はじめに―読解力向上への挑戦

英語を外国語として学ぶ生徒たちにとって、読解力の向上は大きな課題です。単語を覚え、文法を理解しても、文章全体の意味をつかむことは容易ではありません。特に高校生の段階では、読む技術だけでなく、学習への意欲や自信も大きく影響します。

本論文”Can active blended learning instruction enhance reading comprehension?”の著者であるBerrin KöseoğluとAlev Ateş Çobanoğluは、トルコのEge大学でコンピュータ教育と教育工学を専門とする研究者です。Köseoğluは外国語教育の学士号を持ち、10年にわたる英語教師としての経験があります。一方、指導教員でもあるÇobanoğluは、ブレンド型学習を博士論文のテーマとしており、オンラインと対面を組み合わせた教育手法に関する深い知識を持っています。二人の専門性が組み合わさることで、教育工学の視点から外国語教育にアプローチする本研究が実現しました。

この研究が取り組んだのは、「アクティブ・ブレンデッド・ラーニング」という教育手法が、高校生の英語読解力にどのような効果をもたらすかという問いです。2021年から2022年にかけて、トルコ西部の公立高校で9年生(日本の中学3年生に相当)52名を対象に、6週間にわたる実験的な授業が行われました。

ブレンド型学習と協働学習の融合

まず、この研究で用いられた「アクティブ・ブレンデッド・ラーニング」とは何でしょうか。簡単に言えば、教室での対面授業とオンライン学習を組み合わせ、さらに生徒たちが積極的に参加し、協力し合う要素を取り入れた教育手法です。

従来のブレンド型学習では、対面とオンラインを組み合わせることに重点が置かれがちでした。しかし本研究では、そこにコンピュータ支援協調学習(CSCL)という考え方を土台として組み込んでいます。これは、テクノロジーを活用しながら生徒同士が協力して学ぶ環境を作るという理論的枠組みです。著者たちは、単にオンラインと対面を混ぜるだけでなく、教育学的な基盤をしっかりと据えることが重要だと強調しています。

具体的には、ジグソー法、ナンバード・ヘッズ・トゥギャザー、シンク・ペア・シェアという3つの協働学習技法が用いられました。これらはいずれも、個人の責任と集団での知識構築を両立させる方法として知られています。

ジグソー法では、読解教材を複数の部分に分け、各生徒が1つの部分の専門家になります。まず同じ部分を担当する生徒同士が集まって内容を深く理解し(専門家グループ)、その後元のグループに戻って自分の担当部分を仲間に教えます。これにより、すべての生徒が教材全体を理解できるようになります。

ナンバード・ヘッズ・トゥギャザーでは、各グループのメンバーに番号を割り振り、質問について話し合った後、教師がランダムに番号を指定して答えさせます。どの番号が呼ばれるかわからないため、すべての生徒が真剣に議論に参加する必要があります。

シンク・ペア・シェアは、まず個人で考え、次にペアやグループで話し合い、最後にクラス全体で共有するという3段階の手法です。特に内向的な生徒にとって、いきなり全体の前で発言するよりも、段階を踏んで考えを深められるという利点があります。

実験の設計と実施

研究では、52名の9年生が実験群(26名)と統制群(26名)に分けられました。実験群ではアクティブ・ブレンデッド・ラーニングが実施され、統制群では従来型のブレンド型学習が行われました。興味深いのは、統制群も完全に従来型というわけではなく、ある程度オンラインと対面を組み合わせていた点です。つまり、両群の違いは協働学習の要素の有無にあったと言えます。

実験群の授業は週2回、計12時間にわたって実施されました。オンライン部分ではEdmodoという学習管理システムが使われ、生徒たちは6つのグループに分かれて活動しました。グループ編成では、Vygotskyの発達理論に基づき、能力の高い生徒と低い生徒を混ぜた異質グループが作られました。これは、できる生徒が教えることで自分の理解も深まり、できない生徒は仲間から学べるという相互作用を期待したものです。

授業の流れは次のようなものでした。まず授業の目的と学習内容が説明され、生徒たちの準備状態が整えられます。次に、Edmodoを使ったオンライン活動で、読解教材に出てくる語彙をグループで学習します。その後、教室での対面授業で、理解した語彙を使いながら読解問題にグループで取り組みます。最後に教師がまとめを行い、生徒たちからフィードバックを受けます。

読解教材は、3名の経験豊富な英語教師が選定し、カリキュラムの目標に沿ったものが使われました。実験群と統制群は同じ教材を使用しましたが、学習方法が異なっていました。

測定方法と結果

読解力の測定には、ケンブリッジ英語検定のPreliminary English Test(PET)が使われました。この試験は世界中で広く認められており、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)に基づいて体系的に設計されています。試験は多肢選択式、マッチング、文挿入など20問から構成され、生徒のレベルに適した難易度と長さになっています。

事前に142名の生徒を対象に試験が実施され、項目の信頼性、難易度、識別力が検証されました。平均項目難易度は0.39(0.50が理想)で中程度の難易度、識別力は0.46(0.40以上が高い)、信頼性係数は0.74(0.70以上が良好)という結果が得られ、測定道具として適切であることが確認されました。

実験前の事前テストでは、実験群の平均点は7.27点、統制群は8.12点で、統計的に有意な差はありませんでした。つまり、両群は同じくらいの読解力を持っていたと言えます。

6週間の授業後に実施された事後テストでは、実験群の平均点が10.88点に上昇し、事前テストと比べて統計的に有意な改善が見られました。一方、統制群は8.12点から7.73点にわずかに下がり、有意な変化は認められませんでした。両群の事後テスト結果を比較すると、実験群が統制群より3.15点高く、この差は統計的に有意でした。

つまり、アクティブ・ブレンデッド・ラーニングを受けた生徒たちは、読解力が明確に向上したのです。

生徒たちの声―肯定的な評価と課題

授業後、実験群の生徒たちに対して15項目からなるアンケート調査が実施されました。回答からは、全体として肯定的な評価が得られたことがわかります。

生徒たちは、授業の目標として「読解力の向上」を最も多く挙げ(15名)、次いで「語彙の増加」(6名)を挙げました。使用された教授法については、「協働的なグループワーク」(21名)が最も多く認識されていました。

ブレンド型学習については、22名の生徒が「異なる環境で学べるため効率的」と答え、教室外でも学習を続けられる点を評価しました。ある生徒は「本当は好きではない友達と同じグループになったことが、実は良かった。仲の良い友達とだったら話してしまって何も学べなかっただろう」と述べています。また別の生徒は「英語が得意な友達と一緒のグループで、その人たちのサポートでより多くの語彙を学べた」と語っています。

協働学習の効果として、「間違えることへの恐れが少し減った」という声もありました。これは、仲間と一緒に取り組むことで心理的な安全性が高まったことを示しています。

一方で、課題も指摘されました。4名の生徒は、オンライン学習プラットフォームへのログインに問題があったり、インターネットが気を散らす原因になったりしたため、教室だけで授業を受けたいと述べました。また、オンライン活動では「グループの仲間が他のことに気を取られて、質問に答えてくれなかった」「遅れてログインする友達がいて、グループとして完全に活動できなかった」という不満も聞かれました。

3つの協働学習技法の中では、ナンバード・ヘッズ・トゥギャザーが最も生徒の関心を引きました。これは、誰が答えるかわからないという緊張感が、低い能力の生徒も真剣に話し合いに参加させる効果があったためと考えられます。実際、著者たちの観察によれば、他の方法では関心を示さなかった生徒たちも、この技法では積極的に参加していたそうです。

授業時間については、週5時間を十分と考える生徒が19名いました。教師の教授スキルや実施の効果、目標達成度については、いずれも5段階評価で4から5の高い評価が得られました。

なぜ効果があったのか―先行研究との比較

この研究結果は、ブレンド型学習が外国語の読解力に効果的であることを示した先行研究(Ghazizadeh and Fatemipour 2017、Kheirzadeh and Birgani 2018など)と一致しています。また、協働学習が読解力向上に寄与するという多くの研究(Mohammadi and Davarbina 2015、Momtaz and Garner 2010など)とも整合的です。

しかし興味深いのは、統制群もブレンド型学習を実施していたにもかかわらず、有意な改善が見られなかった点です。これは、単にオンラインと対面を組み合わせるだけでは不十分で、協働学習という教育学的な基盤が重要であることを示唆しています。

著者たちは、Graham(2021)の指摘を引用し、ブレンド型学習を単なる技術的な組み合わせとして扱うのではなく、教育学的な層をしっかりと設計することが学習効果に直接影響すると強調しています。

協働学習とブレンド型学習を組み合わせた研究は限られていますが、いくつかの先行研究があります。Hasanuddin et al.(2019)は、大学生の英語論文執筆スキルがブレンド型協働学習で向上したと報告しています。その理由として、学習への動機づけの向上、プロセスへの積極的な参加、仲間同士の支援と励ましを挙げています。本研究もこれと一致しています。

Jong(2016)は、高校の化学コースでブレンド型協働学習を実施し、成績が向上したことを報告しています。その背景として、Meyers and Jones(1993)が指摘したように、受動的な授業では生徒は40パーセントの時間しか注意を払っていないという問題があります。アクティブ・ブレンデッド・ラーニングは、生徒を学習に巻き込むことで、この問題を解決する可能性があります。

研究の限界と今後の課題

著者たちは、研究の限界を正直に認めています。まず、対象が52名の9年生に限られ、期間も6週間と短かったことです。より大規模で長期的な研究が必要でしょう。

また、本研究では3つの協働学習技法のみを使用しましたが、他にも様々な技法があります。それらを比較検討することで、どの方法が最も効果的かを明らかにできるかもしれません。

さらに、本研究は読解力のみに焦点を当てましたが、リスニング、スピーキング、ライティングなど他の言語スキルへの効果も検証する価値があります。

データ収集については、主に量的なデータ(テスト結果)に依存していました。質的なデータ(インタビューや観察記録など)をより充実させることで、なぜ効果があったのか、生徒たちの経験がどうだったのかをより深く理解できるでしょう。

技術面では、オンライン学習プラットフォームの使いやすさが課題として挙げられました。生徒がストレスなく使えるインターフェースの重要性が示唆されています。

日本の英語教育への示唆

この研究は、日本の英語教育にもいくつかの重要な示唆を与えてくれます。

第一に、読解力向上のためには、単に教材を与えるだけでなく、生徒同士が協力して学ぶ仕組みを作ることが有効だという点です。日本の教室でも、グループ活動を取り入れている例は増えていますが、それがいかに教育学的な基盤に基づいて設計されているかが問われます。

第二に、オンラインと対面の組み合わせ方です。コロナ禍を経て、多くの学校がオンライン授業の経験を持ちました。しかし、単に対面授業をオンラインに置き換えるだけでは効果が限定的であることが、本研究からも示唆されます。重要なのは、オンラインと対面それぞれの特性を生かし、協働的な活動をどう組み込むかです。

第三に、異質グループの効果です。日本の教室では、仲の良い友達同士でグループを作らせることがよくありますが、本研究の生徒の声にあったように、それが必ずしも学習に最適とは限りません。能力の異なる生徒を意図的に組み合わせることで、教え合いが促進される可能性があります。

第四に、生徒の主体的な参加を促す工夫です。ナンバード・ヘッズ・トゥギャザーのように、誰が答えるかわからない緊張感を作ることで、すべての生徒が真剣に参加するようになります。受動的な授業から脱却するための具体的な手法として参考になるでしょう。

ただし、日本とトルコでは教育文化や制度が異なります。トルコの公立高校で効果があった方法が、そのまま日本で通用するとは限りません。クラスサイズ、生徒の特性、教師の研修体制なども考慮する必要があります。

また、本研究の対象は中学3年生相当の生徒でしたが、日本では小学校から英語教育が始まっています。発達段階に応じた協働学習の在り方も検討課題です。

おわりに―教育手法の選択と実践

この研究が示しているのは、教育手法の選択が学習成果に大きく影響するという、ある意味では当たり前だが重要な事実です。同じ教材、同じ時間を使っても、どのように教えるかで結果は変わります。

著者たちは、アクティブ・ブレンデッド・ラーニングが外国語教育において有効であることを実証しました。その成功の鍵は、単に技術を導入するのではなく、コンピュータ支援協調学習という教育学的な基盤に基づいて設計したことにあります。

教育現場では、新しい手法や技術が次々と登場し、それらをどう取り入れるか判断を迫られます。本研究は、そうした判断の際に、表面的な新しさではなく、教育学的な根拠があるかどうかを見極めることの大切さを教えてくれます。

また、生徒たちの声に耳を傾けることの重要性も示されています。実験群の生徒たちは、協働学習によって語彙が増え、読解力が向上し、英語への苦手意識が減ったと感じていました。こうした主観的な変化も、客観的な成績向上と並んで重要な成果と言えるでしょう。

一方で、オンライン学習における技術的な問題や、グループメンバーの関与の差など、実践上の課題も明らかになりました。理想的な教育手法も、実際の教室では様々な制約に直面します。それらにどう対処するかが、教師の腕の見せ所でもあります。

KöseoğluとÇobanoğluの研究は、外国語教育の分野に貴重な実証的証拠を提供しました。今後、より大規模で長期的な研究によって、この手法の効果がさらに検証されることが期待されます。そして何より、世界中の教室で、生徒たちが仲間と協力しながら、楽しく効果的に外国語を学べる環境が広がることを願いたいものです。


Köseoğlu, B., & Ateş Çobanoğlu, A. (2025). Can active blended learning instruction enhance reading comprehension? Journal of Computer Assisted Learning, 41, Article e70066. https://doi.org/10.1111/jcal.70066

 

By 吉成 雄一郎

株式会社リンガポルタ代表取締役社長。東京電機大学教授、東海大学教授を経て現職。コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジ(英語教授法)、信州大学大学院工学研究科(情報工学)修了。専門は英語教授法、英語教育システム開発。 さまざまな英語学習書、英検、TOEIC 対策書、マルチメディア教材等を手がけてきた。英語eラーニングや英語関係の教材・コンテンツの研究開発も行う。全国の大学、短期大学、高専等で使われているeラーニングシステム「リンガポルタ」も開発した。最近ではAIによる新しい教育システムの開発にも着手している。

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