はじめに―英語教育の基礎を問い直す
英語を読むことができるようになるためには、何が必要でしょうか。豊富な語彙、文法知識、背景知識など、様々な要素が思い浮かびますが、実はもっと基本的な能力が土台として必要です。それは、文字が音を表していることを理解し、文字と音の対応関係を身につける力です。この基礎的な力を養うのが「音韻指導」と呼ばれる教育アプローチです。
本論文の著者であるLishi LiangとLuke K. Fryerは、香港大学に所属する研究者です。彼らは、音韻指導が英語圏の子どもたちに効果的であることは既に知られているものの、東アジアでEFLとして英語を学ぶ子どもたちに対する研究が不足していることに着目しました。東アジアの言語は中国語、日本語、韓国語などアルファベットとは異なる文字体系を持ち、この違いが英語学習に独特の困難をもたらす可能性があります。そこで本研究は、東アジアにおける音韻指導の実施状況と効果を包括的に把握するため、2000年から2022年までに発表された21の論文(24の研究)を対象としたスコーピングレビューを実施しました。
音韻指導とは何か―読みの土台を作る二つの柱
音韻指導について説明する前に、私たちが普段何気なく行っている「読む」という行為について考えてみましょう。例えば、この文章を読んでいるとき、あなたは文字を見て、それを音に変換し、意味を理解しています。しかし、まだ文字を習い始めたばかりの子どもにとって、この「文字を音に変換する」というステップは決して自明ではありません。「あ」という文字が「あ」という音を表すこと、「cat」という綴りが「キャット」という音を表すこと、これらは学習によって初めて身につく知識なのです。
音韻指導は、大きく二つの要素から構成されています。
第一は「音素認識訓練(phonemic awareness training)」です。音素とは、言語の中で意味を区別する最小の音の単位のことです。例えば、英語の「cat」と「bat」は、最初の音(/k/と/b/)が違うだけで意味が変わります。音素認識訓練では、子どもたちに単語が複数の音から成り立っていることを意識させ、音を分解したり組み合わせたりする練習をします。例えば、「cat」という単語を聞いて、「/k/」「/æ/」「/t/」の三つの音に分解できるようにしたり、逆に三つの音を聞いて「cat」という単語を作れるようにしたりします。また、「cat」と「hat」のように韻を踏む単語を見つける練習なども含まれます。
第二は「フォニックス訓練(phonics training)」です。これは文字(grapheme)と音(phoneme)の対応関係を体系的に教えることです。英語には、「c」という文字が/k/という音を表すというような、文字と音のルールがあります。フォニックス訓練では、このようなルールを明示的に教え、子どもたちが初めて見る単語でも読めるようにすることを目指します。
音韻指導が効果的だと考えられる理論的根拠は、「ボトムアップ理論(Bottom-Up Theory of Reading Process)」に基づいています。この理論によれば、読解は基礎的なスキルから高度なスキルへと段階的に発展していきます。まず文字を音に変換し、それを単語として認識し、文の意味を理解し、最終的に文章全体を理解するという流れです。音韻指導は、このプロセスの最も基礎的な段階、つまり文字を音に変換する段階を強化することで、その後の高度な理解を支える土台を作ります。
東アジア特有の困難―表語文字から表音文字へ
東アジアのEFL学習者が直面する困難を理解するには、東アジアの言語と英語の根本的な違いを知る必要があります。
中国語、日本語、韓国語(特にハングル以前の漢字使用時)などは、「表語文字」または「非表音文字」の性質を持っています。例えば、中国語の「山」という文字は、それ自体が「山」という意味を表し、発音は文字から直接には分かりません。一方、英語は「表音文字」で、「mountain」という綴りは、ある程度その発音を反映しています(もちろん英語の綴りと発音の対応は不規則な部分も多いのですが)。
この違いが何を意味するかというと、東アジアの子どもたちは母語を学ぶ過程で、「文字は音を表す」という原理をあまり意識せずに育ってきた可能性があるということです。日本語で考えてみると、ひらがなやカタカナは表音文字ですが、漢字は表語文字です。「山」という漢字を見たとき、私たちは「やま」という音よりも、「山」という概念をより直接的に思い浮かべます。
対照的に、ヨーロッパの多くの言語(スペイン語、フランス語、ドイツ語など)は英語と同じくアルファベットを使う表音文字です。これらの言語の話者は、母語を学ぶ過程で既に「文字は音を表す」という原理に親しんでおり、音素を分析的に扱うスキルを身につけています。このため、同じアルファベット言語である英語を学ぶとき、東アジアの学習者よりも有利な立場にあると考えられます。
研究者McBrideは、東アジアの言語の「不透明性(opaqueness)」について指摘しています。つまり、文字から音への対応関係が明確でないということです。このような背景を持つ学習者に対して、アルファベットの音韻原理を教える音韻指導がどれほど効果的なのか、また、どのような工夫が必要なのかを明らかにすることが、本研究の重要な目的の一つでした。
レビューの方法―包括的な文献調査
本研究は「スコーピングレビュー」という手法を用いています。これは伝統的な系統的レビューとは少し異なり、より広範なテーマについて研究の全体像を把握することを目的としています。特に、まだ研究が少ない新しい分野で、どのような研究が行われているか、どのような研究が不足しているかを明らかにするのに適した方法です。
著者らは、2023年3月に6つのデータベース(Web of Science、EBSCOhost ERIC、EBSCOhost Academic Search Complete、Science Direct、Scopus、Taylor & Francis)を用いて文献検索を行いました。検索語には「phonics instruction」「phonological instruction」「phonemic training」などの音韻指導に関する用語と、「EFL」「English as a foreign language」などのEFLに関する用語、そして「reading」「reading ability」などの読解に関する用語を組み合わせました。
最初の検索で222の論文が見つかりましたが、重複を除き、タイトルと要旨のスクリーニング、さらに本文の精査を経て、最終的に21の論文(24の研究)が選ばれました。選定基準は明確で、東アジアのEFL学習者を対象とし、英語または中国語で書かれ、音韻指導の効果を評価した実証研究であることでした。
二人の研究者が独立して論文を評価し、意見の一致度を測るカッパ係数は0.874と非常に高く、選定プロセスの信頼性が確保されていました。
主な発見(1)―研究の背景と方法論
レビューの結果、まず研究の背景について以下のことが分かりました。
対象となった学習者の教育レベルを見ると、最も多かったのは小学生で、全体の41.7パーセントを占めていました。このうち6つの研究が小学校1年生から3年生を対象とし、4つの研究が5年生を対象としていました。この傾向は理にかなっています。というのも、読み書きの基礎を学ぶ初期段階で音韻認識を身につけることが、その後の読解力の発達に重要だと考えられているからです。
興味深いことに、12.5パーセントの研究が幼稚園児を対象としていました。著者らは、幼稚園児への介入については慎重な検討が必要だと指摘しています。なぜなら、この年齢の子どもたち、特に母語が英語でない子どもたちは、訓練の課題を理解し取り組むための基礎的な知識がまだ十分でない可能性があるからです。
母語の分布を見ると、70.8パーセントの研究が中国語(標準中国語または広東語)を母語とする学習者を対象としていました。これは中国における英語教育と研究の歴史的重要性を反映しています。しかし同時に、この偏りは日本語や韓国語を母語とする学習者に関する研究の不足も示しており、今後の研究課題となります。
興味深いのは、ほとんどの研究が学習者の英語能力レベルを明示的に報告していなかったことです。24の研究のうち、わずか2つだけが学習者の習熟度について言及していました。しかし、学習者の能力レベルは指導の効果に影響を与える可能性があります。例えば、低いレベルの学習者は、文字と音の対応という基礎的なスキルに多くの認知資源を割く必要があるため、音韻指導から特に恩恵を受ける可能性があります。
方法論的な特徴としては、すべての研究が量的アプローチを採用していました。最も多く用いられた研究デザインは準実験的デザイン(54.17パーセント)で、事前事後テストを実施するデザイン(83.33パーセント)でした。サンプルサイズは1人から272人まで幅広く、平均は約96人でした。測定には、91.67パーセントの研究が非標準化テストを使用していました。
著者らは、この分野の研究の質を高めるために、より厳密な研究デザイン、特にランダム化比較試験や真の縦断的研究(3つ以上の時点でデータを収集する研究)の必要性を強調しています。多くの研究が2時点のデータしか収集していないため、学習者の発達を線形的にしか捉えられず、実際の複雑な発達過程を十分に把握できていない可能性があります。
主な発見(2)―指導の実施方法
音韻指導がどのように実施されたかについても、興味深い知見が得られました。
指導を行ったのは、75パーセントの研究で参加者の英語教師であり、25パーセントで研究者でした。これは実際の教育現場での実践可能性を示す重要な発見です。外部の研究者が介入するよりも、普段から子どもたちと接している担任の先生が指導を行う方が、教育現場への定着という観点からは望ましいと言えるでしょう。
指導の形態は、クラス全体(54.17パーセント)、小グループ(37.50パーセント)、個別(8.33パーセント)と様々でした。また、指導言語は英語が70.83パーセントと最も多かったものの、中国語、韓国語、日本語で行われた研究もありました。
指導の強度と期間については、かなりのばらつきがありました。1回の指導時間は10分から90分まで様々で、総指導時間は40分から2,100分(35時間)まで、平均は約759分(12.65時間)でした。重要な発見は、指導時間の長さと効果の間に明確な関係が見られなかったことです。つまり、短時間の指導でも有意な効果が得られる可能性があるということです。
これは教育実践にとって重要な意味を持ちます。なぜなら、学校のカリキュラムは既に詰まっており、新しい指導プログラムを導入する時間を確保するのは容易ではないからです。短時間でも効果があるならば、例えば通常の英語授業の最初の10分間を音韻指導に充てたり、放課後の補習プログラムとして実施したりすることが可能になります。
主な発見(3)―指導の内容と工夫
音韻指導の内容について、意外な発見がありました。それは、音素認識訓練とフォニックス訓練が必ずしも組み合わされていなかったことです。
24の研究のうち、両方を組み合わせていたのはわずか4つ(16.67パーセント)でした。10の研究は音素認識訓練のみを行い、10の研究はフォニックス訓練のみを行っていました。
音素認識訓練のみを行った研究では、音素分割(単語を個々の音に分解する)と韻律(ライミング)の練習が最も多く用いられていました。例えば、「cat」という単語を聞いて、それを「/k/」「/æ/」「/t/」の三つの音に分けられるようにする練習や、「cat」と「hat」のように韻を踏む単語を見つける練習などです。
フォニックス訓練のみを行った研究では、92.86パーセントが合成フォニックス(synthetic phonics)を用いていました。これは、個々の文字とその音の対応を教え、それらを組み合わせて単語を読む方法です。例えば、「c」は/k/、「a」は/æ/、「t」は/t/という対応を学び、それらを合成して「cat」と読めるようにします。
この発見は、理論的には両方の要素が重要だとされていても、実践においては必ずしも両方を組み合わせる必要はないかもしれないことを示唆しています。著者らは、音素認識訓練とフォニックス訓練を既存のカリキュラムに別々に組み込むことも可能だと述べています。
東アジアの文脈に合わせた工夫も見られました。最も注目すべきは、発音指導、特に超分節的要素(suprasegmental elements)―ストレス、イントネーション、リズムなど―の指導を補足的に組み込んでいた研究があったことです。例えば、ある研究では学習者の発音の音波を記録し、標準的な発音と比較することで、視覚的なフィードバックを提供していました。
これは理にかなったアプローチです。東アジアの言語と英語では、音韻体系が大きく異なります。例えば、中国語を母語とする学習者は/n/と/l/の区別が難しく、日本語を母語とする学習者は/r/と/l/の区別が難しいことが知られています。これらの困難は、母語にこれらの音素の対立が存在しないことに起因します。したがって、音韻指導に加えて、発音の指導を強化することは、東アジアの学習者にとって特に重要だと言えます。
また、母語を活用した教授法も見られました。例えば、ある研究では、英語の単語と似た音を持つ母語の単語を関連づけて覚えさせる「キーワード法」を用いていました。これは、学習者の既存の知識を活用し、新しい知識との橋渡しをする効果的な方法です。
主な発見(4)―指導の効果
最も重要な問いは、音韻指導が実際に効果があったかどうかです。著者らは効果を三つのカテゴリーに分けて分析しました―コード関連スキル、口語能力、読解力です。
コード関連スキル(韻律検出、音素認識、文字解読、文字知識)については、音素認識訓練のみを行った研究が、韻律検出、音素認識、文字解読に肯定的な効果を示しました。ただし、文字知識には有意な効果が見られませんでした。これは理解できます。なぜなら、音素認識訓練は主に音の構造に焦点を当て、文字の知識を直接教えるわけではないからです。
興味深いことに、フォニックス訓練のみを行った研究は、コード関連スキルに対して同等の肯定的効果を示しませんでした。これは予想外の結果かもしれません。フォニックスは文字と音の対応を教えるので、コード関連スキルに効果があると思われるからです。著者らは、フォニックス訓練が文字と音の対応をより自動化することに焦点を当てているため、明示的なコード関連の測定では効果が現れにくい可能性を示唆しています。
口語能力(単語読み、語彙知識、綴り、口語能力、聴覚認識)については、音素認識訓練とフォニックス訓練の両方が、単語読み、語彙知識、綴りに肯定的な効果を示しました。特筆すべきは、ほとんどすべての研究が音韻知識を単語読みの文脈で教えていたことです。つまり、単に音や文字を抽象的に教えるのではなく、実際の単語の意味と関連づけて教えていました。
これは教育実践にとって重要な示唆を与えます。音韻指導は単なる技術的なスキルの訓練ではなく、語彙学習と統合されることで、より効果的になる可能性があります。子どもたちは音の構造を学ぶと同時に、単語の意味も学ぶことができるのです。
読解力については、わずか4つの研究しか直接測定しておらず、そのうち2つだけが肯定的な効果を報告していました。証拠はまだ限られています。著者らは、これは予想外ではないと述べています。なぜなら、読解は音韻的解読よりも高度で複雑なスキルだからです。ボトムアップ理論によれば、理解指導は通常、解読スキルが既に発達した学習者に提供されます。音韻指導は主に解読に焦点を当てているため、理解には直接的な効果が限られているのかもしれません。
日本の教育現場への示唆
この研究から、日本の英語教育にとってどのような示唆が得られるでしょうか。
第一に、音韻指導の有効性が東アジアの文脈でも確認されたことは、日本の小学校英語教育にとって重要な意味を持ちます。現在、日本では2020年度から小学校3年生で外国語活動が、5年生で外国語科が必修となりました。しかし、音韻指導、特にフォニックスについては、指導要領に明示的に含まれているものの、具体的な実施方法や重点の置き方については現場に委ねられている部分が大きいのが実情です。
本研究が示したように、短時間でも効果が得られる可能性があるという発見は、既に詰まった時間割の中で新しい要素を取り入れる必要がある日本の学校にとって、心強い知見です。例えば、毎回の英語授業の最初の5分から10分を音韻活動に充てることで、基礎的な力を養うことができるかもしれません。
第二に、発音指導の重要性です。日本語を母語とする学習者も、英語の特定の音素(例えば/r/と/l/の区別、/θ/と/s/の区別など)に困難を抱えることが知られています。本研究で見られたように、音韻指導に発音指導を組み合わせることは、日本の文脈でも有効だと考えられます。特に、音波を視覚化するなどのテクノロジーの活用は、今後検討に値するでしょう。
第三に、教師主導の指導が可能だという点です。75パーセントの研究で通常の英語教師が指導を行っていたという事実は、特別な専門家を必要とせず、現職の教師が適切な研修を受ければ実施できることを示しています。これは、日本の教育現場での実装可能性を高めます。
ただし、課題もあります。本研究で対象となった研究の多くが中国語母語話者を対象としていたため、日本語母語話者に特化した研究はまだ限られています。日本語と中国語は同じ東アジアの言語でも異なる特徴を持っています。例えば、日本語はひらがな・カタカナという表音文字を持つ一方、中国語は基本的に漢字のみを使います。この違いが音韻指導の効果にどう影響するかは、今後の研究課題です。
また、学習者の習熟度に応じた指導方法の調整についても、さらなる研究が必要です。本研究では多くの研究が習熟度を報告していませんでしたが、初級者と中級者では異なるアプローチが必要かもしれません。
研究の限界と今後の課題
著者らは、本研究の限界についても率直に述べています。
第一に、含まれた研究の数が比較的少ないことです。これは、この分野の研究がまだ発展途上であることを反映しています。また、英語と中国語で発表された論文のみを含めたため、日本語や韓国語で発表された重要な研究が除外された可能性があります。これは言語バイアスという問題で、特定の言語圏の研究が過大評価または過小評価される可能性があります。
第二に、含まれた研究の質の評価を行わなかったことです。スコーピングレビューの性質上、研究の質にかかわらず幅広く文献を含めることが目的ですが、これは結果の解釈に注意が必要であることを意味します。いくつかの研究は、グループ分け、指導時間、測定方法などの詳細を十分に報告していませんでした。
第三に、レビューした研究のほとんどが完全な音韻指導プログラムに従っていなかったことです。わずかな研究しか音素認識訓練とフォニックス訓練を組み合わせていませんでした。したがって、本研究で報告された効果は、完全な音韻指導プログラムの効果というより、音素認識訓練またはフォニックス訓練を単独で行った場合の効果と言えます。
著者らは、今後の研究の方向性として、いくつかの提案をしています。
まず、真の縦断的研究の必要性です。3回以上の時点でデータを収集し、学習者の発達を非線形的に捉えることで、より深い理解が得られるでしょう。例えば、音韻指導の効果が時間とともにどう変化するか、初期の急速な改善の後に停滞期があるか、といった問いに答えることができます。
次に、指導実施者の影響についてのさらなる研究です。通常の教師と独立した研究者のどちらが指導を行う方が効果的か、また、教師と研究者が協働して指導プログラムをデザインすることで効果が高まるかなど、検討すべき問いは多くあります。
さらに、デジタルデバイスを用いた指導の可能性です。タブレットやコンピュータを使った音韻指導は、学習者の動機づけを高める可能性がある一方で、「画面劣位効果」(紙よりも画面で読む方が理解度が低いという現象)の懸念もあります。この分野の研究は、今後ますます重要になるでしょう。
政策立案者への提言としては、東アジア諸国の言語教育政策に音韻指導を明示的に組み込むことの重要性が挙げられます。中国や日本では、研究者や教育者の間で音素認識や文字と音の対応の重要性が認識されているものの、公式の学習目標や実施ガイダンスにはまだ十分に反映されていません。このギャップを埋めることが、音韻指導の普及と質の向上につながるでしょう。
結びに―基礎を大切にする教育
本研究は、東アジアのEFL学習者に対する音韻指導の実態と効果について、包括的な見取り図を提供しました。その主要な発見は、音韻指導が様々な年齢層や教育環境で実施可能であり、読み書きの基礎的なスキルに肯定的な効果をもたらすということです。
この発見の意義は、単に「音韻指導が効果的だ」という事実の確認にとどまりません。それは、外国語教育において基礎的なスキルの習得を軽視してはならないという、より根本的なメッセージを含んでいます。
現代の語学教育では、コミュニケーション能力の育成が重視されています。これは確かに重要ですが、コミュニケーションの基盤となる読み書きの能力、そしてその土台となる音韻認識を疎かにしてはならないということを、本研究は思い出させてくれます。
特に東アジアの学習者にとって、母語とは大きく異なるアルファベット言語を学ぶことは、想像以上の認知的挑戦です。「文字は音を表す」という原理は、アルファベット言語の話者にとっては自明かもしれませんが、表語文字に慣れた学習者にとっては、意識的に学ぶ必要がある新しい概念なのです。
著者Lishi LiangとLuke K. Fryerがこの研究で示したように、既存の研究を丁寧に整理し、実践的な示唆を引き出すことは、研究と教育現場をつなぐ重要な役割を果たします。東アジアにおける音韻指導の研究はまだ発展途上ですが、本研究が提供した知見は、今後の研究の方向性を示すとともに、明日の教室で実践できる具体的なヒントを与えてくれています。
日本の英語教育も、小学校英語の必修化という大きな転換点を迎えました。この新しい段階で、どのような基礎を子どもたちに提供するかは、彼らの長期的な英語学習の成功を左右する重要な決断です。本研究が示すように、短時間でも効果的な音韻指導を取り入れることで、子どもたちに確かな土台を築くことができるかもしれません。それは、派手さはないかもしれませんが、長い目で見れば最も重要な投資の一つと言えるでしょう。
Liang, L., & Fryer, L. K. (2024). Phonological instruction in East Asian EFL learning: A scoping review. System, 123, Article 103336. https://doi.org/10.1016/j.system.2024.103336
