はじめに:英語を話すことへの恐れ
英語の授業で当てられたとき、心臓がバクバクして頭が真っ白になった経験はありませんか。正しく発音できているか不安で、クラスメートの前で話すのが怖い。そんな気持ちは、特に日本やインドネシアのような非英語圏の国では多くの学習者が共有する悩みです。この論文は、そうした「スピーキングへの不安」という感情的な壁を、テクノロジーの力で乗り越えられるかもしれないという、とても実践的な問いに取り組んでいます。
この研究”Effects of ASR-based websites on EFL learners’ vocabulary, speaking anxiety, and language enjoyment”を率いたのは、Radboud University NijmegenのMuzakki Bashoriらの研究チームです。Bashori氏はインドネシア出身で、自身も英語学習者としての経験を持ちながら、応用言語学とテクノロジーの橋渡しをする研究に取り組んでいます。共著者のRoeland van Hout氏は応用言語学と社会言語学の分野で長年活躍してきた教授であり、Helmer Strik氏とCatia Cucchiarini氏は音声処理とコンピューター支援言語学習(CALL)の専門家です。このチームは、単なる理論研究ではなく、実際の教室で使える実用的なツールの開発と評価に力を注いでいます。
研究の背景:インドネシアにおける英語教育の現実
この研究が行われたインドネシアでは、英語は国際的なコミュニケーションの要として中等教育で必修科目となっています。しかし、2020年のEducation Firstの調査によれば、インドネシアは英語能力が「低い」カテゴリーに分類されており、政府が長年努力しているにもかかわらず、英語を習得することは依然として大きな課題となっています。
この背景には、いくつかの現実的な問題があります。まず、多くの学生が語彙不足を抱えており、それが英語での表現力を制限しています。さらに、インドネシアのような「低資源環境」では、不安定なインターネット接続、不十分な技術サポート、適切なトレーニングの欠如、限られたコンピューター利用機会といった要因が、テクノロジーを活用した言語学習の実施を妨げています。まるで、せっかく新しい道具を手に入れても、それを使うための道路が整備されていない状態のようなものです。
研究の核心:認知と感情の両面からのアプローチ
この研究が特に興味深いのは、語彙学習という「認知的側面」と、スピーキング不安や言語学習の楽しさという「感情的側面」の両方を同時に測定している点です。これは、言語学習が単なる知識の詰め込みではなく、学習者の心理状態と深く結びついているという理解に基づいています。
たとえば、皆さんも経験があるかもしれませんが、緊張していると普段知っている単語すら出てこなくなることがあります。逆に、リラックスして楽しんでいるときは、学習内容がスッと頭に入ってくるものです。近年の研究では、外国語不安、特にスピーキング不安が学習成果を著しく損なうことが明らかになっています。TeimouriらやBotesらによる大規模なメタ分析でも、不安が言語習得の障害となることが確認されています。
一方で、ポジティブ心理学の影響を受けて、研究者たちは不安を減らすだけでなく、楽しさや喜びといったポジティブな感情を高めることの重要性にも注目し始めました。Dewaele and MacIntyreの先駆的な研究は、外国語学習における「楽しさ」が独立した重要な要素であり、単に不安の反対側にあるものではないことを示しました。
研究方法:232名の高校生と2つのウェブサイト
この研究では、インドネシアの職業高校の1年生309名が当初参加し、最終的に232名のデータが分析されました。参加者の大多数は男子生徒(222名)で、これは機械工学やメカトロニクスといった、伝統的に男子学生が多い専攻プログラムに起因しています。
研究チームは、参加者を3つのグループに分けました。実験グループA(67名)は「I Love Indonesia」(ILI)というウェブサイトを使用し、実験グループB(79名)は「NovoLearning」(NOVO)を使用しました。そして対照グループ(86名)は従来の授業を受けました。興味深いのは、研究チームが1つではなく2つの異なるウェブサイトを使用した点です。これは、特定のプラットフォームに依存した結果を避け、ASR技術そのものの効果をより一般的に検証するための賢明な選択でした。
ILIはBashori氏自身がパートナーと共同で開発したウェブサイトで、インドネシアの文化的要素を取り入れた設計になっています。一方、NOVOはRadboud Universityのスピンオフ企業が開発した商業製品で、以前の予備調査で354名のインドネシア大学生に対して効果を示していました。
両ウェブサイトには、5つの主要な学習活動が含まれていました。動画を見る(i-watch)、テキストを読む(i-read)、音声を聞く(i-hear)といった受容的スキルの活動と、発音練習(i-pronounce)と話す練習(i-speak)というASRベースの産出的スキルの活動です。ASR技術により、学生が単語を発音すると、システムがそれを認識して「正解」または「もう一度試してみて」というフィードバックを即座に返します。NOVOはより詳細な音声フィードバックを提供したのに対し、ILIはシンプルな正誤のフィードバックにとどまりました。
学習教材として選ばれたのは、西スマトラ地方の伝統的な民話「Malin Kundang」でした。これは息子が母親を見捨てて富を求めた結果、呪いによって石に変えられるという物語です。この選択は偶然ではありません。学生が文化的に親しみのある題材を使うことで、心理的な距離を縮め、より安心して学習に取り組めると考えられたのです。実際、参加者の70%が、馴染みのある地元の物語を使うことで、よりリラックスして不安が少なくなったと回答しています。
実験は約2週間にわたって実施され、合計6時間(360分)の学習時間が4つのセッションに分けられました。この期間設定は、国の英語教育シラバスに準拠したものでした。
測定方法:語彙テストと感情の定量化
研究チームは、参加者の語彙知識を測定するために、Malin Kundangの物語から選んだ40の英単語を対象としたテストを作成しました。この40語には、名詞14語(村、海賊、石など)、動詞11語(呪う、航海する、後悔するなど)、形容詞10語(裕福な、怒った、ぼろぼろのなど)、副詞5語(突然、幸運にもなど)が含まれていました。
語彙テストは3つのパートで構成されていました。第1パートは多肢選択式で、与えられた英単語の正しい意味を4つの選択肢から選ぶものです。第2パートは単語と意味のマッチング問題です。そして第3パートは、文脈に適した英単語を埋める産出型のテストでした。この3段階のアプローチにより、受容的な語彙知識だけでなく、実際に単語を使える能力まで測定しようとしました。
感情面の測定では、2つの質問票が使用されました。外国語スピーキング不安(FLSA)を測定する質問票には18の項目があり、例えば「英語の授業で話すとき、自分に自信が持てない」「準備なしに英語で話さなければならないとパニックになる」「他の学生が私より上手に英語を話すといつも感じる」といった文章に対して、5段階(強く反対、反対、どちらでもない、同意、強く同意)で答えます。
外国語学習の楽しさ(FLE)を測定する質問票には10の項目があり、「英語の授業が楽しい」「英語のクラスで自分の成果を誇りに思う」「英語を知っているのはかっこいい」「英語のクラスでたくさん笑う」といった文章に同様の5段階で答えます。
重要なのは、これらの測定がすべて介入の前後で実施されたことです。つまり、ウェブサイトを使った学習の効果を、具体的な数値の変化として捉えることができるのです。
主な発見:数字が語る効果
統計分析の結果は明確でした。語彙知識に関して、両実験グループ(ILIとNOVO)は対照グループを大きく上回る成績向上を示しました。対照グループの学生たちも従来の授業で同じ40語を学習しましたが、ASRベースのウェブサイトを使用したグループの方が、統計的に有意に高い学習効果を示したのです。
興味深いことに、NOVOグループの語彙スコアの向上はILIグループよりも若干高かったのですが、この差は統計的に有意ではありませんでした。つまり、両方のウェブサイトが同程度に効果的だったと言えます。実験後の追加質問では、146名の実験参加者のうち116名が、ILIまたはNOVOを使った学習が英語の語彙知識を向上させたと述べ、78%がASRベースの機能が語彙学習に役立ったと回答しました。
スピーキング不安に関しても、結果は顕著でした。対照グループではFLSAスコアにほとんど変化が見られなかったのに対し、ILIグループとNOVOグループでは不安レベルが大幅に低下しました。対照グループの変化量が0.053だったのに対し、ILIは0.642、NOVOは0.704でした。これは、ASR技術を使った練習が、学生たちの英語を話すことへの恐怖心を実際に和らげたことを示しています。
言語学習の楽しさについても同様のパターンが見られました。対照グループのFLEスコアはほとんど変化しなかった(0.052)のに対し、ILIグループは0.321、NOVOグループは0.203の向上を示しました。どちらの実験グループも対照グループより統計的に有意に高い楽しさの向上を経験したのです。
実験参加者の77%が、ASRベースの機能を使うことで、友人や教師、他の人々と話すのに比べて、英語を話す不安が軽減されたと感じていました。さらに印象的なのは、12名中11名の学生が、最初はウェブサイトで練習してから、その後で仲間や他の人と話す練習をしたいと述べた点です。その理由として、彼らは「人と話す前に準備して流暢になりたい(緊張や不安を避けるため)」「ウェブサイトが自信を高めてくれる」「ウェブサイトで発音を修正してもらえる」と説明しました。
認知と感情の関係:意外な発見
研究チームは、語彙知識、スピーキング不安、学習の楽しさの3つの要素の関係性も調べました。介入前には、これら3つの要素の間に強い相関関係は見られませんでした。唯一、スピーキング不安と学習の楽しさの間に小さな負の相関(相関係数-0.269)が見られただけでした。つまり、不安が高い人は楽しさが低い傾向がある、という常識的な関係です。
しかし、興味深い変化が起こりました。介入後、実験グループでは不安と楽しさの相関が大きく強まったのです。ILIグループでは相関係数が-0.137から-0.612へ、NOVOグループでは-0.217から-0.627へと変化しました。一方、対照グループではこのような変化は見られませんでした。
この変化は何を意味するのでしょうか。研究チームは、ウェブサイトを使った学習を通じて、学生たちが自分の感情により敏感になり、不安と楽しさについてより一貫した認識を持つようになったと解釈しています。まるで、これまでぼんやりとしか感じていなかった自分の感情に、名前と輪郭が与えられたような状態です。
また、この結果は、不安と楽しさが単純に反対の感情ではなく、独立した次元を持つという先行研究の主張を支持しています。つまり、不安を減らすことと楽しさを増やすことは、両方とも重要だということです。教師は、不安を軽減するだけでなく、積極的に楽しさを創造する環境づくりに力を入れるべきだという示唆が得られます。
学生と教師の声:数字の裏側にある物語
定量的なデータに加えて、研究チームは12名の学生と3名の英語教師にインタビューを行いました。これらの質的データは、数字だけでは見えてこない学習体験の豊かさを教えてくれます。
参加者NOVO03は「ウェブサイト(NOVO)で、まだ知らない語彙を前もって学べて、単語の発音方法も学べる」と述べました。参加者ILI01は「(ILIを使って)英語の単語を一つ一つ理解でき、その単語を使えるようになった」と語り、スピーキング練習がウェブから語彙を習得したことで自信を高めたとも述べています。
特に心を打つのは、参加者NOVO01の証言です。彼は当初、非常に高いスピーキング不安(平均スコア4.0)を示していましたが、NOVOを使った後、通常の教室環境でも不安が大幅に軽減されました。彼はこう述べています。「ポジティブな効果は、(英語を)話すときに緊張しなくなったことです。(NOVOを通じたスピーキング練習は)本当に(自信を)追加してくれて、例えば(通常の)教室での学習活動中、前に出てテキストを読むように言われたとき、緊張せず、できました」
別の参加者NOVO03は「NOVO に助けられて、今は英語が好きになった」と短く、しかし力強く語っています。参加者NOVO04は、間違えることへの恐怖が減ったと述べました。なぜなら、質問を繰り返すことができたからです。これは、人間の教師や仲間の前では難しい、テクノロジーならではの利点と言えます。
しかし、批判的な意見も聞かれました。参加者ILI02は、ILIのスピーキング機能の一つ(i-speak)がうまく動作しないと指摘しました。「それ(i-speak)は難しい」と。参加者ILI03も、自分の音声が正しく認識されないことがあると不満を述べました。参加者NOVO01も「話すとき、(時々)私はすでに正しく単語を話したり発音したりしているのに、システムが(時々)認識に失敗したり、間違ったフィードバックをくれたりする」と述べています。
これらの技術的な問題は、ASR技術がまだ完璧ではないことを示しています。特に、非ネイティブスピーカーの発音を認識する精度には改善の余地があります。しかし、興味深いことに、これらの不満を述べた学生たちでさえ、全体としてはウェブサイトを肯定的に評価していました。推奨度を5点満点で尋ねたところ、両ウェブサイトとも平均4.58という高いスコアを獲得しました。
教師たちの視点も貴重です。3名の英語教師全員が、ウェブサイトのいくつかの機能を試し、ASRベースのウェブサイトが学生の語彙学習を促進できることに同意しました。教師T01は「(ASR技術は)学生の語彙習得を加速させるのに本当に役立つ」と述べています。教師T02とT03は、ASR技術が学生が単語を正しく発音する方法を学ぶのにも役立つと述べました。
ただし、教師T01は、Androidベースのアプリケーションプログラムを好むとも述べ、それは学校と教師によって監視され、安定したインターネット接続でサポートされ、単語の綴りと発音、単語の意味、品詞を示すべきだと提案しました。これは、現場の教師ならではの実践的な要求と言えます。
研究の意義と限界:何がわかり、何が課題として残ったか
この研究の最も重要な貢献は、ASR技術が単なる技術的な新奇性ではなく、実際の教育現場で測定可能な効果をもたらすことを示した点です。特に、認知的側面(語彙知識)と感情的側面(不安と楽しさ)の両方で効果があったことは、テクノロジーが包括的な言語学習支援ツールとなりうることを示唆しています。
また、2つの異なるウェブサイトで同様の効果が見られたことは、結果が特定のプラットフォームに依存していないことを示しており、研究の一般化可能性を高めています。さらに、定量的データと定性的データを組み合わせた混合研究法により、統計的な傾向だけでなく、学習者の生きた経験を捉えることができました。
インドネシアという特定の文化的・教育的文脈での研究であることも重要です。先進国での研究結果を途上国にそのまま当てはめることはできません。この研究は、限られたリソースの環境でもテクノロジーベースの学習が効果的でありうることを示しました。
しかし、研究チームも認めているように、いくつかの限界があります。まず、参加者の性別分布が極端に偏っていました(男子222名、女子10名)。これは研究対象となった職業高校の専攻プログラムの性質によるものですが、結果の一般化には注意が必要です。
また、介入期間が約2週間と比較的短かったことも限界です。この期間で見られた効果が長期的に持続するかどうかはわかりません。語彙の定着や不安の軽減が一時的なものである可能性もあります。
さらに重要な方法論的な問題として、研究チームが指摘しているのは、ASR技術単独の効果を分離して測定できていないという点です。実験では、ASR機能(i-pronounceとi-speak)だけでなく、動画視聴、テキスト読解、音声聴取といった非ASR機能も含まれていました。これは、学校のシラバスに従い、受容的スキルから産出的スキルへという論理的な順序を尊重するための選択でしたが、どの要素が最も効果的だったのかを特定することは困難です。
また、語彙テストが筆記形式だったことも議論の余地があります。研究チームも認めているように、スピーキング不安と語彙知識の関係をより深く理解するには、音声による語彙テストが必要だったかもしれません。
教育現場への示唆:理論から実践へ
この研究から、教育実践にとってどのような教訓が得られるでしょうか。
第一に、テクノロジーは人間の教師を置き換えるものではなく、補完するものとして機能しうるということです。学生たちが最初にウェブサイトで練習してから人と話したいと述べたことは示唆的です。これは、段階的な学習アプローチの価値を示しています。安全な環境で基礎を固めてから、より挑戦的な対人コミュニケーションに進むというステップです。
第二に、文化的に親しみのある題材を使うことの重要性です。Malin Kundangという地元の民話を使ったことで、学生たちはより安心して学習に取り組めました。これは、外国語学習を学習者の日常生活や文化的アイデンティティと結びつけることの価値を示しています。まるで、見知らぬ土地を旅するときに、時々故郷の匂いがする場所を見つけるような安心感を提供するのです。
第三に、感情面への配慮の必要性です。語彙を増やすだけでなく、学習の楽しさを高め、不安を軽減することが、包括的な言語教育には不可欠です。これは特に、スピーキング不安が高いことで知られる東アジアや東南アジアの文化圏では重要です。
第四に、テクノロジーの限界を認識し、技術的な問題に対処する必要性です。学生たちが指摘した音声認識の不正確さは、ASR技術がまだ発展途上にあることを示しています。教育現場でこうしたツールを導入する際には、技術的なサポート体制を整え、学生や教師がフラストレーションを感じないようにする配慮が必要です。
今後の研究への道筋:残された問いかけ
この研究は多くの扉を開きましたが、同時に新たな問いも提起しています。
まず、長期的な効果の検証が必要です。6時間の介入で見られた効果が、数ヶ月後、1年後にも持続するのでしょうか。語彙の定着率や、不安レベルの変化の持続性を追跡する縦断的研究が求められます。
次に、どの要素が最も効果的かを特定する必要があります。ASR機能だけの効果を測定するための、より統制された実験デザインが考えられます。例えば、ASRありのグループとなしのグループを比較したり、異なる種類のフィードバック(シンプルな正誤フィードバック対詳細な音声学的フィードバック)の効果を比較したりすることができます。
また、この研究ではほとんど扱われなかった発音と流暢さの側面も重要です。語彙知識の向上は確認されましたが、実際のスピーキングスキル(発音の正確さ、流暢さ、表現の豊かさなど)がどの程度向上したのかは明らかではありません。
さらに、異なる学習者層での効果を検証する必要があります。この研究は特定の職業高校の、特定の専攻プログラムの、主に男子学生を対象としていました。普通高校の学生や、より年齢の高い学習者、女子学生の割合が高いグループでも同様の効果が見られるでしょうか。
個人差の影響も興味深いテーマです。どのような性格特性や学習スタイルを持つ学生がASRベースの学習から最も恩恵を受けるのか。内向的な学生と外向的な学生で効果に違いはあるのか。こうした問いに答えることで、よりパーソナライズされた学習アプローチが可能になるかもしれません。
技術と人間性の交差点で:この研究が投げかける大きな問い
より広い視点から見ると、この研究は教育におけるテクノロジーの役割について根本的な問いを投げかけています。
一つは、人間的な要素をどこまで自動化できるか、あるいは自動化すべきかという問題です。言語学習、特に話すことの学習は、本質的に社会的な活動です。コミュニケーションは人と人との間で起こるものであり、そこには文化的なニュアンス、感情の交流、予測不可能な展開があります。コンピューターとの練習がいくら効果的でも、それは最終的には人間とのコミュニケーションへの架け橋に過ぎません。
同時に、この研究は、テクノロジーが人間の教師にはできない形で学習者を支援できることも示しています。判断なしに何度でも間違えられる環境、自分のペースで進められる柔軟性、即座のフィードバック、そして最も重要なのは、失敗への恐れを軽減できることです。これは、教師が30人や40人の学生を相手にする通常の教室では実現困難なことです。
また、この研究は、感情と学習の関係について再考を促します。長い間、教育は主に認知的なプロセスとして扱われてきました。知識を伝達し、スキルを訓練する。しかし、学習者は感情を持つ人間であり、不安や楽しさといった感情が学習成果に大きく影響します。効果的な教育は、頭だけでなく心にも働きかけなければならないのです。
さらに、この研究は、グローバル化する世界における文化的アイデンティティの問題にも触れています。英語を学ぶことは、しばしば西洋文化の価値観や物語を学ぶことと結びついてきました。しかし、この研究が示すように、学習者自身の文化的背景を尊重し、それを学習プロセスに組み込むことで、より効果的で意味のある学習が可能になります。英語は国際語ですが、それを学ぶプロセスは文化的に中立である必要はない、いや、むしろそうであってはならないのかもしれません。
結びに:小さな一歩が示す可能性
この研究は、インドネシアの一つの職業高校で、2週間という限られた期間に行われた、比較的小規模な介入研究です。しかし、その意義は研究規模をはるかに超えています。
それは、テクノロジーが単なる付加的なツールではなく、言語学習の本質的な課題、つまり学習者の不安を軽減し、楽しさを高めながら、実際のスキル向上を達成するという課題に取り組む上で、重要な役割を果たしうることを示しています。
同時に、この研究は謙虚さも示しています。技術的な問題、方法論的な限界、一般化可能性への疑問など、研究チームは自らの研究の制約を率直に認めています。これは、科学的誠実性の表れであり、また、この分野にはまだ多くの探究すべき領域が残されていることを示しています。
232名のインドネシアの高校生が、コンピューターと英語で話す練習をし、その過程で少しずつ自信をつけ、不安を和らげ、学習を楽しむようになった。この小さな、しかし確かな変化が、より大きな変革の可能性を示唆しています。それは、テクノロジーと教育、認知と感情、グローバルな言語とローカルな文化が調和した、新しい学習の形です。
完璧な解決策はまだ遠いかもしれません。しかし、Bashoriらの研究は、その方向への確かな一歩を踏み出しています。そして、教室で、コンピューターの前で、少しずつ英語を話すことへの恐れを克服していく学生たちの姿は、言語学習の本質が何であるかを私たちに思い出させてくれます。それは、知識の蓄積だけでなく、自信の構築であり、恐れの克服であり、そして何より、新しい世界への扉を開く喜びの発見なのです。
Bashori, M., van Hout, R. W. N. M., Strik, H., & Cucchiarini, C. (2021). Effects of ASR-based websites on EFL learners’ vocabulary, speaking anxiety, and language enjoyment. System, 99, Article 102496. https://doi.org/10.1016/j.system.2021.102496