)、そして三つ目はL2話者の第一言語であるカナダ・フランス語のコーパス(約22万8000語)です。この三方向からの比較によって、L2話者の英語産出が目標言語(TL)の規範にどの程度近づいているか、そしてL1のフランス語からの転移(transfer)がどの程度観察されるかを検証しています。

「教室の外」でこそ見えるもの

タイトルにある”in the wild”という表現が印象的です。実験室や教室で引き出されたデータではなく、日常の社会的なやりとりの中から採取された「野生のデータ」を分析するという姿勢が、この研究のコアにあります。

日本の英語教育関係者には、この点が非常に刺さるのではないでしょうか。私たちはつい、テストや課題で測れるものを「習得した」と考えがちです。英語の関係代名詞の問題を正答できる生徒が、実際の会話でそれを適切に使えるかどうかは別問題です。著者らが本研究で繰り返し強調するのは、「L2話者が実際に何に露出しているかを知らなければ、習得を論じることはできない」という点です。

たとえば、英語の関係節における主語関係節(subject relative clauses)では、who、that、ゼロ形が競合しますが、著者らはTLのネイティブ話者のデータを見ると、whoの使用率が主語関係節の約34.5%を占めていることを示しています。一方でL2話者はわずか14%にとどまっています。この差を「whoを習得できていない」と単純に結論づけるのではなく、「なぜ差があるのか」を多角的に検討していくところが、この研究の真骨頂です。

数字の背後にある「文法の骨格」

論文の中で特に読み応えがあったのは、統計モデリングの結果を読み解く部分です。著者らはRbrulという変異論的統計ツールを用いて、関係節マーカーの選択に影響を与える複数の言語的要因(先行詞の有生性、関係節の長さ、主節の構造、隣接性など)を同時に検討し、L2話者とTL話者の「制約ヒエラルキー」を比較しています。

たとえば非主語関係節(non-subject relative clauses)では、TL話者とL2話者の両方で、主節が存在文(existential-there構文、例えば”there’s a woman Ø wants to see you”)やコピュラ構文である場合にゼロ関係節が好まれるという傾向が見られます。これは意識的に学習されるような規則ではありません。「コピュラ構文のときにゼロ形が出やすい」などという規則は、どの文法書にも書いてないでしょうし、英語の授業で教えられることもほぼないはずです。それにもかかわらず、L2話者はそのような「暗黙の制約」を、TLコミュニティへの接触を通じてある程度内在化していることが示されています。

これは「言語は明示的な規則の習得だけでは語れない」という、Bybee(2010)をはじめとした用法基盤理論(usage-based theory)の主張を、実証的に裏付けるものです。

whoの謎―プロフィシェンシーでは説明できない

本研究のもっとも興味深い発見の一つは、L2話者がwhoをTL話者より大幅に少なく使うという事実が、英語熟達度(CEPI: Cumulative English Proficiency Index)によって説明できないという点です。著者らが丹念に分析した結果、熟達度が高い話者も低い話者も、主語関係節でのwho使用率はほぼ同じ14%前後であることがわかりました。

では、フランス語のquiからの正の転移(facilitated transfer)が働いてwhoを多用するはずではないかと思われますが、それも観察されません。著者らはこの点について、英語のwhoとフランス語のquiは表面上は対応していても、意味的・機能的に完全に一致しているわけではないことを指摘しています。英語のwhoは「+人間性(+human)」の先行詞に限定されるのに対して、quiはその制約を持たないのです。Van Lieburg et al.(2023)の研究を引きながら、著者らは、言語間の構造が完全に一致していない場合、クロス言語的なプライミングが抑制される可能性を示唆しています。

この謎は、本論文が最後まで「解けた」とは言い切っていない、正直なところです。著者らはこの点を率直に認め、「根本的な原因は依然として不明瞭」と述べています。こういった知的誠実さが、この論文を一層信頼できるものにしています。

L1転移は「ほぼない」という驚き

フランス語と英語という二言語が長期間にわたって接触し、高い二言語使用率を誇るオタワ・ガティノー地域でさえ、L1フランス語からの体系的な転移はほとんど見られない、というのが著者らの総括的な結論です。これは直感に反する発見ではないでしょうか。

たしかに、斜格関係節(oblique relative clauses)では、フランス語で優勢なnull-prep(前置詞省略)がL2英語でもわずかに観察されます(10例)。しかし著者らはこれを単純にL1転移とは断定しません。同じnull-prepは目標言語の英語コーパスにも散発的に見られ、またBardovi-Harlig(1987)が示したように、null-prepはさまざまなL1背景を持つL2学習者に見られる「発達的現象」でもあるからです。「一つの現象には複数の原因が絡み合う(multiple causation)」というThomason(2001)の概念を援用しながら、著者らは慎重な解釈を貫いています。

一方で、斜格関係節における前置詞残置(preposition stranding)については、L2話者もTL話者もほぼ同様の傾向を示し、フランス語でかろうじて観察される同様の現象からの転移というよりは、TLコミュニティの規範を習得した結果だと解釈されています。

コミュニティとの統合が「習得の鍵」

著者らが最終的に強調するのは、TLコミュニティへの社会的統合(social integration)の重要性です。L2話者の多くは、個人的なネットワークの50%以上が英語母語話者であると報告しており、そのような日常的な接触が、教室では決して伝達されないような「暗黙の変異規則」をL2話者に伝える役割を果たしているとされています。

ここでSankoff et al.(1997)の言葉が引用されていることは示唆に富んでいます。「TLコミュニティへの社会的統合の深さが、言語的統合の深さにも反映される」という考え方は、単に「英語に触れる時間を増やせばよい」という量的な発想を超えて、「どのような社会的文脈の中で英語に触れるか」という質的な問いを提起します。

日本の英語教育への示唆―教室という制約の中で

日本の英語教育に携わる者としてこの論文を読むと、複雑な思いが湧いてきます。本研究の参加者は、フランス語という「比較的英語に近い」L1を持ち、英語母語話者のコミュニティに日常的にアクセスできる環境にいます。これは、英語使用機会が限られたEFL(外国語としての英語)環境で英語を学ぶ日本の学習者とは、前提条件がかなり異なります。

それでもなお、この研究から日本の文脈に引き寄せられる示唆はいくつかあります。

一つ目は、「インプットの質と種類を見直す」ということです。著者らは、L2話者が内在化している「暗黙の制約」の多くは、TLコミュニティの自然発話に露出することで伝達されると論じています。日本の学習者が触れる英語は、教科書、試験問題、そして近年では動画コンテンツや音楽など多様化していますが、「その英語がどのような変異構造を持っているか」という視点はほとんど意識されていません。Biber et al.(1999)の研究が示すように、書き言葉の英語と話し言葉の英語では関係節の分布がかなり異なります。教室で扱われる英語テキストが主語関係節でwhoを多用していても、実際の話し言葉ではthatが圧倒的に優勢であるという事実は、学習者に明示的に伝える価値があるでしょう。

二つ目は、「変異を教えることの意義」です。日本の英語教育では、関係代名詞の選択について「人にはwho、物にはwhich、人・物両方にthat」という規則を教えることが一般的です。しかしこの研究が示すように、実際の話し言葉ではthatがあらゆる文脈で優勢であり、ゼロ形も相当頻繁に使われます。授業で「thatを使っていいんだ」「省略してもいいんだ」ということを、適切な文脈情報と共に教えることは、学習者に現実の英語使用との橋渡しをする上で重要だと思われます。

三つ目は、より根本的な問いとして「習得とは何を意味するのか」という点です。本研究では、L2話者がTLの制約ヒエラルキーを「完全に再現」していなくても、「近似している(approximating)」という評価軸が使われています。著者らはBley-Vroman(1983)の「比較誤謬(comparative fallacy)」に言及しながら、L2の言語システムをネイティブの規範との差異として評価することの危険性を指摘しています。日本の英語教育においても、ネイティブのような英語を規範として学習者を評価することへの批判的な見直しが、近年少しずつ進んでいますが、この研究はその議論に実証的な支持を与えるものです。

関連研究との対比―変異論的L2研究の文脈に置いて

この論文はGhafar Samar(2000)とRochon(2023)の先行研究を明示的に参照していますが、変異論的な方法論でL2の関係節を分析した研究は非常に限られており、その意味で本研究は学術的に重要な空白を埋めるものです。関係節のL2習得に関する研究の主流は、今日に至るまでKeenan & Comrie(1977)の名詞句アクセシビリティ階層(NPAH)に基づく実験的研究であり、特定の条件下での文法性判断や産出課題を通じて習得の順序を明らかにしようとするものが多数を占めます。

しかし本研究の立場からすると、そのような実験的研究はしばしば「話者が実際の発話の中でどのような変異を示すか」という問いに答えていません。Flynn et al.(2004)のような多言語習得研究も、主として構造的な習得順序を問うものであり、変異の体系的な記述という点では本研究とは異なる次元にあります。

また、Tagliamonte et al.(2005)やBrook & Tagliamonte(2023)などの社会言語学的研究は英語の関係節変異を詳細に記述してきましたが、それらは主としてネイティブ話者を対象にしており、L2話者への適用という観点は本研究がさらに一歩踏み込んだところです。

その意味で、本研究はHoward, Mougeon & Dewaele(2013)が「社会言語学と第二言語習得の接点」として論じた研究領域の中でも、とりわけ実証的に精緻な仕事として位置づけられます。

方法論の強みと限界―正直な自己評価

この研究の方法論的な強みの一つは、各話者をランダム効果として統計モデルに組み込んでいる点です。これによって、特定の個人の発話が結果を過度に左右することを抑制し、集団レベルの傾向をより正確に捉えることができます。

一方で著者ら自身が認めているように、関係節は自然発話においてきわめて出現頻度が低いため、個人レベルの分析が難しいという制約があります。斜格関係節に至っては、各コーパスで得られた数が非常に限られており、定量的な比較には慎重さが求められます。著者らは、実験的パラダイムとコーパス研究を「補完的に組み合わせる(triangulating corpus and experimental methodologies)」ことの重要性を提言しており、これは今後の研究への真摯な問いかけといえます。

また、コーパスの規模という点では、一コーパスあたり約27万語というのは変異論的研究としては十分な規模ですが、関係節というまれな現象を分析するには、本研究の著者らも認めるように、データの偏りが生じやすいという課題が残ります。

「自然な習得」の意味を問い直す

この論文を読み終えて私が感じたのは、「言語を習得するとはそもそもどういうことか」という古くて新しい問いへの、一つの実証的な回答がここにあるということです。教室で文法規則を学んで問題を解けるようになることと、コミュニティの中で暮らしながらその言語の「癖」や「傾向」を少しずつ内在化していくこととは、明らかに異なるプロセスです。そして後者のプロセスは、従来の実験的研究ではなかなか捉えにくいものでした。

日本の英語教育において、「コミュニティへの統合」というオタワ的な文脈を再現することは難しいかもしれません。しかし、英語教師が学習者に「本物の英語使用者がどのような言語変異を持っているか」を意識的に伝え、教室の中でそれを活用する試みは、十分に可能です。インターネット上には、自然発話の英語コーパスが公開されているものも多く、授業での活用が期待されます。

また、本研究が示した「TLコミュニティへの統合がTL変異規則の伝達を促す」という発見は、交換留学生の受け入れ、英語部活動、地域の外国人コミュニティとの交流といった「教室の外」での言語接触の機会を、単なる「お楽しみ活動」ではなく、言語習得における本質的なプロセスとして再評価する根拠となり得ます。

Levey, Rochon & Kastronic(2025)の仕事は、生態学的妥当性(ecological validity)という点で際立っており、「現実の言語使用の記述なしに習得理論は成立しない」という強い信念に貫かれています。その信念は、今後の第二言語習得研究にとってのみならず、日々の授業の中で学習者の英語と向き合っている教育実践者にとっても、深く考えるべき問いを提供してくれます。理論と実践をつなぐ、静かな、しかし確かな一石が投じられた論文だと思います。


Levey, S., Rochon, K. L., & Kastronic, L. (2025). Language learning in the wild: The L2 acquisition of English restrictive relative clauses. Languages, 10(9), 232. https://doi.org/10.3390/languages10090232

 

By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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